中近東

2017年6月15日 (木)

「カタール」に落ちた

カタールがサウジやUAEなどの湾岸諸国、さらにエジプトなどから国交断絶・経済封鎖を受け、食料などをイランからの空輸に頼って食いつないでいるという報道に驚いた。なんと気に入らない国をテロ国家と呼ぶアメリカと同じレッテルの貼り方だ。

このブログ、11年ほど書き続けたが、その中で「カタール」という国名をブログ内で検索してみると7回ほどあった。それは、アラブで唯一有力な通信社「アルジャジーラ」が籍を置いているということと、湾岸諸国の1国であること以外に、その国を紹介したことが、1回ある。それも現地を訪れた友人の話にあった短いもので、下記のように平和でメルヘンチックな姿である。

(サウジの石油積み出し港の)すぐ近くに、小さな半島だがカタールという王国があります。やはり、石油のおかげで有り余るほどのお金があります。使い道に困ってジェット戦闘機を買いました。王さまはどう使っていいのかわからないので、王妃や王子たちを屋上に集め、アクロバット飛行を見せ楽しんでいるそうです。

ここがどうして、と思うのだが、最近イエメンなどでイスラム・スンニ派とイランを中心とするシーア派の抗争が血を血で洗う厳しい間柄になり、カタールはもともとシーア派住民が多くスンニ派による反シーア派同盟に加わらないから、ということらしい。

宗派の違いは今に始まったことではない。スンニ派の盟主、サウジはシーア派であってもイランからのメッカ巡礼団を差別することなく受け入れてきた。両派の違いを際だたせるようになったのは、イラクやシリアの内戦に目途がつかなくなったここ数年のことと思うが理由はよく分からない。

パレスチナの帰属をめぐってイスラエルとエジプトなど周辺イスラム国が泥沼戦争を繰り返していたが、大国エジプトが攻めきれず結局妥協の道をたどり始めた頃、イランでホメイニ革命が起きて王政が転覆した。

「イスラム原理主義過激派」といえば現在はISだが、当時おそれられていたのはホメイニの神権政治のイランである。軍事的に弱体なアラビア半島諸国は不安を感じ、1981年に「湾岸協力会議」を作った。サウジ、バーレーン、オマーン、カタール、クエート、UAEの6カ国である。

すべてが王国であるが、当初はイラクも入いる予定が、イラン・イラク戦争、俗に言うイライラ戦争が始まったので加わらず、似たもの同士だけでまとまりもよかった。湾岸戦争では軍事協力もしている。

両宗派の対立激化は、イラク・シリアの内戦に関係があるのではなかろうか。ISはスンニ派である。イラクはアメリカが撤退する前に選挙で作った政権だがシーア派が主体である。人口でスンニ派を上回ることから予測されていたことだ。

アメリカに攻め殺されたサダム・フセインはスンニ派で軍部も同派で固めていたが、独裁者であるだけに宗派、民族間で不公平・不満の起きないような配慮があったのだろう。同国民にとってもっとも幸福な時期だったともいえる。

今、ISを取り仕切っているのは、その当時の軍部残党だとされており、アフガニスタンを根拠としたアルカイーダ系の過激主義も取り込んでいる。支配地域をシリアにものばしたが、シリアも両派がありアサド政権もシーア派に近いとされる。IS掃討にイラン革命軍が関与しており、イランを敵視しているアメリカのトランプ政権や、アサドを支援するロシアの存在など、複雑に絡み合っている。

結局、「ISには負けてほしいが、イランが勝って強くなりすぎるともっと困る」という現実があるのではないか。カタールはとんでもないところでとばっちりを食らっているのだ。

中東問題とは、長い間パレスチナにおけるシオニズムとムスリム、つまりユダヤ教とイスラム教の衝突だった。今その影は薄い。変わってテロと難民が問題になる。しかしこれも中東というより問題の中心は、旧植民地の貧困や移民受け入れ国側に移っている。

そもそもの発端が、大国の介入や軍事・武器援助にあり、それでは解決できないということをオバマは痛いほど知った。その点、プーチンはイランやアサド政権を巧みに利用し、誘導して国益に反しないようなやり方をとっている。

サウジ政府は今日の報道で、「カタールとの交通は完全封鎖ではない」などと、逃げ道を作っている。語る(カタール)に落ちたというべきか。日本では共謀罪の集中審議を省略して参院を強行突破する政府の方針が大ニュース。

明るいニュースといえば、パンダの赤ちゃん誕生だがそれも隅に追いやられ気味。そうだパンダの名前は「デンデン」がいい。見物の帰りは、藪そばでもり、かけを注文しよう。

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2016年12月31日 (土)

テロの年

 明日から2017年。統計上どうなるのかはわからないが今年は、毎日のように世界各地からテロ発生、のニュースが飛び込んでくる不安定な年だった。直近のものはこれだ。

[北京 29日 ロイター]  国営メディアの29日の報道によると、中国の新疆ウイグル自治区で、3人が乗った車が政府施設に突っ込み、爆破装置を起爆させた。警備員1人と政府関係者1人が死亡、車に乗っていた3人全員が射殺された。

自治区政府はニュースサイトで、事件は墨玉県で28日午後5時(0900GMT)ごろ発生した、と発表した。新華社は事件を「テロリストによる攻撃」と報道、他に3人の負傷者が出た、と報じている。

 新疆はイスラム教徒が多く、自治区になっている。今や、世界は「テロ」→「イスラム」→「悪」という概念が定着しかかっている。アメリカのトランプの発想や西欧政治の右傾化は、イスラム差別に対する抵抗をなくしてしまう寸前にさしかかっている。

 イスラム教徒がからんでいれば、すべて「テロ」でくくり、「悪」としてしまうのは、はなはだ危険であるばかりではなく、これからの世界平和構築にとって、取り返しのつかない事態を招くことにもなりかねない。

 上の中国の場合は、中国共産党独裁に対する自治区の抵抗運動である。アルカイダやISと直接の関係は考えられず、その指示で動いているものではない。その前は、トルコでロシアの大使が背後からピストルで撃たれ死亡した。シリア空爆への抗議と見られるが、イスラム教徒の「グローバル・ジハード」、つまり、一般に恐れられている無差別「テロ」とは全く違う。

 これらは、言葉の上ではテロリズムである。韓国人による3・1独立運動や、安重根による伊藤博文暗殺は、韓国から見れば英雄的行為だが、これを「テロ」と呼んだら韓国はきっと怒るだろう。

 今年起きた事件で、多くの人の念頭にあるのは、ヨーロッパのフランス・ベルギー・ドイツなどで、相次いで発生した市街地における一般市民の大量殺傷事件である。

 ISが関与しているとされるが、犯人はアラブ人でない。チュニジアなどアフリカ出身者が多く中東に縁の無い者もいる。ISの指示を受けた形跡がなく、ISが関与しているような犯行声明がでるが、内容が報道に沿ったもので、加害者の誤認をそのまま使用するなど、本当は関係がない。

 ISには旧バース党軍人などが参加しており、組織的統治がややみられるものの、国際法上の国家のような仕組みが機能しているわけではない。あるのは、ムスリム共有の戒律コーランとカリフ(宗教指導者)という個人中心の世界である。

 したがって、声明とか宣言などと言っても、はっきり言っていい加減なものだ。ISに先行したアルカイダは、ウサマビンラディンが創設したものだが、ジハードの対象としているのは、アメリカ、イギリス、イスラエルなどを十字軍と称して限定していた。

 ここには、フランス・ドイツなど、イラク戦争で多国籍軍に加わらなかった国は含まれず、十字軍とは縁の無い日本が入っている。イラクPKO参加が関係しているかもしれない。なお、「十字軍」や「戦争」など、文明や宗教の衝突を思わせる発言は、9・11テロを受けたブッシュ大統領が最初である。

「(イスラム世界に対して)十字軍戦争を宣言し、国際社会に対テロ戦争の同盟を呼びかけ、明白な戦争をしなければならなくなった」(川上泰徳『「イスラム国」はテロの元凶ではない』所載)

 以上見てきたように、イスラムといっても多様・複雑で、シーア派・スンニ派間のテロの応酬が激化しているほか、スンニ派の中でも強硬派、世俗派、原理主義過激派、同穏健派や国をもたないクルド族との対立、各国に散在する少数民族の反抗など、個別に見て行かなければならない。さらに強調しておきたいことは、ほとんどのイスラム教徒は、平穏に暮らしていることである。

 その中でISが国境を越え世界的規模の聖戦、つまりグローバル・ジハードを唱え、世界の若い兵士を糾合して世界制覇のウンマ(イスラム共同体)を目指そうとする指針を示した。彼らも一般市民の殺傷は、いいこととしていない。しかし、空爆などで受けるイスラム教徒市民の被害とくらべれば、「目には目を」のイスラム法上決して行き過ぎだとは考えていないのだ。

 過激派組織として恐れられていたアルカイダも当初は、ユダヤを支援するアメリカと戦うという目標がはっきりしていた。しかし、エジプトやサウジなどの国家権力は乗ってくる気配がなく、アラブの春もあってイスラムはばらばらになった。アメリカの中東介入は見事に失敗し、オバマはイスラエルの横暴をけん制、イランとも妥協の道をさぐる事態になった。

 そこへ、複雑で戦火がたえなかったシリアで、ロシアがアサド政権立て直しのため介入し、トルコと組んでISやアルカイダ系をのぞく反政府組織との停戦を実現させて、ISの分断や後退にめどが立ちそうである。反アサドだったアメリカが、方針転換してロシアと歩調を合わせられれば、中東に平和をもたらすかすかな手がかりが期待できるかもしれない。

 まあ、実現しそうもない楽観論だが、塾頭の初夢としておこう。

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2016年11月16日 (水)

かけつけ警護、やっと社説に

 昨日の閣議決定が終わってからやっと朝・毎・読の3大紙に社説が載った。読売だけが政府に賛成、日経・産経にはなく、東京は扱っているがいずれも批判的論調だ。当塾は、先月から前回まで4回(下記)取り上げその違憲性や、南スーダーンの実態や、戦争を知らない人の空論を指摘してきた。

安倍から逃げるなら、今
続・安倍から逃げるなら、今
安倍安保、空中分解寸前
安倍から逃げられない公明党

 今日の毎日新聞は、1面コラムの「余禄」でも取り上げているが、戦争に関する聖書ともいうべきクラウゼビッツの「戦争論」をひいて、戦場の不確実性を説いている。つまりナポレオン時代から戦場に出た人なら誰でも知っている常識なのだ。

 その常識すら無視する「一億平和ぼけ状況」が今、日本を覆っている。

13年前の映画「フォッグ・オブ・ウォー」はベトナム戦争当時の米国防長官マクナマラの足跡を当人の告白でたどる記録映像だった。「どんな賢明な指導者も戦争になれば『霧』の中に投げ込まれたように混乱する」はそこでの彼の言葉だ▲題名の「戦争の霧」はプロイセンの軍人クラウゼビッツが「戦争論」で戦場の不確実性を表すのに用いた表現だった。乏しい情報にもとづく軍事行動は霧の中にいるようなもので、次々に予想外の事態に見舞われるという▲戦闘一般がそうであるうえ、武装勢力やテロリストも入り乱れる現代の紛争である。先行きに「霧」のたちこめる紛争は絶えないが、部族間抗争によって国連報告書で「カオス(混沌(こんとん))」と評された南スーダン情勢である▲政府は南スーダンで国連平和維持活動(PKO)に参加する自衛隊に安全保障関連法にもとづく「駆け付け警護」の任務を新たに与える計画を決めた。国連職員などが暴徒に襲われた場合に自衛隊が救援できるようになるが、実施は現地の部隊長の判断に委ねられる▲「カオス」の真意について日本政府は国連から「放置すればという意味で、現状ではない」との回答を得たという。また自衛隊の活動地の首都は安定しているとも説明する。だが戦闘を衝突と言い換え、いまだ内戦状態でないという認識で紛争の霧に対処できるのか(以下略)

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2016年11月15日 (火)

安倍から逃げられない公明党

 政府は今朝(15日)の閣議で、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に関し、今年3月施行された安全保障関連法に基づく新任務「駆け付け警護」を盛り込んだ実施計画の変更を閣議決定した。

 南スーダンに関連し、「安倍から逃げるなら、今」を書いたのは先月26日と30日、「安倍安保、空中分解寸前」が今月3日である。南スーダンのPKOにはアメリカは参加していない。現在、政府軍と前副大統領率いる反政府軍に分かれ、内戦状態にある。

 中国から派遣された隊員も2名戦死している。また最近起きた国連関連民間施設襲撃事件は、政府軍の仕業で、政府軍兵士は「国連は敵」と明言している。こんな矛盾だらけな同地PKOの最高指揮官を務めるケニアは、国連から事件の責任を取らされたことに憤慨し、撤退を決めた。

 そんな事実がありながら、公明党の閣僚は賛成のサインをした。関連法の強行採決の際は、公明党がはやる安倍政権にさまざまな条件を付けさせたことで、当時それなりの存在価値はあったのかな、と思ったものの、これで解消した。

 今日は、公明党・創価学会凋落のはじめの日になるのだろう。

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2016年10月26日 (水)

安倍から逃げるなら、今

 当塾では、南スーダンへの自衛隊PKO派遣についてこれまで断片的に取り上げてきた。韓国軍が自衛隊に武器を借りにきたとか、稲田防衛相が信念としてきた終戦の日の靖国参拝しない理由づけなのか、その日は同地へ出張、わずか7時間滞在しただけで引き上げてきた。それをを国会質疑で辻本清美議員に追及され、ベソをかいたなどである。

 安倍首相は、この部隊に「かけつけ警護」など新安保法制への足掛かりを作りたいので撤退させる意思はみじんもない。稲田防衛相は11日の参院予算委員会で、自衛隊が国連平和維持活動(PKO)に従事する南スーダン・ジュバを視察した感想として、「南スーダン政府の閣僚をはじめ、国連特別代表とも意見交換し、部隊視察やジュバのさまざまな所を視察した。(その結果)ジュバの中の状況は落ち着いているという認識をした」と述べた。

 稲田の南スーダン視察は、あらかじめこの結論が決まっていて無理やり首相から強制されたお出かけであったことは、容易に想像が出いる。ベソをかくのもごもっともである。そこへこんなニュースも飛び込んできた。

毎日新聞 10月25日(火)21時32分配信
 【ヨハネスブルク小泉大士】南スーダンの首都ジュバで今年7月、政府軍と武装勢力との大規模な衝突が発生した際、国連の平和維持活動(PKO)部隊が、政府軍兵士の襲撃を受けた外国人援助関係者らの救出要請に応じなかったことが、米NGOの報告書で判明した。日本政府がPKOに参加する陸上自衛隊部隊への任務付与を検討する「駆け付け警護」の典型例だが、政府軍相手に戦闘となることを懸念して出動しなかったとみられ、現場での任務遂行の難しさが改めて浮き彫りになった。

 問題の襲撃は政府軍とマシャール前第1副大統領派の部隊の戦闘が激化していた7月11日午後に発生。政府軍の兵士約80~100人が、外国人援助関係者らが滞在していたジュバ市内の宿泊施設に侵入した。

 「紛争地域民間人センター」(米ワシントン)の報告書によると、兵士たちは少なくとも5人の外国人援助関係者の女性を集団でレイプしたほか多数の人々を殴打するなどし、南スーダン人記者1人が、前副大統領の出身民族ヌエル人であることを理由に射殺された。この間、援助関係者らは、国連南スーダン派遣団(UNMISS)や米国など各国大使館に何度も電話などで救助を要請。UNMISS司令部は中国やエチオピアなどのPKO部隊に出動を求めたが、拒否されたという。

 ちなみに、南スーダン国連平和維持活動に部隊を展開している国は14か国。日本以外の先進国で米国やEC諸国の参加は無く、旧宗主国の英国のみである。治安維持ができないのは何とも残念であるが、国連自体政府軍から敵視されている。

 現地のどの勢力に肩入れしてもうらまれ続ける。そんなことは、イラクやシリアで充分証明されている。元世界の警察官すら敬遠しているのだ。冷たいようだが、資金と武器の供給を絶って現地で解決してもらうしかない。

 ここは、日米安保と直接関係がなく集団的自衛権の適用はできない。かりに、トラブルを生じて引くに引けないような状態になったら、安倍首相の国賊的失政がもたらしたものとなるだろう。自民・公明議員のうち、賢い人は今が逃げ出すチャンスであると信ずる。

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2016年10月25日 (火)

海賊、人質かかえて5年

 地中海からスエズ運河を通り、抜けたところが紅海で、アラビア半島とアフリカの間にある。アフリカ側は、北からエジプト、スーダン、そしてつい最近稲田防衛大臣が行った南スーダン、エチオピア、シブチと続き最後のインド洋の出口がソマリアで、内戦状態のイエメンが対岸にあり、世界で最も危ない地域に上げられる。

 そのソマリアがひさびさのニュースになっているが、ホルムズ海峡と違って日本ではあまり取り上げられない。

(CNN) アフリカ東部のセイシェル沖で海賊に船を乗っ取られ、人質にされていた船員26人が約5年ぶりに解放されたことが24日までに分かった。解放交渉を仲介した海賊問題対策の非営利組織(NPO)OBPの関係者が明らかにした。

OBPによると、オマーン船籍の漁船は2012年3月に乗っ取られ、乗員29人のうち1人は襲撃を受けた際に死亡、2人は拘束されている間に病死した。

人質は全員が男性で、カンボジア、中国、インドネシア、フィリピン、台湾、ベトナムの国籍だった。

解放されたのは22日で、国連機を使って出身国に帰国させる。OBPは身代金が支払われたのかどうかなど、人質解放の詳しい条件を明らかにしていない。

 ソマリア沖の海賊が話題になり始めてほぼ10年近くになる。各国商船の往来の激しいところである。武装海賊に襲われ、拿捕されるという事件が次々に起きた。そのため、アメリカをはじめ近海の警戒を厳重にし、商船に軍艦を付き添わせるなどした。

 この流れを受けて日本政府も海上自衛隊のソマリア沖への派遣を検討し始め、2009年3月13日、ソマリア沖・アデン湾における海賊行為対処のための海上警備行動を発令した。翌3月14日、海上自衛隊の護衛艦2隻をソマリアに向けて出航させた。

 そういった海賊の犠牲者が、5年も経て解放されたというのだから驚きである。もっとも、このあたりの海賊は、大昔から生活手段を得る為の商売であった。それは、陸上で隊商を襲う盗賊も同じで、商人にとっては通行税をとられるのと同じである。

 それは、ここに限ったことではない。日本にも瀬戸内海専門の村上水軍や、五島列島に根拠を置く、倭寇と呼ばれた存在もあった。その特徴は、いずれも国家の支配・統制下になく、政治的コントロールが利かないということである。

 この地帯は、西欧が植民地支配するまでは、長い間国家も国境も存在せず、部族単位で必要な行動をとっていただけで、特殊とはいえない現象だ。

 したがって、海賊が拉致した人員は商品として売られるとか身代金と交換するとか、然るべき利用方法で処置されなければ意味がない。戦争捕虜ではないし犯罪人でもない。5年間どのような境遇にあり待遇されていたか知りたいところだが、多分明らかにはされないだろう。

 アラブやアフリカに発生するさまざまな内紛やISなどの行動も、こういった前近代性を加味して動きを見ていかなければ、わからないことが多いのだ。

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2016年10月 7日 (金)

米・ロが手を引くしかない

 ひさびさのベタ記事引用である。イラクやシリアで誤爆とか何人死んだなどというような記事は毎日のようにある。だから以下のような記事は、ベタ記事扱いになるのだろう。全紙面に目を通した後で、この記事をさがそうとしたところ、なかなか見つからなかったほどだ。

【カイロ秋山信一】イラク北部ニナワ県で5日、政府軍の過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦に参加するイスラム教スンニ派民兵の拠点が空爆され、少なくとも20人が死亡した。イラクメディアが報じた。米軍主導の有志国連合やイラク軍による誤爆の可能性が高く、米軍などが調査を始めた。報道によると、ISの最大拠点モスルの約65キロ南にあるカイヤラ郊外の村で5日未明、スンニ派部族の民兵組織の拠点が空爆された。
(毎日新聞10/7東京朝刊)

 このベタ記事には、いくつかのキーワードがちりばめられている。①(イラク)政府軍、②イスラム国(IS)③スンニ派民兵、④米軍主導の有志国連合である。そのほか、隣国シリアでは、アサド政権、ロシア、トルコ、ヒズボラ・クルド族・反アサド勢力、ヌスラ戦線などが登場し、ほかに目立たないがイラン義勇軍もある。

 ISはイラク・シリアの国境を無視して活動しており、これが混迷と外部からは理解できない複雑さを示している。無責任な言い方だが、現地でさえ何が敵で誰が味方か区別できているのだろうかという気がする。

 上述のキーワードをさらに展開すると、①のイラク政府はシーア派主導の政府で、アメリカが独裁者フセインを倒して選挙で選んだという成立の過程からアメリカが支持する。ただし弱体で国内を統制できず、旧フセイン派の軍人・官僚が加わっているというISを勃興させてしまった。

 誤爆により被害を受けたという③のスンニ派民兵の正体がわからない。最後の段落に「スンニ派部族の民兵組織の拠点が」と書いてある。すると、その部族が住んでいた「村」ということになる。イラク政府にとっては、対敵するスンニ派原理主義ISの近くに居ながら、それになびかない貴重な同志のわけだ。

 最大の支援をするためマークすることはあつても、誤爆という事態は起こり得ないはずだ。④の米軍主導の有志国連合といっても、情報力のない有志国連合が行動を起こすはずがなく、AI(人工知能)の誤作動か故意なのだろうか。

 シリアでも誤爆が米ロの決定的な不信感を増幅した。米ロはいずれにしてもこの地域で住民に感謝されたり信頼されることはないだろう。介入をし続けることにより、戦火の絶えることはなく、両国の国益を損じ続けることになる。

 内戦から手を引く勇気を持たないことこそ”弱腰”であり、”無能”であることを、両国民ともに早く認識すべきだ。ましては、集団的自衛権などをかざして、地球の裏側まで出しゃばろうというどこかの国は、正気の沙汰ではない。

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2016年7月20日 (水)

続・ジャーナリストのサラリーマン化

 このところ、4~5本続けてマスコミやジャーナリズムの突っ込み不足やお座なりの対処に苦言を呈する記事を書いてきた。今日の新聞記事を見てもそう思う。まず、トップが「露ドーピング隠蔽」。これで思い出すのは、オリンピック→国際委員会(IOC)→2億3千万円の招致コンサルタント支払だ。その後どういう用途で誰に、といった詳報は目にしていない。

 政治でけがされ、肥大化し、莫大な費用を費やし、そして夢を奪うだけのオリンピック。今なら間に合う。4年後の東京開催を返上したらどうか。そして、開催地はギリシア、種目も当時に準じたベーシックなものだけにすればいい。

 次は、トルコのクーデター。世界中に配信された放送局などの場面がある手際いい映像と、反乱軍側の無秩序・無計画性が目立ったが、トルコ政府は、これまでに7543人の軍人や司法関係者を拘束し、内務省は警官ら8777人、財務省は職員1500人を解任した。

 拘束や処分を受けた公務員は2万人近くになる。これらの処分は容疑や根拠が明らかでなく、エルドアン大統領と対立するアメリカ亡命中のイスラム教指導者、ギュレン師を支持したということで、最初からリストがあったとしか考えられない。

 エルドアン大統領は、拘束された数千人の軍人らを、EU加盟の要件として廃止していた死刑を復活させて殺す可能性も示唆している。そして、アメリカへはギュレン師の引き渡しを正式に要求した。

 日本を含め先進各国は、選挙で選ばれた政権を支持しクーデターを非難する声明をいち早く出しているが、対抗するイスラム世俗派を一挙に壊滅するのが目的の、仕組まれた「逆クーデター」であった疑惑が出てきた。

 トルコは、シリアの内戦の中でロシアと複雑な軍事対立があり、一時は緊迫状態にあったし、今でもそれが解けた状態とは言えない。シリア難民の出発地として、また、ドイツへの移民増大など、エジプト、サウジなどと共にイスラム圏の中で実力を有する大国だ。

 ISなど過激派原理主義、対敵するクルド族、シーア派・スンニ派の対立、ロシアやその他アジア・アフリカのイスラム諸国との関係、難民の受け入れや流出など、かなめに位置している。これまでは、クッション役といった発想があったが、これからはどういう帰趨をたどるか一向に見えてこない。

 ギュレン師をアメリカが引き渡すかどうかが大きなカギとなろう。引き渡しに応じれば殺されることが目に見えている。アメリカが泥沼にこれ以上足を取られないためには、要求に応ずるという選択肢はないだろう。いずれにしても、ジャーナリズムの力量が問われるできごとだ。

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2016年7月19日 (火)

見えなくなった中東

 題は異なるが前回の続きである。「アメリカは見えないような形で、中東紛争の主役から手を引きつつある」と書いたが、テロや内戦などを通じてわれわれが持っている中東の常識が通じなくなっていることを、メディアも論評も追い切れていないように思うのである。

 「悲しい現実だが、アメリカの中東政策はワシントンでなく、イスラエルのエルサレムで作られていると言っていい」。イスラエル・ロビーの影響力を、ポール・フィンドリー元下院議員はそう表現する。では、人口比率三%にも満たない在米ユダヤ人社会が、なぜそれほどの影響力を持ちえるのか。

 これが10数年前に発刊された岩波新書・土井敏邦『アメリカのユダヤ人』の課題だった。それを、米大統領選で民主党のヒラリー・クリントン候補と接戦を演じて脚光を浴びたトニー・サンダース氏が、主要政党の指名争いに躍り出た初のユダヤ系候補として、崩そうとしている。

 しかも、彼はイスラエルの占領政策や米国のイスラエル寄り姿勢を批判していることに対し、米国ユダヤ社会では若者を中心に支持されるようになってきた。また、イスラエル・ロビー主流派によるイラン核開発合意断固反対が成功せず、歴史的敗北を喫している。(毎日新聞⇒立山良司『ユダヤとアメリカ――揺れ動くイスラエルロビー』中公新書)

 中東で爆弾テロとか、戦争によらない民衆による抵抗運動が出始めたのは1987年頃のいわゆるインティファーダ発生の頃からである。それ以来、アメリカにおける同時多発テロ9・11を頂点としてパレスチナ問題抜きで議論されることはなかった。

 しかし、焦点はイラク・シリアのISやクルド人問題、そして欧米を巻き込んだ難民・移民など、民族の大移動を思わせる人口問題に移っていった。その中にはトルコ→ドイツ、ロシア→イスラエル、アフリカ→フランス、ポーランド→イギリスなど各国特有の事情も抱えこんでいる。

 テロの発生が多様化している中で、これらが各国の右傾化を下支えしているようだが、若者を中心にした協調・一体化への動きも顕著になってきた。イスラエル、パレスチナにも見られる現象で、もう一度アメリカの中東政策の裏側にある変化に目を移そう。

 CNNによると、米政府は15日、2001年9月11日の米同時多発テロに関する調査をまとめた議会報告書のうち、長く機密指定にされていた箇所を公開した。報告書は同時多発テロを起こしたハイジャック犯の一部が、サウジ政府とつながっている可能性のある複数の人物から支援を受けていたと指摘している。

 サウジは、アラブイスラム圏の中で緊密な石油利権による独占的な利益をアメリカと共有していたため、パレスチナのイスラム教徒を救わなければならない立場に蓋をしてきた。サウジ人の中には、これに強く反発し、政府の公式立場と逆の行動をとる王子などの存在を、当塾でも指摘したことがある。

 シェール・オイル開発成功などで、アメリカは経済的にもサウジの存在にこだわらないようになった。ISに対抗するには、同じスンニ派であるサウジより、それと対立するシーア派・イランの協力を得た方がいい。イラクはシーア派が多数派で、現政権も傀儡とはいえアメリカが選挙で作った政権だ。

 かつての、イスラエル・アメリカの共通の敵イランと核問題についての決着がついたので、もう必要ないとばかり、かつての秘密を暴露したわけだ。同盟国がこんなにあっさりと見限られる例は見たことがない。

 中東から、アメリカとユダヤと石油という相関関係はなくなった。もはやここで不毛の対立に固執し命を無駄にする必要は何もない。イスラエルやパレスチナの若者もそれに気がつき始めたのだ

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2016年5月23日 (月)

中東関連ニュース③

 熊本地震と原発、舛添醜聞、沖縄元海兵隊による強殺、いずれも日本の政治をひっくり返ってもおかしくないが、政府与党はそれをできるだけ小さく、できればなかったことにしたいといった様子丸見え。野党も倒閣の迫力などどこかに置き忘れてきたようだ。そこで、今回もやむを得ず世界大変化に繋がりそうな、国際・中東マターとする。

 この題で最初に書いたのが、ISが飛び火しそうな候補として、リビア、エジプト、アフガン・パキスタンであった。前回、リビアやエジプト機テロなどを書いたが、今度は最後の懸念、アフガン・パキスタン関連のニュースにする。

 タリバンの宗教指導者・マンスール師を、アメリカの無人攻撃機が移動中の車を射撃、死亡させたというものだ。本来、宗教指導者というのは軍事目的ではないはずだが、イスラム圏では国家を超越した存在で、すべてこれに従わなくてはならない。

 9・11テロを指揮したとして、アメリカがアフガニスタンに在住していたウサマビンラディンの身柄引き渡しを要求した相手がタリバン政権であった。最初は迷っていた気配もあるが、それに拒否する決定を下したのが、当時の宗教指導者・オマル師である。

 米軍などが侵攻を開始し、国土の大部分を制圧するのにそれほど時間はかからなかった。ビンラディンは姿を隠し、アメリカは北部山岳の洞穴などまで探すが見つからず、最後は2011年にパキスタンで米軍に発見され逮捕・殺害される。

 オマル師もそれ以上に動静がわからず、カリスマ性のあるなぞの人物視されていた。2015年に至り、2年前にすでに死亡していることが判明するのである。

 それに比べ、マンスール師は米軍にすっかり把握されており、乗った車まで追跡されている。普通なら、主教指導者を殺害すれば猛反発を受け、アメリカが手を引くに引かれなくなるはずだが、マンスール師にそんな権威は備わっていないのだろう。

 タリバン内部で権力闘争があり、これまで宗教指導者を決められなかったという話もある。それならば、アメリカも放置しておいた方がよかつたと思うのだが、CIAの情報力と、無人機攻撃の能力を誇示することはできた。

 この攻撃もパキスタン領内で行われたが、パキスタンには「パキスタンタリバン運動」という別系統の過激組織があり、国軍のコントロールも利いていない。18日から米ロを含めた4か国和平会議が開かれているが成功せず、さらに混迷を深めるようなら、この地域で過激派のIS化が進むことになりそうだ。

 (参考)
http://www.sankei.com/world/news/150916/wor1509160007-n1.html

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