身代金、建前と本音
シリア入国後に行方不明になり、解放情報が伝えられたフリージャーナリストの安田純平さんについて、時事通信は、在英のシリア人権監視団が23日、解放に際し「多額の身代金が支払われた」と主張していると伝えた。
信ぴょう性は不明としながらも、人権監視団のアブドルラフマン代表が「身代金は日本ではなく、カタールが支払った。記者の生存や解放に尽力したという姿勢を国際的にアピールするためだ」との見方を付け足している。
さらに、実際の引き渡しは4日ほど前にシリア領内でトルコの仲介により、トルコと関係の深い非シリア人武装組織に引き渡されたという。
日本政府は、テロリストに身代金を払わないというのが公式の立場で、菅官房長官がTV画面でこのコメントを何度も繰り返している。
時事通信の報道が真実であるとすれば、日本外交もなかなかやるなといった感じになる。北朝鮮関連の対応とは雲泥の差だ。つまり本音と建て前を使い分ける老練さを手にしており、先週書いた「幼稚はやめました」に近づいたと考えていいのだろう。
前述の報道に出てくる国名で注目しなければならないのが、カタールとトルコだ。
カタールはペルシャ湾岸の小国だが独立国としての気位が高く、アラブ情報の発信元として権威のある通信社・アルジャジーラが本拠を置く。日本は、石油の輸入・真珠の栽培などを通じて友好関係が続いている国だ。
また、トルコの日本に対する印象は、1890年(明治23年)のトルコ軍艦の遭難を和歌山・串本の住民が身を挺して救援した縁がいまだに忘れられていないという親密さに支えられている。
その両国は、シリア情勢がイスラエルとのからみでイランを支持しているとアメリカ(トランプ)側から見られ、敵対関係にある。シーア派と戦争も辞さないサウジは、カタールと断交状態だ。日本もそれに同調するよう持ち掛けられているが、安易にそれに乗るようなことはしていない。
多分、異なる名目で日本から両国に資金提供を約束し、またはその増額を持ち掛けていたしとても不思議はない。「テロリストに身代金を支払うことはない」――これも見識でり、そこは、あ・うんの呼吸である。
2014年起きた後藤健二氏人質事件と大きく違うのは、政府がトルコに仲介を依存すると条件交渉になるとして、もっぱらヨルダンに救出の本拠を置いたことだ。この時は「建前」が優先して、救出に全力を尽くしたとはいい難い結果を生んだ。
国民の生命を守るのが国の役割という安倍首相の口ぐせにいつわりがないとすれば、無事救出が「本音」の部分になる。
内政ではあまり使ってほしくないが、外交では本音と建て前の微妙なバランスの中で使い分ける、つまり忖度が必要である。優秀といわれる外務官僚には無理な注文かもしれないが、本音の文書は破棄し、建前の文書だけに改ざんすることではないことだけはお断りしておく。
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