中近東

2017年12月22日 (金)

日本もトランプ離れ?

 安倍ちゃん本当?――信じられない。国連安全保障理事会は18日、パレスチナ問題を巡る公開会合を開き、エルサレムをイスラエルの首都と正式認定したトランプ米政権を批判し、認定の撤回を求めた決議案を否決した。15理事国のうち議長国日本を含む14カ国が賛成したが、常任理事国の米国が拒否権を行使した。

トランプが大使館移転などを例の調子でひけらかした直後、菅官房長官が日本は、トランプ発表のように大使館を移転しない、と即座に記者会見で答えたことを塾頭は評価したが、マスコミは「アメリカの首都決定に対する態度があいまい」などとしていた。

エルサレムは、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教それぞれの聖地が存在する。そこをイスラエルが占領し、うち続く紛争の原点になっていた。エルサレムを国際的な監視の元で安定させることでパレスチナに平和を構築することは、オバマ政権の努力もあっていい方向に向かっていた。

トランプがこれを一挙に崩そうとした背景は、ほとんどが国内問題だがここでは触れない。安保理決議はアメリカの拒否権で葬り去られたが、同じ決議を全加盟国が参加する国連総会にかけることになっている。ここでは、拒否権が利かない。しかし強制権も無いのでアメリカは従う義務がない

 総会決議が確実化する中で、トランプは「賛成投票を投じた国をすべて調査、アメリカが10億ドルを超えるような援助資金を提供しているような国が賛成したら、その額をすべて引き揚げる」と脅迫している。

 安保理で見せた『良識』をひっくり返すことは、安倍ちゃんといえどもできないだろう。「日本は変わったんだ」と思いたい。またアメリカの援助を受けているイスラム国家が賛成から反対に鞍替えすることも考えられない。

 イスラム圏にとっては、どんな経済制裁を受けようと核武装を一切放棄する気のない北朝鮮以上の覚悟があるはずだ。

 残るのは、アメリカが北朝鮮以上に孤立し、トランプが大恥をかくだけである。

 

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2017年12月 7日 (木)

中東に移ったトランプラッパ

10日前に「中東情勢の様変わり」と題してこう書いた・

今月下旬に入って21日そして前回と、中東で地殻変動が起きていることを書いた。イスラエルと中東諸国の間で、第一次中東戦争が始まってから来年で70年、アラブ対イスラエルそしてユダヤ対イスラムの対立の構図が、すっかり様相を変えたように見える。

その理由は、ISがイラク・シリアで拠点を失ったこと、ロシアがイラン、トルコなどと組んでシリアを中心に各勢力協議の上和平ブロック構築に乗り出したこと、パレスチナ・イスラエル間は、パレスチナ側での内部対立も解け、小康状態が続いていることがある。

また、イスラエルの膨張に歯止めをかける最大の勢力サウジが、国王から皇太子に実権が移行し、これまでにない変貌を遂げようとしていること、そしてエジプトもシナイ半島での大規模テロ対策で手一杯なことなどで、アメリカが下手な手出しをして泥沼戦争にはまる余地はないと観察した。

それが、トランプ大統領のイスラエル大使館エルサレム移転発言で、消えかかった火に油を注ぐようなことをしでかした。アメリカは、米議会がイスラエル寄りの決議をしても、90年代から首都の問題は最終的地位を当事者の協議によって決める、という案で収まっている。

トランプによる変身は、氏の娘婿でユダヤ教徒のジャレッド・クシュナー氏(大統領上級顧問)の影響などとも言われるが、どうもこのトランプ・ラッパにも、うさんくさい政略宣伝のにおいがする。

アジア歴訪では具体的成果を見せられず、ロシア疑惑でも窮地に立たされている。おりしも、ドーピング疑惑の影響により、ロシアが冬季オリンピックから締め出されるというニュースが突如クローズアップされた。

塾頭は、イスラエル首都の問題も一連の「ラッパ」に過ぎないと見ている。株価は暴落したが、市場筋も長続きしないという観測だ。戦争や平和をおもちゃ代わりに使ってほしくない。

ただ、安倍首相が「日本大使館の移転計画はない」としたことは、ポチにしては珍しく、評価しておかなければならない。

 

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2017年11月27日 (月)

中東情勢の様変わり

  今月下旬に入って21日そして前回と、中東で地殻変動が起きていることを書いた。イスラエルと中東諸国の間で、第一次中東戦争が始まってから来年で70年、アラブ対イスラエルそしてユダヤ対イスラムの対立の構図が、すっかり様相を変えたように見える。

イスラエルにとっての強敵は、パレスチナ解放同盟を支える隣の大国・エジプトであった。同じスンニ派の盟主・サウジアラビアは取り巻くイスラム国に石油資金で支えた。

4次にわたる中東戦争の結果は、エジプトがイスラエルに歯がたたないことを知って妥協の道をさぐり、変わって先頭に立ったのがイラクとシリアのバース党政権である。しかし、イラクはアメリカの侵攻で、シリアは反政府組織の武力反乱により牙を抜かれてしまった。

そしてISの勃興、世界を震撼させたテロリズムは、やがて世界を敵にまわした結果壊滅へ。ロシアのシリア介入と平定に向かった動きは、前述の通りだが、イスラエル建国に反抗するパレスチナ人に、イスラム・スンニ派の周辺諸国が加担して起きた当初の中東紛争の影は、も早見えにくくなった。

シリアの平定にロシアが成功すれば、シーア派・イランの立場が強くなる。塾頭は、ユダヤ対イスラム・スンニ派の戦いが、スンニ派対シーア派の対立激化に取って代わるのではないかという予想をしてみたのが前回である。

また、サウジでは皇太子への権力移行で、長年続いてきた王族路線が劇的に変化する兆しがあり、先が読めなくなったことも書いた。最大の経済的利害関係を持つのがアメリカである。トランプ政治の動きも不透明さに輪を掛けている。

エジプトの近況については、触れてこなかった、というより複雑過ぎて書けなかったのだ。そこに起きたのが24日のシナイ半島北部に起きた死傷者400数十人という同国最大のテロ事件である。

イスラム神秘主義信者の多いモスクが標的となり、犯人は武装軍団でISの旗を持っていたという。シナイ半島にはISに忠誠を誓った分派が存在するとされ、これまでも度々テロ実行宣言をしていた。

シリア・イラクから逃れてきたIS残党、或いはシナイ半島で元々勢力を持っていたムスリム同胞団が変貌したものとする見解があるが、塾頭はいずれも的はずれではないかと思う。そういう分子がいたとしてもテロ犯の主流とは思えない。

ISが本拠としていたシリア・イラクからは、いくつかの国を経由しないと入り込めない。また、IS残党がわざわざシナイ半島に来てテロを起こす理由にもとぼしい。

ムスリム同胞団も、スンニ派でイスラム原理主義をかざすが、もともとエジプトに基盤をおく「穏健派」とされていた。シナイ半島から隣接するガザ地区のムスリムを救援するため、地下道を通して食料や医療品の人道支援を続けたといわれ、ヨルダン川西岸地区のパレスチナ人からも厚く信頼されている。

エジプトでは、ジャスミン革命からの連鎖により独裁を続けたムバラク大統領が失脚した。そのあと行われた選挙で、ムスリム同胞団の広い支援を受けたムルシー政権が誕生した。ところが1年後には軍部のクーデターにより早くも倒壊、ムスリム同胞団も非合法化された。

その同胞団は、シナイ半島に逃げ込んだとされている。この度の組織的なテロを起こしたのは誰か、報道からは正体が分からない。エジプトのクーデターを起こしたのは、軍部とともに「世俗派」が加わったともされる。

テロ実行犯は、イスラム過激派ではなく、現在の権力を力で倒そうとする軍内部の反対派がそれを利用して引き起こしているのではないかとにらんでいる。

なぜならば、発生した地域が現軍事政権の強い地盤であることに加え、同国の収入を大きく支えているピラミッドなどへの外国人観光客が治安悪化のため激減、政権基盤を揺るがしかねない実情が生じている。いずれにしても情報が少ないので分からないことだらけだ。

こうして見ると、イスラム教最大勢力のスンニ派を率いる大国、エジプト、サウジともにまとまらない勢力となった。中東のイスラエル対アラブの対立が、イスラムの中のスンニ派対シーア派の衝突になるという見方もあるが、このままロシアのペースが効を奏し、長い紛争疲れからゆるい共存関係を探る時代になるのではないか――

これが塾頭の希望的楽観論である。

 

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2017年11月10日 (金)

トランプ、習の手玉に

中国・習近平総書記がトランプ米大統領を皇帝扱いで歓待したというのは、シンゾーのそれとは違う。共産党大会で自らの思想をかかげ、不動の地位を固めた習と、支持率30%台で、未だに国務省のアジア担当官や韓国大使を任命できていないでいるトランプとの差だ。

日本のマスコミでは、北朝鮮に対する「圧力強化では合意したが危機管理については話し合わなかった」とか「貿易不均衡など目先の合意はあったが、長期的な関係構築に進展はなかった」などと評価されている。

習の驚くほどの過剰サービスは、両者の差に対する余裕のゼスチャーだ。問題解決にあたって、細部に渡る周到な計画や準備が必要で、数十年先のことまで見越さなければならないようなことを、うかうかトランプと約束できない。

たとえば、北朝鮮では国境を接する中国にとって、危機管理は差し迫った脅威だ。しかしその具体策となると、北の治安維持をどう確保するか、暴走阻止にどんな手があるか。金正恩体制保持だけでいいのか、といった問題がある。

核戦力をどう処理するのか、南北のバランスをどう取るのか、さらに韓国からの米軍撤退、将来の南北統一への展望に至るまで、米中合意が見通せる段階にはない。もちろん韓国の頭越しでは、韓国が承知しないだろう。

そんな難問を地位不安定のトランプと話しても無駄だ、というのが習の腹にあるのではないか。国内、そして国際世論の支持に自信を持つ習近平総書記の手玉に乗っている、これがトランプ大統領アジア歴訪の成果ということになりそうだ。

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2017年10月14日 (土)

先が見えたトランプ

トランプ大統領は13日、イランに対する新たな戦略について演説し、「イランは核兵器開発が疑われる軍事施設の査察を拒否し、北朝鮮と取り引きしていると言う人も多くいる。イランは核合意の精神を守っていない。政権として認めることはできず、認めることもないだろう」と述べ、核合意について「認めない」とする判断を示しました。そのうえで、制裁を再開するかどうかなどについて、議会に判断を委ねる考えを明らかにしました。

(中略)IAEA=国際原子力機関の天野之弥事務局長は13日、声明を発表し、「IAEAは計画に基づいて核合意の実施状況を監視しているが、イランは取り決めを順守している」と述べました。(NHKオンライン)

イスラエルは直ちにアメリカに同調した。12日にトランプ政権が、ヨルダン川西岸にあるヘブロン旧市街をパレスチナ世界遺産に登録することを決定したユネスコに反発し、ユネスコに脱退の意向を伝えた行為に連動しているようにも見える。

 

このところ中東ではIS掃討に目が向き、イスラエル・パレスチナ問題は、話し合いに向けて小康状態にあったのを反故にしかねない行為である。

日本も南京虐殺に関連する世界遺産に登録に抗議するため、ユネスコへの分担金支払い凍結、といったことは議論されるが、脱退するほど非常識ではない。

 

トランプは、オバマ路線否定優先で、そのためには、多国間合意を勝手に反故にするという暴挙を繰り返す。パリ協定やTPP脱退などと同様、国連機関脱退までそれを拡げてしまった。もともとはアメリカ主導で、それらはアメリカの国益に寄与していたはずだ。

 

今回は、トランプがもともと国内のユダヤ・ロビーびいきだったにしろ、イスラエル訪問から帰国したばかりタイミングである。気まぐれで、他を省みないやり方は、国内のユダヤ勢力やトランプ・ファンにもてても、国際的には通用しない。

 

トランプの行動には、英・仏など西欧主要国も一斉に非難している。国内の支持率や○○ファーストが地に落ちるのに、それほどの時間はかからないだろう。

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2017年8月19日 (土)

無差別大量殺人

スペインのバルセロナで繁華街を車が突進し、死者13人を含む100人以上の死傷者を出した。同国では翌日(18)日、別の似たような事件があり7人が負傷している。両事件の犯人は重複していると見られる。

車を使った犯行は昨年7月、仏ニースで86人が死亡する事件が起きたが、今年に入って比加級数的に増加、このところ毎月・毎日といった状態になった。今日も犠牲者の数はすくないが、街頭における殺人がフィンランドとドイツから伝えられている。

こういう事件を「テロ」と称しがちだが、一連の事件は「違う」と、塾頭はあえて言う。犯人はアフリカ出身のイスラム教徒であり、ISと通ずると称する通信社が「IS戦士」の行為と称すると、直ちに「テロ」にしてしまう。そして安倍首相まで得たり賢しとばかり非難声明を出す。

宗教指導者・バグダディ師が死亡したとされ拠点を失ったISが、組織として遠く離れた各国テロを起こす指令をするとは思えない。現にこのような事件を後で精査すると、ISには無関係だったとされるケースがいくつも出てくる。

一時、アルカイダを名乗ることで、加害者・被害者にメリットがあった時期があった。ISの特徴は神とムハンマドを信じるかどうか、また敵視するかどうかがジハードの目的であり、国の権威に関係間ない一般観光客でにぎわう街区襲撃では教義にも反する。

アメリカでは、今月初め人種差別を理由とする街頭行動に端を発して自動車暴走による全く同様な事件が起きた。さすが、これはテロとは言わない。こういった方法・行為がどうして起きるのか。

日本には秋葉原事件という前例があるが、かつてはなかった無差別大量殺人がこれほどまでに日常的になったことは、「テロ」と別に考える必要がある。犯人がイスラム原理主義の影響を受けているというケースはあるだろう。

しかし、本質は別のところにあるのではないか。再発防止策は、原因分析をくわしく掘り下げる必要があると思うが、そういった指摘は聞かれない。

 

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2017年7月 5日 (水)

潮流の変化

 前回は、都議選の結果を受けて、安倍一強の終わりの始まりを書いた。期待を込めてというより、すでに確信をもって言えそうだ。

世界についても、昨年末のオーストリア大統領選で難民の排斥を訴えた極右政党の候補が僅差ながら敗退したことについて、同国が歴史的にヨーロッパの潮流の変化に少なからぬ位置を占めていたことから、言われ続けてきた「ヨーロッパの右傾化」の潮流は止まるという予見を年始に当たって占った。これはそのとおりになった。

さらに現在、中東の混乱に大きな潮流の変化が見られる。先月20日に、5月28日シリアのラッカ近郊でIS幹部の会合が行われたのを狙ってロシア軍が空爆を行い、その結果カリフであるバグダーディーが死亡した可能性があるというニュースについて書いた。

その後、カリフがIS建国の宣言を行ったイラク北部・モスルの象徴的な建物が爆破され、イラク軍の攻撃でISは同地から撤退、シリアでは首都的な存在だったラッカも壊滅寸前のようだ。

ラッカに進攻したのは「シリア民主軍」(SDF)だ。主力はシリアのクルド人武装組織「人民防衛隊と、アラブ人武装勢力の計3万人で構成されている。シリアに投入されたデルタ・フォースなど米特殊部隊約300人も行動を共にしている。

本塾の前からの意見は、中東などの内戦に、他国が直接軍事介入したり武器供与をすると、戦線が拡大するだけでなく、民衆の反感や宗教・人種問題が絡んで抜けられなくなると言ってきた。オバマはそれを学習し教訓としていたのだ。

有志国連合も、空爆を主にして正規軍派遣は避けているように見える。ISの場合、近代国家の枠にはまらない特異な集団として出現したイスラム原理主義で、イスラム全盛時代を再現しようというものである。

ただ、コーランを信奉しない異教徒はすべて聖戦やテロの対象、というのは世界に通用しない。現実とどう折り合いをつけるかというのもカリフの権能だが、それが存在しなくなったというのは、ISそのものの存在にも疑問符がつくことになる。

フィリピンやエジプトその他各地にISを名乗るグループがあるが、ISにあやかっているだけで分派でも分身でもない。ISは「イラク・レバントのイスラム国」と名乗るだけに、活動の場はメソポタミアから地中海東岸、アラビアが対象である。

テロは、ISを否定する国家に向けたもので、無差別テロやその他の目的のテロとは本来無関係の現象である。したがって、ISのプロパガンダ・犯行声明などに各国が激しく反応するのは当然である。

国際的包囲網の中で無力化をはかり、いずれは、各国に分散したクルド族同様に高度な自治権を与えるなど、話し合いで解決する道をさぐることしか平和解決の方法がない、と考えていた。

前置きが長くなったが、IS敗退の現状を見て、「イラク・シリア内でイスラム・スンニ派住民の居場所確保の方策を検討しなければ」という識者の意見が出始めたようだ。どの程度発展するか疑問もあるが、長年塾頭が考えていたこととは一致する。

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2017年6月25日 (日)

「政治の劣化」中東版

15日に、<「カタール」に落ちた>という記事を書いたが、大幅に見直さなければならなくなった。

【カイロ篠田航一、ワシントン会川晴之】カタール政府は23日、サウジアラビアなどアラブ4カ国が示した関係改善に向けた13項目の要求を「実施不能」と非難し受け入れを拒否した。サウジが主導する対カタール断交は長期化が懸念され、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討などにも影響を及ぼしかねない。

「我が国の主権制限が狙いだ」。22日に伝達された要求に対し、カタール政府報道官は激しく反発した。アラブ4カ国は▽イランとの外交関係縮小▽カタールの衛星放送局アルジャジーラの閉鎖▽イスラム組織「ムスリム同胞団」や国際テロ組織アルカイダとの関係断絶--などを求める。両陣営の間で仲介を図るトルコの在カタール基地閉鎖も要求事項だ。トルコは顔をつぶされた形で、事態打開の困難さが浮き彫りになった。

という昨日の毎日新聞記事である。湾岸産油国でこれまで仲良く同盟関係にあった小国・カタールに対し、サウジ・エジプトなどアラブ諸国から断交を突きつけられた原因が、イランと同じシーア派住民が多いというだけでは説明がつかない。

イラク・シリアでのIS掃討の混迷状態で説明ができるかと思ったが、そんな深い理由ではなく、宗教・宗派に関係のない国内の権力争いと、国際的緊張を作り出して民意を引けつけようという、日米にもある「政治の劣化」が実相のようだ。

アルジャジーラの閉鎖要求がそれを如実に表している。カタールの国王が莫大な石油収入でジェット戦闘機を買ったが使い道に困ったというようなうわさ話を紹介したことがあるが、アルジャジーラも、アラビア語によるイスラム圏唯一のマスメディアを作ったらどうだという、イギリスからのすすめがあったらしい。

こうして1996年 11月に設立されたのがアルジャジーラである。スタッフの育成や最新機材などのノウハウは世界の権威であるBBCから指導を受けた。その後の活躍は目覚ましく、行方がわからなかったウサマビンラディンの映像、肉声をキャッチして放映するなど、アラブの闇に光をあてる役割を果たし、アラブのCNNなどと称された。

収入は映像の放映権などで、公正中立でなければ買い手がつかない。めまぐるしい対立抗争の続く中東のこと、取材妨害や圧力のかかってくるのは当然で、最近は石油価格の低落もあって、経営も楽ではないらしい。

そんな中で、日本のNHKが最大の顧客だという。偏らない情報は、独自の情報源を持たない日本にとって大切な存在だ。小国とはいえカタールが露骨な外圧に屈するようなことはないだろうし、報道の自由を国是として持つ国なら公然と締め出すようなことはしない。

要求の中には、ムスリム同胞団との絶縁もある。これはエジプトの要求であろう。ムスリム同胞団については20日に<「テロ防止法」的はずれ>で書いたが穏健派原理主義と称され、パレスチナへの人道援助に貢献し、エジプトでも人気が高く一度は政権についた。しかし、クーデターで現・軍事政権に取って代わられ、現在はISの分派という名目で弾圧されている。

ムスリム同胞団はかつて国の方針とは別に、影のスポンサーがサウジの王子たちだった。ムスリムとして喜捨の義務は当然の行為で、カタールもその線に沿った支援をしていたと思われる。ただし同派はスンニ派で、シーア派のカタールと宗派が違う。

サウジの国王はこれまで兄弟間で地位を継承してきた。次の国王は直系子孫の皇太子に譲られ、長年続いてきた政策の見直しがあると見られる。そういった中で、大衆の支持と信頼を失う「政治の劣化」が進み、アメリカ・ファーストのトランプ政権が方向性を失えば、ロシア・イランが有利になるととられるが、そうは簡単に物事が進まない。

中東の混乱収拾やイスラム教内部の調和は全く見通しがつかなくなった。国際社会は、人道援助はしても、武器供与・輸出・軍事協力から手を引き、内部対話・和平構築に期待し、協力するしか道は残らなくなるだろう。

 

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2017年6月15日 (木)

「カタール」に落ちた

カタールがサウジやUAEなどの湾岸諸国、さらにエジプトなどから国交断絶・経済封鎖を受け、食料などをイランからの空輸に頼って食いつないでいるという報道に驚いた。なんと気に入らない国をテロ国家と呼ぶアメリカと同じレッテルの貼り方だ。

このブログ、11年ほど書き続けたが、その中で「カタール」という国名をブログ内で検索してみると7回ほどあった。それは、アラブで唯一有力な通信社「アルジャジーラ」が籍を置いているということと、湾岸諸国の1国であること以外に、その国を紹介したことが、1回ある。それも現地を訪れた友人の話にあった短いもので、下記のように平和でメルヘンチックな姿である。

(サウジの石油積み出し港の)すぐ近くに、小さな半島だがカタールという王国があります。やはり、石油のおかげで有り余るほどのお金があります。使い道に困ってジェット戦闘機を買いました。王さまはどう使っていいのかわからないので、王妃や王子たちを屋上に集め、アクロバット飛行を見せ楽しんでいるそうです。

ここがどうして、と思うのだが、最近イエメンなどでイスラム・スンニ派とイランを中心とするシーア派の抗争が血を血で洗う厳しい間柄になり、カタールはもともとシーア派住民が多くスンニ派による反シーア派同盟に加わらないから、ということらしい。

宗派の違いは今に始まったことではない。スンニ派の盟主、サウジはシーア派であってもイランからのメッカ巡礼団を差別することなく受け入れてきた。両派の違いを際だたせるようになったのは、イラクやシリアの内戦に目途がつかなくなったここ数年のことと思うが理由はよく分からない。

パレスチナの帰属をめぐってイスラエルとエジプトなど周辺イスラム国が泥沼戦争を繰り返していたが、大国エジプトが攻めきれず結局妥協の道をたどり始めた頃、イランでホメイニ革命が起きて王政が転覆した。

「イスラム原理主義過激派」といえば現在はISだが、当時おそれられていたのはホメイニの神権政治のイランである。軍事的に弱体なアラビア半島諸国は不安を感じ、1981年に「湾岸協力会議」を作った。サウジ、バーレーン、オマーン、カタール、クエート、UAEの6カ国である。

すべてが王国であるが、当初はイラクも入いる予定が、イラン・イラク戦争、俗に言うイライラ戦争が始まったので加わらず、似たもの同士だけでまとまりもよかった。湾岸戦争では軍事協力もしている。

両宗派の対立激化は、イラク・シリアの内戦に関係があるのではなかろうか。ISはスンニ派である。イラクはアメリカが撤退する前に選挙で作った政権だがシーア派が主体である。人口でスンニ派を上回ることから予測されていたことだ。

アメリカに攻め殺されたサダム・フセインはスンニ派で軍部も同派で固めていたが、独裁者であるだけに宗派、民族間で不公平・不満の起きないような配慮があったのだろう。同国民にとってもっとも幸福な時期だったともいえる。

今、ISを取り仕切っているのは、その当時の軍部残党だとされており、アフガニスタンを根拠としたアルカイーダ系の過激主義も取り込んでいる。支配地域をシリアにものばしたが、シリアも両派がありアサド政権もシーア派に近いとされる。IS掃討にイラン革命軍が関与しており、イランを敵視しているアメリカのトランプ政権や、アサドを支援するロシアの存在など、複雑に絡み合っている。

結局、「ISには負けてほしいが、イランが勝って強くなりすぎるともっと困る」という現実があるのではないか。カタールはとんでもないところでとばっちりを食らっているのだ。

中東問題とは、長い間パレスチナにおけるシオニズムとムスリム、つまりユダヤ教とイスラム教の衝突だった。今その影は薄い。変わってテロと難民が問題になる。しかしこれも中東というより問題の中心は、旧植民地の貧困や移民受け入れ国側に移っている。

そもそもの発端が、大国の介入や軍事・武器援助にあり、それでは解決できないということをオバマは痛いほど知った。その点、プーチンはイランやアサド政権を巧みに利用し、誘導して国益に反しないようなやり方をとっている。

サウジ政府は今日の報道で、「カタールとの交通は完全封鎖ではない」などと、逃げ道を作っている。語る(カタール)に落ちたというべきか。日本では共謀罪の集中審議を省略して参院を強行突破する政府の方針が大ニュース。

明るいニュースといえば、パンダの赤ちゃん誕生だがそれも隅に追いやられ気味。そうだパンダの名前は「デンデン」がいい。見物の帰りは、藪そばでもり、かけを注文しよう。

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2016年12月31日 (土)

テロの年

 明日から2017年。統計上どうなるのかはわからないが今年は、毎日のように世界各地からテロ発生、のニュースが飛び込んでくる不安定な年だった。直近のものはこれだ。

[北京 29日 ロイター]  国営メディアの29日の報道によると、中国の新疆ウイグル自治区で、3人が乗った車が政府施設に突っ込み、爆破装置を起爆させた。警備員1人と政府関係者1人が死亡、車に乗っていた3人全員が射殺された。

自治区政府はニュースサイトで、事件は墨玉県で28日午後5時(0900GMT)ごろ発生した、と発表した。新華社は事件を「テロリストによる攻撃」と報道、他に3人の負傷者が出た、と報じている。

 新疆はイスラム教徒が多く、自治区になっている。今や、世界は「テロ」→「イスラム」→「悪」という概念が定着しかかっている。アメリカのトランプの発想や西欧政治の右傾化は、イスラム差別に対する抵抗をなくしてしまう寸前にさしかかっている。

 イスラム教徒がからんでいれば、すべて「テロ」でくくり、「悪」としてしまうのは、はなはだ危険であるばかりではなく、これからの世界平和構築にとって、取り返しのつかない事態を招くことにもなりかねない。

 上の中国の場合は、中国共産党独裁に対する自治区の抵抗運動である。アルカイダやISと直接の関係は考えられず、その指示で動いているものではない。その前は、トルコでロシアの大使が背後からピストルで撃たれ死亡した。シリア空爆への抗議と見られるが、イスラム教徒の「グローバル・ジハード」、つまり、一般に恐れられている無差別「テロ」とは全く違う。

 これらは、言葉の上ではテロリズムである。韓国人による3・1独立運動や、安重根による伊藤博文暗殺は、韓国から見れば英雄的行為だが、これを「テロ」と呼んだら韓国はきっと怒るだろう。

 今年起きた事件で、多くの人の念頭にあるのは、ヨーロッパのフランス・ベルギー・ドイツなどで、相次いで発生した市街地における一般市民の大量殺傷事件である。

 ISが関与しているとされるが、犯人はアラブ人でない。チュニジアなどアフリカ出身者が多く中東に縁の無い者もいる。ISの指示を受けた形跡がなく、ISが関与しているような犯行声明がでるが、内容が報道に沿ったもので、加害者の誤認をそのまま使用するなど、本当は関係がない。

 ISには旧バース党軍人などが参加しており、組織的統治がややみられるものの、国際法上の国家のような仕組みが機能しているわけではない。あるのは、ムスリム共有の戒律コーランとカリフ(宗教指導者)という個人中心の世界である。

 したがって、声明とか宣言などと言っても、はっきり言っていい加減なものだ。ISに先行したアルカイダは、ウサマビンラディンが創設したものだが、ジハードの対象としているのは、アメリカ、イギリス、イスラエルなどを十字軍と称して限定していた。

 ここには、フランス・ドイツなど、イラク戦争で多国籍軍に加わらなかった国は含まれず、十字軍とは縁の無い日本が入っている。イラクPKO参加が関係しているかもしれない。なお、「十字軍」や「戦争」など、文明や宗教の衝突を思わせる発言は、9・11テロを受けたブッシュ大統領が最初である。

「(イスラム世界に対して)十字軍戦争を宣言し、国際社会に対テロ戦争の同盟を呼びかけ、明白な戦争をしなければならなくなった」(川上泰徳『「イスラム国」はテロの元凶ではない』所載)

 以上見てきたように、イスラムといっても多様・複雑で、シーア派・スンニ派間のテロの応酬が激化しているほか、スンニ派の中でも強硬派、世俗派、原理主義過激派、同穏健派や国をもたないクルド族との対立、各国に散在する少数民族の反抗など、個別に見て行かなければならない。さらに強調しておきたいことは、ほとんどのイスラム教徒は、平穏に暮らしていることである。

 その中でISが国境を越え世界的規模の聖戦、つまりグローバル・ジハードを唱え、世界の若い兵士を糾合して世界制覇のウンマ(イスラム共同体)を目指そうとする指針を示した。彼らも一般市民の殺傷は、いいこととしていない。しかし、空爆などで受けるイスラム教徒市民の被害とくらべれば、「目には目を」のイスラム法上決して行き過ぎだとは考えていないのだ。

 過激派組織として恐れられていたアルカイダも当初は、ユダヤを支援するアメリカと戦うという目標がはっきりしていた。しかし、エジプトやサウジなどの国家権力は乗ってくる気配がなく、アラブの春もあってイスラムはばらばらになった。アメリカの中東介入は見事に失敗し、オバマはイスラエルの横暴をけん制、イランとも妥協の道をさぐる事態になった。

 そこへ、複雑で戦火がたえなかったシリアで、ロシアがアサド政権立て直しのため介入し、トルコと組んでISやアルカイダ系をのぞく反政府組織との停戦を実現させて、ISの分断や後退にめどが立ちそうである。反アサドだったアメリカが、方針転換してロシアと歩調を合わせられれば、中東に平和をもたらすかすかな手がかりが期待できるかもしれない。

 まあ、実現しそうもない楽観論だが、塾頭の初夢としておこう。

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