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2015年11月 6日 (金)

70年前の《今》⑫

 このシリーズは、終戦の日までで終わったつもりだったが、高見順の『敗戦日記』から付け足しておくことにした。

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十一月六日

 帰りの電車で。(中略)

――私たちの傍に、工員風の青年が二人いたが、
「黒ン坊の奴……」
 侮辱的な語調だつた。そして、膝の上に無造作にのせた片足のくるぶしをいわば威嚇的に示威的に叩いて、
「英語ナンテ俺は知らねえや。一つ知っている。シガレット……」

 大きな声で言った。明らかに「不良」染みていた。そのうち二人は黒人兵の前の空席にツカツカと行って腰かけた。例の中老の紳士の隣である。終電のひとつ前で、車内はすいていた。何か喧嘩でも売りに行つたのではないかとひそかに憂えられた。

 しかしやがてその二人の顔にニヤニヤ笑いの浮かんでいるのが、こっちから見られた。間もなく、ニヤニヤ笑いは哄笑になった。

 一人が席から立ち上つた。黒人兵の前へ行く。
「……?」
 煙草を貰つているのだった。手の先に白い煙草を捧げてピョコンと頭を下げている。その卑屈な笑い顔は、正視しがたいものだつた。

 黒ン坊の奴と口汚く罵つていたその当人が、黒人兵から煙草を貰つて大喜びだ。どうやら煙草を貰いに黒人兵の前に行つたらものしい。

 尊大と卑屈が隣り合つている。びたりとくつついている。それはこの下品な、粗暴な、恥かしい二人の行為だけのことではないのだと私は思つた。

 支那人を何かというとひつぱたいていた大陸の日本人たちは、今、支那人たちに逆に監禁されて、さて、どんな態度を取っていることか。(後略)

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