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2016年12月31日 (土)

テロの年

 明日から2017年。統計上どうなるのかはわからないが今年は、毎日のように世界各地からテロ発生、のニュースが飛び込んでくる不安定な年だった。直近のものはこれだ。

[北京 29日 ロイター]  国営メディアの29日の報道によると、中国の新疆ウイグル自治区で、3人が乗った車が政府施設に突っ込み、爆破装置を起爆させた。警備員1人と政府関係者1人が死亡、車に乗っていた3人全員が射殺された。

自治区政府はニュースサイトで、事件は墨玉県で28日午後5時(0900GMT)ごろ発生した、と発表した。新華社は事件を「テロリストによる攻撃」と報道、他に3人の負傷者が出た、と報じている。

 新疆はイスラム教徒が多く、自治区になっている。今や、世界は「テロ」→「イスラム」→「悪」という概念が定着しかかっている。アメリカのトランプの発想や西欧政治の右傾化は、イスラム差別に対する抵抗をなくしてしまう寸前にさしかかっている。

 イスラム教徒がからんでいれば、すべて「テロ」でくくり、「悪」としてしまうのは、はなはだ危険であるばかりではなく、これからの世界平和構築にとって、取り返しのつかない事態を招くことにもなりかねない。

 上の中国の場合は、中国共産党独裁に対する自治区の抵抗運動である。アルカイダやISと直接の関係は考えられず、その指示で動いているものではない。その前は、トルコでロシアの大使が背後からピストルで撃たれ死亡した。シリア空爆への抗議と見られるが、イスラム教徒の「グローバル・ジハード」、つまり、一般に恐れられている無差別「テロ」とは全く違う。

 これらは、言葉の上ではテロリズムである。韓国人による3・1独立運動や、安重根による伊藤博文暗殺は、韓国から見れば英雄的行為だが、これを「テロ」と呼んだら韓国はきっと怒るだろう。

 今年起きた事件で、多くの人の念頭にあるのは、ヨーロッパのフランス・ベルギー・ドイツなどで、相次いで発生した市街地における一般市民の大量殺傷事件である。

 ISが関与しているとされるが、犯人はアラブ人でない。チュニジアなどアフリカ出身者が多く中東に縁の無い者もいる。ISの指示を受けた形跡がなく、ISが関与しているような犯行声明がでるが、内容が報道に沿ったもので、加害者の誤認をそのまま使用するなど、本当は関係がない。

 ISには旧バース党軍人などが参加しており、組織的統治がややみられるものの、国際法上の国家のような仕組みが機能しているわけではない。あるのは、ムスリム共有の戒律コーランとカリフ(宗教指導者)という個人中心の世界である。

 したがって、声明とか宣言などと言っても、はっきり言っていい加減なものだ。ISに先行したアルカイダは、ウサマビンラディンが創設したものだが、ジハードの対象としているのは、アメリカ、イギリス、イスラエルなどを十字軍と称して限定していた。

 ここには、フランス・ドイツなど、イラク戦争で多国籍軍に加わらなかった国は含まれず、十字軍とは縁の無い日本が入っている。イラクPKO参加が関係しているかもしれない。なお、「十字軍」や「戦争」など、文明や宗教の衝突を思わせる発言は、9・11テロを受けたブッシュ大統領が最初である。

「(イスラム世界に対して)十字軍戦争を宣言し、国際社会に対テロ戦争の同盟を呼びかけ、明白な戦争をしなければならなくなった」(川上泰徳『「イスラム国」はテロの元凶ではない』所載)

 以上見てきたように、イスラムといっても多様・複雑で、シーア派・スンニ派間のテロの応酬が激化しているほか、スンニ派の中でも強硬派、世俗派、原理主義過激派、同穏健派や国をもたないクルド族との対立、各国に散在する少数民族の反抗など、個別に見て行かなければならない。さらに強調しておきたいことは、ほとんどのイスラム教徒は、平穏に暮らしていることである。

 その中でISが国境を越え世界的規模の聖戦、つまりグローバル・ジハードを唱え、世界の若い兵士を糾合して世界制覇のウンマ(イスラム共同体)を目指そうとする指針を示した。彼らも一般市民の殺傷は、いいこととしていない。しかし、空爆などで受けるイスラム教徒市民の被害とくらべれば、「目には目を」のイスラム法上決して行き過ぎだとは考えていないのだ。

 過激派組織として恐れられていたアルカイダも当初は、ユダヤを支援するアメリカと戦うという目標がはっきりしていた。しかし、エジプトやサウジなどの国家権力は乗ってくる気配がなく、アラブの春もあってイスラムはばらばらになった。アメリカの中東介入は見事に失敗し、オバマはイスラエルの横暴をけん制、イランとも妥協の道をさぐる事態になった。

 そこへ、複雑で戦火がたえなかったシリアで、ロシアがアサド政権立て直しのため介入し、トルコと組んでISやアルカイダ系をのぞく反政府組織との停戦を実現させて、ISの分断や後退にめどが立ちそうである。反アサドだったアメリカが、方針転換してロシアと歩調を合わせられれば、中東に平和をもたらすかすかな手がかりが期待できるかもしれない。

 まあ、実現しそうもない楽観論だが、塾頭の初夢としておこう。

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