東アジア共同体

2017年4月11日 (火)

北朝鮮と主体思想

 北朝鮮をめぐる危機が、アメリカのシリア空爆との関連と、米軍艦隊の急派で緊迫している。もとは、国連決議を無視してミサイル発射や核実験を繰り返す金正恩独走で、一触即発のように言い立てるものもいる。

 

 中でも、政府や東西冷戦思考の抜けない右派系論者は、中国やロシアが制裁に手抜きをしているからだと信じている。

ところが、先代の正日が「中国を信頼してはいけない」ということを正恩に遺言していることや、日本の敗戦後、占領していた北朝鮮からロシア軍が早々と撤退していること、さらに韓国政界の左派の一部に北朝鮮との融和を望む向きがあることには無関心だ。

 

 塾頭は、正恩の祖父・初代・金日成がうち立てた「主体思想」が今でも脈々と生きており、朝鮮人のプライドを支える大きな柱になっているからだと思う。

 

 ここで、日本敗戦直後、朝鮮を米ソが南北に分けて占領した当時、両軍の司令官の名で発せられた布告を比べて見よう(金達寿『朝鮮』)。

 

 アメリカ「――三八度線以南の強制権は余の管轄下にある。住民は余の著名のもとに発せられるすべての命令に絶対服従しなければならない。占領軍に反抗し、もしくは命令を破り治安を乱すものは、容赦なく厳罰に処するであろう。軍事的占領の期間中は、英語をもって公用語とする。」(ホッジ中将)

 

 ソヴェト――「朝鮮人民よ、朝鮮は自由の国となった。しかしこれは、新しい朝鮮の第一歩にすぎない。美しい果樹園が人間の勤労と丹精とのたまものであるように、朝鮮人民の幸福も朝鮮人民自らの英雄的なたたかいと不断の努力となよってのみ達成することができるであろう。幸福は諸君の手中にあるのだ。諸君の前には自由と解放があたえられた」(チッチャコフ大将)

 

 北朝鮮の現状は、ソ連大将の予言通りとは言い難いが、ソ連軍人の出である金日成は、主体思想(チュチェ思想)という国家のアイデンティティー創設に向かった。

 

 どこにも頼らない、影響も受けない民族自立の思想体系確立をいう。日本などでは、共産主義思想の一環であるという評価が主だったが、それまで朝鮮は有史以来大陸強国の支配、または影響下から抜け出すことはできなかった。

 

 李氏朝鮮末期には、事大主義(強大なものに仕える)を宗とする事大党が政権を支配し、時には清に時にはロシアにという自主性のない国家運営が続いた。

 

 明治維新で王政復古した日本が、政権交代を天皇の名で朝鮮に通知したのを、「皇帝」の名称を使えるのは清国だけ、という理由で受け取らなかった。日本は砲艦で威嚇して「日朝修好条規」を結ばせたが、その第一款に「朝鮮は自主の国であり、日本と平等の権利を有する国家と認める」とある。

 

 日本が「主体性」を強要したことになるが、そうはならなかった。それが今となって様々な悔恨を生む原因になっている。金日成信仰が今でも根強いのもそのせいで、南にも共感を呼ぶものがあるのではないか。

 

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2017年3月11日 (土)

憲法裁判所の威力

朴槿恵大統領は、憲法裁判所で弾劾裁判の結果失職することになった。結果だけ見ると、全会一致で反対意見がなく、具体的証拠より裁判に非協力的などの理由を挙げ、なにか世論におもねる政治的な判決のように見える。

 

 しかし、それは日本の憲法による三権分立とか司法制度で、最高裁の違憲判決と同じに見てしまうからだ。韓国の憲法裁判は憲法の解釈を審理し結論を出すことを目的としている。犯罪の立件は別で、これから別の裁判として始まる。

 

 日本で言えば内閣法制局の役割である。法制局は「行政」であり、「司法」ではない。安倍内閣が集団的自衛権の解釈を変えたければ法制局長官の首をすげ替えればいいということだ。

 

 これを、別の司法裁判所がやれば「安保法案は違憲」というような結論になるかも知れない。安倍首相流の発想は、選挙で多数を得た政党の内閣が解釈するからいいのだ、とする。

 

 ならば、日本も憲法裁判制度を設ければ違憲の疑いがある法律にストップをかけることが可能になり、三権分立の理想が実現すると考えるが、民意をくむ上でそう簡単にことは進まない。

 

 韓国の憲法裁判所で大統領弾劾の訴追をするためには、議会の3分の2以上の議決がなくてはならない。それだけで「そんなに支持されていないのなら、辞めた方がよさそう」という結論にもなる。政治的判断が加わることは、ある程度予想の範囲なのかも知れない。

 

 もちろん盧泰愚大統領のように、逆の結論が出されることもあるが、今回は情状の余地がすくないと判断されたのだろう。アメリカもそうだが、日本とは違う三権分立、民主主義、法の支配があることを心得ておかねばならない。

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2017年3月 3日 (金)

正男暗殺の行方

「すごいことが起きた。この先どうなるのだろう」という驚天動地の大事件が去年から今年にかけていくつも起きた。テレビ番組も、人気ドラマそこのけで続報を追いかける。

 

 小池都知事→豊洲、トランプ→暴言、韓国→朴大統領、最近ではマレーシア→金正男暗殺、政界→森友学園などが相次いだ。次々と明るみに出る「真相」につい目を奪われてしまう。

 

 しかし、「人のうわさも75日」。これくらい経つとだんだん先が読めるようになってくる。上の各事件でも、新事実が出てきて、全体の見直しを迫られるようなことがないとは言えないものの、サプライズドも終わりに近づいていることはたしかだろう。

 

 中でも金正男暗殺事件は、外交問題や諜報機関が絡むので隠されている部分が多く、真相は最後まで決着がつかないに違いない。前にも触れたが北側の公式態度は、「死んだのは、北朝鮮の外交官ビザを持つキム・チョルという男であり、死因は心臓麻痺だ」という見解である。

 

 たしかにマレーシア当局の北朝鮮大使館への第一報は、そのようなものだったようだ。そこで、金正日の長男・正男が北の工作員に暗殺されたというのは、韓国の情報機関がでっち上げたニセ情報で、VXガスを使ったはずの女性が生きているというのは科学的根拠に欠ける、と主張している。

 

 北は、金正男なる人物の存在すら公式に認めていないのだ。韓国の情報機関でなくても、正男が被害者であるとの認識は当初から一般的だった。マレーシア当局もその前提で捜査に当たっており、骨格・体型だけでも確認は可能だ。

 

 その正男がなぜ北の外交官ビザを所持していたか、そして北の暗殺を警戒しなかったのかについて、彼は中国サイドにいるものの、北にとってもメリットになる存在になっていたという、二重スパイではないかということを塾頭は考えていた。

 

 現に、彼が貿易などで多額の収入を得、その上納金納付について北の要求に応え得なかった金銭トラブルが暗殺の理由という説もある。しかし、北にとってはあくまでも死体はキム・チョルである。北の公民を国外で、しかも手の込んだ方法で暗殺する理由はない。

 

 だから、死因が高度な国レベルの技術がないと扱えないVXによるものという理由を否定しなければならない。

 

 当初、死体は同じDNAを持つ遺族に引き渡すという切り札があったように見えたが、いつのまにか消えた。正男の長男がマカオからやってきて、明日にでも決まり、という雰囲気だった。

 

 だけど、北は正男の存在を認めていないのだから賛成するわけがない。キム・チョルの遺族のDNAは、あくまでも大使館を通じて北が提供するものでなくてはならず、しかも誰から採取したかは別として、事実上提供可能である。

 

 仮に両方とも正しい、とする結論がでたらマレーシアは、外交上決着を見ない限り、いずれにも引き渡せないとするしかない。国際的に大失態をさらすことになる。

 

 中国の態度が不鮮明なのは相変わらずだが、彼らを保護しているものの居留者であり、国民ではない。韓国への脱北者が正男を亡命政権首領に担ぎ上げるなどの動きがあれば、絶対反対である。本人にその気はなかったらしいが、韓国の初代大統領李承晩が戦中上海で実体の乏しい亡命政権を建て、戦後アメリカの要請を受けて建国した史実がある。

 

 中国としては、韓国の支える北の政権ができることは決して歓迎できない。そんなことなら、むしろ今暗殺された方がいいかも知れない。金正日の遺訓「中国を信用してはならない」というのは、中国から見た北も同じだが、半島全体が米韓同盟に染まってしまうことは、どうしても避けなくてはならないという至上命令がある。

 

 最近、金正男事件は、迷宮入りにという解説が多くなってきた。平和維持のためにはこれしかないかもしれない。それも、人類が選択できる知恵の一つである。

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2017年2月26日 (日)

やっと出た⇒北・抜き6か国協議

26日のNHK日曜討論、普段はNHKに仕切られた公平公正な政党討論が主で、ほとんど見たことがない。今回は、金正男暗殺に関する情報だ。国際外交専門家で外国出身者も加わる多角的な内容になると思い、最初から聞いた。

 

その最後のあたりで、この際「北・抜き6か国協議」を、という意見が出てきた。なんとこの考えは、当塾が昨年9月に取り上げたのが最初で、以後今日で5回目になる。

 

以下にリンクしておくが、3回目には「この素人考えは誰からも支持されていない。(;ω;)」と自嘲気味に書いた。それが、NHKの番組でやっと出てきたのには驚いた。

 

初めて聞くがこれまでにあっただろうか?。あえて塾頭が最初に言い出した案だということにしておこう。

 

2016910日 北・抜き6か国協議

http://hansenjuku.cocolog-nifty.com/blog/2016/09/6-59aa.html

20161022 北・抜き陰謀論

http://hansenjuku.cocolog-nifty.com/blog/2016/10/6-c69d.html

201612月3日 「北・抜き6カ国協議」の時期

http://hansenjuku.cocolog-nifty.com/blog/2016/12/post-5487.html

2017216日 金正男暗殺雑感

http://hansenjuku.cocolog-nifty.com/blog/2017/02/post-e7dc.html

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2017年2月21日 (火)

金正男は二重スパイ?

殺された金正男は「キム・チョル」という偽造パスポートを所持していたしいう。駐マレーシアの北朝鮮大使は、会見で「キム・チョル」の遺体引き渡しをマレーシア当局に要求した。正男とは何の関係もないという立場だ。外交官ビザだったという説もある。

 

マレーシア当局は、遺体の家族からDNAデータの提供があるまでどこへも引き渡せなとする。まあそうだろう。刑事事件の殺人がからめば、身元確定のため当然の措置だ。

 

直近の地元紙ニュースでは、正男の長男が遺体引き取りのため、マカオからクアラルンプールに到着したそうだ。それならば、北朝鮮の主張が一挙に崩れると報ずる日本のメディアもあるが、北は「そんなのはどこの馬の骨かわからない、金正日の子というなら北が提供するもの以外は信用できない」というだろう。

 

一番の不思議は正男がどうして危険極まりない所へのこのこ出かけて行ったか、また、中国などは、然るべき警護をしなかったか、ということだ。それは、彼が二重スパイで、両国に極秘情報をマレーシアを舞台に提供していたからではないか。

 

今回も、トランプの米大統領就任などで国際情勢が揺れ動く中、北にとって重要な中国情報を提供したかもしれない。中国もあらかじめ承知の上のことだ。だから、こんな重要人物を暗殺するなど、馬鹿なことはしないはずだ、という油断があったのではないか。

 

映像が多く、真相が少しずつ明らかになるので世界のメディアにとってはおいしいネタだ。正恩はそこまで読んでいなかっただろう。ただ、今後同国内で粛清・暗殺などより陰惨な事件が相次ぐことだけは言えそうだ。

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2017年2月18日 (土)

正男暗殺に中国沈黙

以下、産経新聞電子版引用である。

【北京=西見由章】北朝鮮の金正男氏殺害事件をめぐり、中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は17日付の論評で「中国側はなにも情報を発信せず、沈黙する傍観者になっている」と当局を批判した。

 事件をめぐって韓国当局やメディアの情報が世界の世論を主導しているのに対して、中国当局が沈黙を守り報道も規制していることへの不満があるとみられる。官製メディアが地方政府ではなく、政権自体をやり玉に挙げて“反旗”を翻すのは極めて異例だ。

環球時報は、党宣伝部の指導下にあると思われるが、人民日報よりやや過激な表現をする。世界の情報合戦に乗り遅れることは同紙の存廃にかかわることで、世界的関心事に、すました顔でいることが我慢できないのだろう。

 

ということは、この事実が中国にとって相当重大な責任問題に発展しかねないということではなかろうか。これまでの既存メディアが、政治情勢については予測の範囲を越す激動にゆれ動く、中国もそこから免れな得ない運命にあるのかもしれない。

【追記】1/19

環球時報の反応がポストセブンの報道で下記サイトに出ました。

https://news.nifty.com/topics/postseven/170219155832/

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2017年2月16日 (木)

金正男暗殺雑感

 クアラルンプールで暗殺された北朝鮮・金正恩の兄正男に関する続報はまだまだ続く。犯人らしき2人目の女が逮捕されたそうだ。いずれにしてもこの種の事件は、これからもなかなか真相が明らかにならないだろう。

 当塾では、去年9/1010/2213/3と3回、北朝鮮抜きの6か国協議というのが必要ではないかと書いてみた。核実験やミサイル発射などもはや日常化した北の行動に、国連が何度決議相や声明を出そうがカエルの面に小便、なんの効き目もないからだ。

 単なる威嚇や、国内向けパフォーマンスであれば、無視すればいいのだが、どこかの国は、それを緊張とか脅威と言ってやはり国政に利用しようと意図する。かつて、北の動きに対し、日米中韓それに北を含めた6か国で北の非核化を協議する場があった。

 現在、それを復活させようと思っても、北が加わるはずがない。それならば、かつてあった東アジア非核地帯構想のようなことを、北抜きで話し合ったらどうか、というものである。

 「無意味だ」とはわかっていてもこの地域の恒久的平和構築を話し合うということになれば、南北のあり方も議題となり、北は実効の伴わない経済制裁などよりも焦ってくるだろう。

 前掲の記述のひとつ「北・抜き陰謀論」をリンクしておくが、単なるパフォーマンスであればいいけど、最近の報道によると正恩の健康状態や日常生活にやや正常を欠くものがあるという。

 となると、「誰が誰を」と特定していないが、非常手段として「暗殺」という陰謀が働いてきてもおかしくない、と書いた。その時と今は何が違うかと言えば、トランプが米大統領になり、政策が目まぐるしく変わることである。

 正恩は正男の利用価値の変化を警戒したのかもしれない。

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2017年1月27日 (金)

『帝国の慰安婦』裁判

韓国の世宗(セジョン)大学・朴裕河(パクユハ)教授は、『帝国の慰安婦』の著者として有名である。日韓の間で解決の糸口が見えないような中で、彼女の綿密な調査と問題点を絞り込む努力が高く評価され、邦訳のある日本をはじめ、東亜日報等韓国マスコミでも注目されていた。

 

しかし、元慰安婦の名誉を傷つけたとして、名誉毀損(きそん)罪で在宅起訴され、25日にウル東部地裁では無罪の判決が言い渡された。判事は世論を無視できず、今の雰囲気では有罪だろう」(日韓関係専門家)との見方が強かったが、塾頭も、対馬の盗難仏像関連裁判のように、司法の独立が懸念される日本も顔負けするほど危なっかしい決定をすると感じていた。

 

最高裁でひっくり返されるかもしれないが、とにかく名判決だ。塾頭の考えとすっかりと言っていいほど似通っているからだ。韓国を代表する通信社聯合通信が短い文章で判決全体のニューワンスを要領よく伝えている。

「被告の見解に関する判断は学問の場や社会の場で専門家や市民が相互検証しながら論駁する過程で行われなければならない」として、「慰安婦の真実を明らかにし、(結論に)到達できる十分な能力がある」と述べた。

 地裁は検察が名誉を毀損する表現だと主張した35カ所中、「朝鮮人の慰安婦の中、自発的な意思があった慰安婦がいた」「(旧)日本軍は公式的には誘拐や強制連行により慰安婦にしてはいなかった」などとした5カ所は事実の摘示であり、30カ所は意見表明だと指摘した。

 この5か所のうち、著書にある「元慰安婦は根本的に『売春』のくくりにいた女性たち」「朝鮮人慰安婦は日本軍と同志的関係にあった」とある点が、名誉棄損だとされる。

 あくまでも一般論として述べており、被告人など個人の事情に触れたものではない。したがって「事実の適示」であり原告の名誉棄損に当たらない、という考え方を判決はとっている。

 残りの30カ所は「慰安婦の証言などを資料として引用した上で分析や評価をしたもので、具体的な事実関係を示したと見るのは難しい」、すなわち著者の「意見」と判断してもいいが、これも原告について言っていないとしている(毎日新聞)。

塾頭もかつてフィリピンかボルネオの密林で敗戦を迎え、ばらばらになって逃げる途中、一兵士が慰安婦と出会い食料を分け合ったり、ワニのいる川を背負って渡ったりして海岸にたどり着き、帰国後は結婚するに至った、という創作を見たことがある。

韓国でも年長者ほど、銅像をところかまわず世界中に設置しまくるなどの傾向を批判的に見る人の割合が多くなる傾向だという。発言しにくいことだが、性奴隷状態は一般的な実態でなかったということを知っているからだろう。

このような判決で、感情論から、もっと現実に即した史実に対する知識を深めようとする傾向が出てくれば、落ち着くところへ落ち着くはずだ。日本は言うべきことは言わなくてはならないが、報復などを考えるべきではない。

いちいち反応して、韓国の感情論をかきたてるより、黙って泰然と構えているのが最善だ。韓国民は国際的評価を気にする点で人後に落ちないはずである。

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2016年12月 9日 (金)

韓国の不思議②

 韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の親友による国政介入事件を巡り、韓国国会は9日午後、朴氏の弾劾訴追案を審議し、賛成多数で可決した。当塾では先月から、27日の「朴槿恵追及デモ」、12月3日の「北・抜き6か国協議の時期」、そして、5日の「韓国の不思議」など数回にわたって韓国の動乱、といっていい事態についてエントリーを重ねてきた(リンクは文末参照)。

 前回も書いたように、韓国の政治、司法そして韓国の社会がこの決議でどう推移するのか、日本のマスコミやテレビのワイドショウの解説では、さっぱりその先が読めない。現在の韓国の近代化、経済発展の基礎を築いたのは、朴槿恵大統領の父親・朴正煕大統領である、がそれと今回の槿恵大統領糾弾とどう関連するのか、しないのか、そのあたりもよくわからない。

 そこで、日本在留が長く国際的な学才・韓国人学者から見るとどうなるか、鄭大均著『韓国のナショナリズム』岩波現代文庫で、その片りんをうかがうことにした。

 朝鮮におけるナショナリズムの動きは、日本統治によって挫折を余儀なくされる。したがってナショナリズムが本当に実現したのは解放後ということになるが、国家への帰属意識がエリート層のみならず庶民層にまで共有されるようになった時期ということになると、それはさらに下って六〇年代といこうということになるだろう。六〇年代とは、朴正煕(1917~79年)が軍事クーデターを通して政権を奪取し、そのリフォーム・ナショナリズムが国のかたちを変えた時期である。

(中略)リフォーム・ナショナリズムは日本の明治維新やトルコのケマル・パシャ革命がそうであったように、名目的には独立国家であっても、実質的には国内的な混乱や国際的な脅威にさらされている「半独立国家」を舞台とする「上からの革命」(エレン・ケイ・トリムバーガー)であり、その担い手となったのは軍部や官僚出身者たちであった。

 ところが、今日の韓国人、とりわけ知識人たちの朴正煕に対する評判は芳しいものではない。朴正煕やその時代には「軍事政権」や「独裁政治」という烙印が押され、それは否定的な過去として語られることが多いのである。だが朴正煕やその政権によって提示された「民族」や「近代化」のビジョンは、韓国のかたちや韓国人の集団アイデンティティのかたちをかなり根本的に変革する力となったのであり、それは今日の韓国人の自尊心の源泉となるものである。

 韓国のジャーナリスト・趙甲済の言葉を借りるなら、朴正煕とは「今もも生きている現在の歴史」であり、その功罪の両面を含めて、今日生きているすべての韓国人は朴正煕の時代に韓国にもたらされた革命の産物であるといってよい。

 不幸なことに、解放後の韓国においては、執権者がかわるたびに前任者の業績や価値観が否定されるという反動の連鎖が見て取れる。朴正煕自身が前任者のそれを「李朝社会の悪遺産」とか「民族愛の欠如」として否定したように、その後にあらわれる新しい主人公たちも親世代の否定をその出発点としているのである、

 以上、長い引用となってしまったが、これが父・朴正煕以来の伝統になってしまったのだろうか。歴史の積み重ねにより、このような「伝統?」がいずれ克服されるだろうことを、隣国国民のひとりとして願っている。

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2016年12月 5日 (月)

韓国の不思議

 題名は「韓国」だが「朝鮮」に置き換えてもいい。ヨーロッパでは、イタリアの国民投票で現首相が敗北しオーストリアは極右政党が敗北した。まだこの先いろいろな動きがあるだろうが、EUの根幹を揺るがすようなことはないだろうと見る。

 韓国は朴槿恵大統領の先の展望が読めないが、今までの所、塾頭の古びた知識では、解きほぐせないことが次々におこる。

 前に書いたことがあるが、小学生時代、塾頭には同級生に金・李・朴の3人の朝鮮人級友がいた。その3つの姓は韓国でのベストスリーである。それに今回悪名を高めた大統領のお友達崔氏を加えるとほぼ半数がこの4姓で占められる。

 こういった姓(本貫)の記録は朝鮮では命より大切なもので、最近まで同じ本貫同士の結婚は認められなかった。最も多い金氏は、さらにいくつかの本貫に分かれる。元・大統領の金大中氏や、有名な作家・金達寿氏は、その中でも最大の「金海・金氏」である。

 金海は釜山空港の近くで金氏の先祖・首露王が亀旨の峰に天下った金の卵から生まれたとされる。そして、倭人が根拠を置いた場所もここである。また、新羅の伝説上の初代王・赫居世が慶州で勢力を持つ朴姓の創始者であり、司馬遼太郎は、『韓のくに紀行』で倭人だったという説を紹介している。

 両氏とも慶尚南・北道が拠点で古代の駕洛国から出ている。洛東江に沿って釜山から大邱のあたりまで、倭人が多く住んでいた地帯である。これを言うと、日韓併合を正当化しようとする「日韓同祖論」だと非難され、長い間タブー扱いだった。

 しかし、韓国の地元における伝承、日韓や中国の古文献・埋蔵物その他から見て、倭人が住んでいたことは疑いようがない。そして、日韓双方の交流・往来には特段の障壁がなかった。同祖論を言うなら弥生時代の担い手として大陸から多くの文化を招来し、有史の時代に入ってからもさまざまな技術を持った人がやってきて、大阪・京都周辺に住みつき、そして混血した。

 その人数は韓国の倭人をはるかに超えるものがあったはずだ。しかし、本貫の制度は日本に根付かなかった。韓国では、一族のうち誰かが出世したり金持ちになったりすると親兄弟はもとより、親戚縁者・友人など、普段は疎遠にしているものでも一斉にその成功者のおこぼれに与ろうとする。

 また、それに冷たくするようでは、成功者は強い非難を受ける。本貫制度からきているのかどうかわからないが、身内意識が非常に強いのだ。日本以外でも韓国コロニーのあるところでは、それが強く表れる。時には戦闘的でさえある。

 選挙でも、同じ本貫の候補者がいればそこに票を集めるという。朴氏は漢国で8.5%いるのに、大統領支持率は4%とか5%しかないという。これは、おこぼれも出せなくなった同族には用がないということなのだろうか。

 韓国を旅行で回ったことは1度しかないが、その程度ではどうもよくわからないことが多い。

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