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2016年7月19日 (火)

見えなくなった中東

 題は異なるが前回の続きである。「アメリカは見えないような形で、中東紛争の主役から手を引きつつある」と書いたが、テロや内戦などを通じてわれわれが持っている中東の常識が通じなくなっていることを、メディアも論評も追い切れていないように思うのである。

 「悲しい現実だが、アメリカの中東政策はワシントンでなく、イスラエルのエルサレムで作られていると言っていい」。イスラエル・ロビーの影響力を、ポール・フィンドリー元下院議員はそう表現する。では、人口比率三%にも満たない在米ユダヤ人社会が、なぜそれほどの影響力を持ちえるのか。

 これが10数年前に発刊された岩波新書・土井敏邦『アメリカのユダヤ人』の課題だった。それを、米大統領選で民主党のヒラリー・クリントン候補と接戦を演じて脚光を浴びたトニー・サンダース氏が、主要政党の指名争いに躍り出た初のユダヤ系候補として、崩そうとしている。

 しかも、彼はイスラエルの占領政策や米国のイスラエル寄り姿勢を批判していることに対し、米国ユダヤ社会では若者を中心に支持されるようになってきた。また、イスラエル・ロビー主流派によるイラン核開発合意断固反対が成功せず、歴史的敗北を喫している。(毎日新聞⇒立山良司『ユダヤとアメリカ――揺れ動くイスラエルロビー』中公新書)

 中東で爆弾テロとか、戦争によらない民衆による抵抗運動が出始めたのは1987年頃のいわゆるインティファーダ発生の頃からである。それ以来、アメリカにおける同時多発テロ9・11を頂点としてパレスチナ問題抜きで議論されることはなかった。

 しかし、焦点はイラク・シリアのISやクルド人問題、そして欧米を巻き込んだ難民・移民など、民族の大移動を思わせる人口問題に移っていった。その中にはトルコ→ドイツ、ロシア→イスラエル、アフリカ→フランス、ポーランド→イギリスなど各国特有の事情も抱えこんでいる。

 テロの発生が多様化している中で、これらが各国の右傾化を下支えしているようだが、若者を中心にした協調・一体化への動きも顕著になってきた。イスラエル、パレスチナにも見られる現象で、もう一度アメリカの中東政策の裏側にある変化に目を移そう。

 CNNによると、米政府は15日、2001年9月11日の米同時多発テロに関する調査をまとめた議会報告書のうち、長く機密指定にされていた箇所を公開した。報告書は同時多発テロを起こしたハイジャック犯の一部が、サウジ政府とつながっている可能性のある複数の人物から支援を受けていたと指摘している。

 サウジは、アラブイスラム圏の中で緊密な石油利権による独占的な利益をアメリカと共有していたため、パレスチナのイスラム教徒を救わなければならない立場に蓋をしてきた。サウジ人の中には、これに強く反発し、政府の公式立場と逆の行動をとる王子などの存在を、当塾でも指摘したことがある。

 シェール・オイル開発成功などで、アメリカは経済的にもサウジの存在にこだわらないようになった。ISに対抗するには、同じスンニ派であるサウジより、それと対立するシーア派・イランの協力を得た方がいい。イラクはシーア派が多数派で、現政権も傀儡とはいえアメリカが選挙で作った政権だ。

 かつての、イスラエル・アメリカの共通の敵イランと核問題についての決着がついたので、もう必要ないとばかり、かつての秘密を暴露したわけだ。同盟国がこんなにあっさりと見限られる例は見たことがない。

 中東から、アメリカとユダヤと石油という相関関係はなくなった。もはやここで不毛の対立に固執し命を無駄にする必要は何もない。イスラエルやパレスチナの若者もそれに気がつき始めたのだ

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