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2015年9月13日 (日)

正当防衛と自衛権

 「急迫不正の侵害に対して……」。そう、安保法制化の国会討論などによく出てくる言葉です。これは、もともと刑法第36条(正当防衛)にあり、それが、国の「自衛権」に援用されているわけです。その条項の全文はこうなっています。

(正当防衛)
第三十六条   急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
 この条文でもわかるように「正当防衛」は、「正義防衛」ではありません。法制化賛成の皆さんは、よく「国際法にも認められた、自衛権・集団的自衛権」などと言いますが、これも条文を示しておきましょう。

第51条
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持または回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。

 このように、いずれも暴力行為や戦争が「正義」であるとは書いてありません。それらは基本的に「悪」なのです。それが「悪」とならない例外が規定してあるだけなのです。同じ「権利」でも言論や投票のように積極的に使わなければならない権利ではなく、使わない方がいい権利なのです。

 「国際環境の変化にともない、国民の安全と平和を守る」というのも、安保法制化や集団的自衛権行使の口実にされています。国際環境の変化というのは何を指すのでしょうか。中国が尖閣諸島の領有権を主張しているのは今に始まったことではないし、国力が増したり軍事費が増えたことを言うのでしょうか。

 それならば、使わない方がいい権利を使わないで済む方向に持っていく努力がまず必要になります。それをしないで、アメリカを頼りにした抑止力を増強するのだと言います。塾頭も必ずしも日米安保体制の強化に反対ではありません。守る備えも気概もなければ、近隣国はかえって不安に感ずるものです。

 ただ、中国や北朝鮮が憲法9条を持つ日本の国土を侵攻したりミサイル攻撃ををしてくることはありません。なぜならば、国際世論を敵に回し莫大な犠牲を払ってまでそれをするメリットがないからです。しかし、日本はそのあり得ないことをかつてやってしまったのです。

 そうなったいきさつは本塾でもたびたび取り上げてきました。軍部や一部右翼の跳ね上がりが相手弱しと見て挑発したのが始まりです。それが途中でやめられなくなり、太平洋戦争へなだれ込んだのです。

 つまり、相手弱しと見られない、その程度の自衛力があればいいのです。中国の方が上回ったとしてもまだ世界屈指の防衛予算があります。 ただ気をつけなければならないのは、アメリカには「正義のための戦争」という発想が根強くあることです。これは、全部とは言いませんが一神教キリスト教の「善」である神に対し、対抗軸に「悪魔」を置いてこれと戦う信者としての義務があるとしいう信念です。

 似たようなことで「自由と民主主義を根付かせる」というのもあります。人類普遍の価値観と言いますが、イスラム圏の国や社会主義国の中には、それが混乱のもとで、お節介をしないでほしいと思っている国、民族も存在します。

 さらに、アメリカには一極主義(ユニラテラリズム)、つまり世界の警察官しいう自負と気概がありました。オバマ大統領は、すこしづつそれを修正ていますが、国内には保守派を中心に根強いものがあります。アメリカには憲法9条がなく「正義」の戦争はあります。集団的自衛権は諸刃の剣にあえて近づこうという暴挙です。

 アメリカは、これまでの中東への介入戦争の戦費負担や兵員の犠牲・損傷など後始末に悩んでいます。この肩代わりをしましょう、お手伝いします、という奇特な国があれば、むげに断るわけにもいかないでしょう。

 アメリカがテロの報復を理由に戦争を始めれば、日本がこれに巻き込まれる可能性は極端に増す、これが集団的自衛権を含む安保法制化の危険性です。アメリカにならって、敵を作り悪魔を作る、これにより憲法9条は形骸化に一直線です。

 「法の安定性は考えなくてもいい」、これが首相側近の本音だったのです。中国の勃興、ドイツのEUにおける主導的活動、核軍縮などに力をますアジェンダ―諸国など、世界は一極主義から多極主義へ向かおうとしています。世界環境の変化とはこれを言うのではないでしょうか。

 憲法9条が力を発揮する時代が漸く来たのです。自国の安全はもとより、シリアの問題、ウクライナの問題でも解決の手がかりを提案できる実績があるのです。それを台なしにしようとする法案を阻止するのは、これ以上ない愛国的な行動ではないでしょうか。

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コメント

だったらその素晴らしい憲法9条を、中国と北朝鮮にも勧めたら?

投稿: makoto | 2015年9月13日 (日) 14時23分

いい考えです。現に鳩山政権の時、鳩山さんは岡田外相とともに遠い目標ではあっても「東アジア共同体」というEUのような仕組みを念頭に置いていました。

それができると、アメリカ一極の体制が完全に崩れることになり、外務官僚の猛反対で普天間本土移転計画とともにつぶされました。

民主党の中がバックアップせず、むしろ足を引っ張ったことも原因です。

投稿: ましま | 2015年9月13日 (日) 18時21分

安倍晋三や中谷元が丁寧に説明すればするほど意味不明になる。
逃げ水か蜃気楼の様な摩訶不思議な今回の平和法案の国会審議ですが、
この国会答弁で目から鱗で、長年の疑問が氷解して実に気分が良い。
なるほど。なのですから嬉しいかぎりである。
世界有数の軍事力を持つ自衛隊が、『ニホン国憲法の9条に違反しない』との摩訶不思議な馬鹿話のタネ明かしですが、
今回の安倍晋三『なんちゃって平和法案』の国会審議で明らかになったのです。
自衛隊法の主語は『自衛隊』では無くて、『自衛隊員』なのですよ。
大砲をぶっ放そうが戦闘機を飛ばそうがイージス艦がミサイルを撃とうが、実は自衛隊が行う武力行使では無い。
『武力行使』なら憲法9条で明確に禁止しているので、憲法違反でアウトなのです。

なんと何と、戦闘機もミサイルでも大砲も、自衛隊員個人個人が勝手に自分自身の責任で行うものであり、武力行使には当たらない。
警察官などが、刑法の正当防衛の範囲で行う、武器の使用なのですよ。
なるほど。
日本には軍法会議が無い理由は、
自衛隊員とは今でも半世紀前の創立時の警察予備隊の隊員であり、予備警察官扱いなのですね。
自衛隊としての武力の行使は明確に憲法の9条に違反するが、
自衛隊員個人が正当防衛で武器を使ったなら9条には違反しない。
擬装国家、此処に極まれりで、なんとも愉快ですね。
笑っている場合では無いのですが。

投稿: 宗純 | 2015年9月14日 (月) 08時13分

宗純 さま

法の安定性を考えなくてもいい――。安定性はとれているんです……。(大喝采)

投稿: ましま | 2015年9月14日 (月) 08時33分

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「無理が通れば道理が引っ込む」というのは日本の政治の悪しき伝統であって、戦前の某陸軍大臣が「行政の長」になったときとも同じように時の流れには決して逆らえないという一種 ... [続きを読む]

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