無秩序時代
戦後71年。今ほど無秩序だった時代はあっただろうか。答えは「なかった」になってしまう。米ソが張り合った冷戦の時代、東は東、西は西でそれぞれの秩序があった。植民地から解放された小国は、独裁国とか王国あるいは共和国として所帯を持った。
代理戦争、部族間抗争、国境紛争、宗教の衝突があっても、それらは「地域紛争」と呼ばれた。ソ連が崩壊してアメリカ一国支配の時代が続いたものの、突如アメリカが中東紛争の後始末に失敗し、世界はかつて経験のない無秩序時代に入った。
キリスト教に次ぐ信者と広がりを持つイスラム教は、大多数のスンニ派と少数派のシーア派があり、融合することはなかったが、共通の聖地巡礼とコーランは守られ、一定の秩序のもとでイスラム世界が成り立っていた。
それを一変させたのは、独裁権力機構を失ったイラクとシリアで、ここはかつてのイスラム全盛時代の中心だった地だ。そこにいわゆる「アラブの春」後の混乱の中から、主にアメリカと対立していたアフガン・パキスタン生まれの過激派、アルカイダを超越して出現したのがIS国である。
スンニ派の原理主義を信奉する彼らは、異教徒が引いた国境線や、神やカリフと呼ぶ宗教指導者ではない近代国家や、王室その他一切の権威を認めない。神の意にそわない相手とたたかうためには命を惜しまない。それが、最後の審判を受けずに至福の境地に達する近道であると、差別の多い世界から若者を集める。
この、相手を選ばないジハード至上主義は、同じスンニ派のサウジ、エジプトや多くの湾岸諸国に違和感と警戒感を抱かせると同時に、イラク・シリアに多いシーア派住民の排除に向けられた。イランは、核問題でアメリカとの確執が解け、IS壊滅という点でロシアとも同じ土俵に立つことになったのだ。
しかし、一旦IS国によって点火された原理主義の理念は、連合軍の空爆などでイラク・シリアから勢いをそいでも、すでにリビア、シナイ半島など各地へ飛び火しており、軍事力で消滅させることは不可能と言っていい。世界の無秩序の発生源ともなっている。
アメリカは大統領の予備選挙の真っただ中である。トランプ優勢、このまま米大統領になるようなことになったらどうなるか?。「強いアメリカ」どころか、国内に大混乱を招きかねず、世界の無秩序に拍車をかけることになるだろう。
「韓国や日本がアメリカに国を守ってもらいたいなら、もっとカネをだせ」。これがトランプ氏の口調である。これを彼の口調で言いかえすとこうなる。
日本が居心地がいいというから基地を置いてやっている。ここから中東へも米軍が行き来している。日本で不動産を借りたりすると、家賃のほか敷金・礼金も払わなければならない。それどころか、思いやり予算といって、増改築費はもとより、お手伝いの人件費や電気代など光熱費まで払ってあげてる。それも知らないで、脅かし文句が利くと思っている。そういうのを、日本では「悪徳不動産屋」という。
日本の政治の無秩序は、すでに始まっている。憲法無視、強行採決、政治家の放言・非行、言論圧迫……。世界はおくとしても、われわれは、まずここから秩序回復を始めなくてはならない。
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コメント
抜き打ち解散は自民にとっても大バクチ。準備不足の党に受け入れる用意があるかどうか。
一方、アメリカはかつて日本の裁判に横車を押した前科がある。アベのもくろみはどっちでしょうか。
ただ、反対運動に水をさしたという一面は、無視できないのでは。
投稿: ましま | 2016年3月 4日 (金) 20時53分
なんと、安倍首相は辺野古での工事中止との裁判所の和解案を飲んだらしいですよ。
沖縄県側はもともと和解案に賛成なのですから、裁判闘争は中止されます。
多分、もうすぐ抜き打ちで選挙があるのです。
投稿: 宗純 | 2016年3月 4日 (金) 13時36分
その点は、クリントンさんが一番ましなんでしょうか。
無知・魑魅魍魎ばかりで、聖人君子はどこを探してもいないようです。
投稿: ましま | 2016年3月 3日 (木) 19時37分
>「韓国や日本がアメリカに国を守ってもらいたいなら、もっとカネをだせ」
上記言葉で思い出すのは、過去にアメリカの外交官が「金を出さないなら、米軍を引き上げる」と言い放ったのを思い出しました。
その時のアメリカ政府の慌てようは滑稽でした。引き揚げたら、アメリカの予算に大きなダメージ(赤字)を生んでしまうことを、その外交官は知らなかったんですね。
たぶんその後更迭されたんでしょう
無知なほど、何でも言えるという典型でしょう
投稿: 玉井人ひろた | 2016年3月 3日 (木) 15時59分