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2015年12月12日 (土)

トランプ現象と反知性

 米大統領選で共和党の指名候補争いの首位に立っているドナルド・トランプ氏は7日、イスラム教徒の米入国を禁止するよう主張した。カリフォルニア州で先週発生した銃乱射事件の犯人はイスラム教徒だったらしいという報道を受けてのものだ。

 大統領になれるかどうかは別だが、ワシントンをはじめ世界史に残る名大統領を生んでいるアメリカも、「遂にここまで落ちたのか」との思いが強い。もっとも、よその国の事は言えない。ウソであろうとはったりであろうと、大衆受けする大言壮語で人気や票を集める方が勝つ、という傾向がこのところ日本でもはやり出した。

 さすがに、共和党内からも対立候補ブッシュ氏から「彼は錯乱状態」という批判も出ており、同国内を始め、フランスやイギリスなどの首相からも批判を浴びている。しかし、世論調査では共和党内でダントツを譲らず、これに乗じたムスリム襲撃も絶えないようだ。一方、ヨーロッパでも地方議会で排他主義をとる右翼政党がトップを占めるなどの傾向が続いている。

 古代ギリシャの衆愚政治からナチズムに至るまで、様々な試行錯誤の中からヨーロッパの文化・芸術・哲学などが生まれ、知性が育まれた。民主主義と中道の尊重もその一環である。極端なレイシズムは、知性を尊重する連立政権により排除されるだろう。

 知性という言葉に対し、最近「反知性主義」という言葉がよく使われる。不勉強な塾頭は、これを日本の新造語だと思っていた。知性に反する思想なのか、知性を信奉する人への反感なのかははっきりしない。それに、何にでも「主義」を付ければいいということが、それこそ反知性的だと思えたので、使ったことはなかった。

 ところがなんと、Wikipediaをさぐると英語、Anti-intellectualismがもとでアメリカ生まれなのだ。以下、その由来を引用しよう。(参考文献表示は省略)

 知的権威やエリート主義に対 して懐疑的な立場をとる主義・思想。言葉自体は1950年代のアメリカで登場したとされその後、リチャード・ホフスタッターが『アメリカの反知性主義』(Anti-intellectualism in American Life、1963年)で示したものが知られる。

 一般には「データやエビデンスよりも肉体感覚やプリミティブな感情を基準に物事を判断すること(人)」を指す言葉として思われているが、実際にはもっと多義的な観点を含む。また、その言葉のイメージから、単なる衆愚批判における文脈上の用語と取られることも多いが、必ずしもネガティブな言葉ではなく、ホフスタッターは健全な民主主義における必要な要素としての一面も論じている。むしろ、知的権威、エリート側の問題を考えるために反知性主義に立脚した視点も重要だとも説く。

 反知性主義という言葉がにわかに登場したのは1950年代、特にマッカーシーの赤狩りや、1952年のアメリカ合衆国大統領選挙を背景としたものが挙げられる。

 このアメリカ大統領選挙では、政治家としての知性、キャリア、家柄とどれをとっても遜色なく弁舌の腕もたち、知識人からの人気も高かったアドレー・スティーブンソンが、戦争の英雄といえど政治経験は皆無でおよそ知的洗練さとは無縁、むしろ政治家でないことをアピールして大衆の支持を得たドワイト・D・アイゼンハワーに圧倒的大差で敗れており、反知性主義の象徴的な出来事として挙げられる。

 また、マッカーシーやその支持者達は対共産主義という枠を超えて大学教授や、知識人の家系といった知識人層を攻撃した。このように反知性主義とは反エリート主義の言い換えといった側面がある。

 反知性主義はアメリカで前例があったのだ。その例によると、単なるトランプ現象では選挙に勝てないということになっているが、近くはCIAやニセ情報に踊らされてイラクで戦争を起こしたブッシュの例がある。

 戦争を好む庶民はいない。しかし、9・11というショッキングな事件でブッシュはナショナリズムをかきたて戦争に持ち込んだ。敵はウサマビンラディンをかくまったアフガニスタンでイラクではない。中東の戦火は果てしなく続き、平和志向のオバマ大統領も、いまだに抜け出せないでいる。

 日本は、昭和8年、満州独立を承認しない国際世論に反旗を翻して国際連盟を脱退した。この演説をして席を蹴った松岡代表に喝采し、代表の帰国を万歳で埠頭に迎えた国民は、これがやがて米英との戦争を誘発することになるとは考えなかった。

 この風潮を危険視した知性派は少なくなかったものの、景気復興と軍国日本の大陸制覇に気をよくした声の中でかき消されてしまった。知性喪失国が行き着く先に気が付くまで、あと10余年を要することになる。

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