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2016年9月29日 (木)

漢字文化

 「漢字文化圏」といえば、長い間中国・朝鮮・日本・ベトナム、それに台湾だった。それが、南北朝鮮のハングル文字優先で漢字を追放したため、国で言えば中国と日本だけになってしまった。韓国と北朝鮮は姓名のもとが「朴槿恵」「金正恩」などと漢字であるが、日本では「ボク」や「キン」でなく「パククネ」とか「キムジョンウン」と朝鮮語読みにする。

 かつてはそうでなかった。放送でも、金大中はキムデジュンでなくキンダイチュウ、李承晩は、イスーマンでなくリショウバンと日本読みした。中国人の場合は、毛沢東・胡錦濤・習金平など、古来一貫して日本語読みであり、マオツートンなど中国での音は使わない。

 その間の事情を、玉井人ひろたさんにお調べいただいた。そこには、

昭和47年(1972)9月、当時の田中角栄首相が中国を訪問し周恩来首相との日中国交回復の会談の際に、日中両国の人名は、互いに、読む人の国の読み方を従来通りに継続することで合意。理由としては、漢字文化を共有する中国と日本では、正しく名前を伝えるために相手の漢字を連想させるのが最も早い方法だとして、読みよりも漢字を優先された結果――、

と記載されている。

 若い人には信じられないだろうが、昭和30年代から40年代にかけて波はあったものの「日中友好ブーム」というべきものが民間・政府を問わず何度かあり、熱狂的に盛り上がったこともあったのだ。周恩来や郭沫若などは日本に留学し、日本人の思考回路に精通していたせいもあっただろう。

 朝鮮人は、日本敗戦まで日本人そのものだった。中国人と違って近すぎたことが、その後の両国民に心理的トゲとして残っている。しかし、それも最近は当時を知らない人々の間で過剰に増幅されている。例えば、皇民化で氏姓変更を強制されたという話。塾頭のクラスには数人の朝鮮姓に人がいて、日本語読みだったが改姓した人は一人もなく聞いたこともなかった。

 周恩来が感じたように、日本では歴史、文化、言語、宗教、国民性など、すべての面で漢字は身に沁みついており生活から切り離すことができない存在なのだ。「日本」という言葉にはじまり、明治・大正といった元号や神武以来の天皇の諡号は、全部中国の「音」を借りたもので、日常言語の中にも溶け込んでいる。

 この面で中国と日本は、世界で漢字文化を両国だけで共有する非常にめずらしい間柄だと言えそうだ。韓国の文化人の間で、漢字復活の意見があるというが、わかるような気がする。これを活かせないということは、世界的に見て奇妙な現象というべきだろう。

 今、国際語といえば「英語」を誰しもが想起する。欧州各国の言語は26文字程度の音標文字・アルファーベットで表記され、類似した言語形態である。しかし漢字のように文字からその意味や含みを読み取ることはできない。

 EU各国は国境や通貨で差別することのない「共同体」である。議会や政府に相当するものもある。お互いの話し合いは、イギリスが脱退したけど英語でするのかな、と思ったら、定められた公用語は加盟国数より多いのだそうだ。1国で複数の国語を持っている国があるからだ。一体感を保つといっても容易なことではないことがわかる。

 国際交流の中で言語が持つ意味は、安倍首相の英会話ですむような簡単なものではなさそうだ。世界でキリスト教に次ぐ第2の宗教人口はイスラム教徒が占める。彼らが唯一の神と共に尊ぶのが神の声・コーランである。そのコーランはアラブ語で唱え、アラブ語で理解するきまりになっている。

 だから、スンニ派・シーア派の激しい対立や解釈の相違はあるが、基本的には他の宗教・民族より容易に一体化する。これが政治の上で実現し、ISのような原理主義的後進性が克服されなければ、多様性をもって成り立つ現行社会にとって脅威となるだろう。

 漢字文化の持つ意味をあらためて考えてみたい。

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コメント

朝鮮と事情が似ているのがベトナムで、ベトナム語の7割は漢字由来であるそうで、名前も同じでグエン姓は漢字で『阮』で比率が38.4%もあり、朝鮮で一番多い『金』姓の割合よりも多い。
朝鮮もベトナムも姓が漢字由来でしかも数が限定的なのは、その姓自体が中国に由来しているためらしいのです。
ベトナムでは阮が38.4% 陳が11% 黎が9.5%で上位3位だけで6割にも上る。

これと対照的なのが日本で、同じ漢字を使っているが何故か、中国由来の姓は、非常に少なくて例外的。しかもとんでもなく数が多い。
地続きの朝鮮やベトナムは漢字を捨てたが、
海で中国と200キロ以上離れている日本では今でも漢字を大事に使っているが、
地政学的な違いで漢字に対する熱の入れ方が違っているのでしょうか。

投稿: 宗純 | 2016年9月29日 (木) 15時18分

コーランにはアラブ語に限るとの但し書きがるので翻訳は不可能なのですが、
実は西欧キリスト教(カトリック)の場合にも同じ事情でラテン語やギリシャ語からの翻訳が重罰で、分かりやすく自国語に翻訳したものは死刑になっています。
イングランド王ジェームズ1世がイギリス国教会を設立、1611年に英訳聖書を作ったのが最初なのですが、
面白いことに東方正教会では早くから自国言語に翻訳して使っていた。当時は正教の方が民主的であったらしい。

投稿: 宗純 | 2016年9月29日 (木) 15時44分

話の本質とは別の重箱の隅つつきのような、くだらないことに拘るネットウヨそっくりの困った人物がいるので

以前のコメントではイギリス国教会の設立が1611年だった誤解されるような書き方で、
国教会の成立は欽定訳聖書よりも半世紀以上も前のヘンリー8世の離婚問題が原因だった、訂正しておきます。

投稿: 宗純 | 2016年9月29日 (木) 16時37分

アラビア語が理解できる珍しい政治家に「小池百合子都知事」がいますが、これからの都政に何らかの形で生かす考えも有るのでしょうかね?

投稿: 玉井人ひろた | 2016年9月29日 (木) 17時22分

宗純さま
ベトナムは中身まで触れなかったのを補完していただきありがとうございました。

朝鮮・ベトナムは中国から地方行政官が赴任し税などの記録を取っていたが、日本は帰化した人やそこから知識を会得した日本人や、仏教を移入した人などが漢字文化を定着させ消化したのでしょう。日本独特の異文化吸収力の大きさは明治維新でも見て取れます。また、植民地支配を受けなかったことも大きかったと思います。

一神教の聖典の民は、同じ発想をするんですねえ。イスラムが一番あとから出てきてムハンマドが最後の預言者ということで、それだけ厳格なんでしょう。

投稿: ましま | 2016年9月29日 (木) 20時49分

玉井人ひろた さま
 彼女、一時それを売りにしていたこともあるようですが、都知事ではそれを発揮する場もメリットもないということですか。

あまりそれを出すと、学歴詐称などに火がつくことにもなるし……

投稿: ましま | 2016年9月29日 (木) 20時56分

この記事にTBしているHN玉井人ひろた氏ですが、
それにしても最後の1行で、それ以外の記事の全部が台無しにする不思議な特徴がある。
少し前には外国商船を突然砲撃した国賊中の国賊というか、正真正銘のテロリストを『郷土の英雄だ』と主張していたが、今回も『中国が悪い』と、低能ネットウヨのソックリさんを演じている。
歴史的事実は正反対ですよ。
あの日本版ネオコンの前原誠二が仕掛けた悪質な挑発行為を日本中のマスコミが挙国一致で応援していた事実は確かにあるが、騙された方にも責任はある。 

投稿: 宗純 | 2016年10月 2日 (日) 11時26分

宗純さま

この記事に直接関係のないことで、第3者には何のことかわかりません。誹謗中傷のためのスレッド利用は以後お断りします。

投稿: ましま | 2016年10月 2日 (日) 16時35分

ましまさん、
御自分が書いた記事を、もう一度読んでください。
この記事に直接関係のないこどころか、はっきりと当該TB記事の事が書いていますよ。それは勘違いです。
また、誹謗中傷とは面妖な。
単に客観的な正しい事実を書いただけであり、
何かコメント内で間違いがあったとすれば、それを具体的に指摘するのが筋です。
事実を指摘されて、誹謗中傷だというのは、それこそ誹謗中傷の類になります。

投稿: 宗純 | 2016年10月 3日 (月) 10時07分

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