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2015年6月12日 (金)

イラクのサッカー選手と国歌

 昨日、イラクと日本のサッカー戦が横浜であった。ちょうど夕食時でこれから始まるというところをテレビが放映していた。恒例の国歌が始まる。イラクはお国の方が存亡の危機に瀕した内戦状態。こんな時、よく出てこれるなあ、と思った。

 当塾には2月6日付で「旧・イラク国歌」という記事がある。歌詞の最初はこうだ。
 
 ♪バース党の戦士よ  
 堅固なるすみかのライオンよ
 輝かしき勝利のために前進せよ
 我らが大地に
 カリフ=ハルン・アル・ラシッドの
 御世を復し給え……

 イラク選手は、どんな歌を歌ったのだろう。熱心に歌っていたことはたしかだが、サダム・フセインと共にほろんだ「バース党の戦士」ではないだろう。大変気になる事柄なのでスポーツ紙iに何かないかとネットをさがした。

 見た限りそんな記事はない。日本人には関心の外の事ということか。ただ、サンケイスポーツにこんなのがあった。観戦した三浦知良の印象、もちろん「君が代」のことだろう。

ピッチで聞く国歌は「欧州チャンピオンズリーグのアンセム(試合前に流れる賛美歌)を聞いたときよりも興奮しました」

 イラク選手は泣きたい気持ちだったに違いない。彼らにとっての母国は、なきにも等しい状況になっているからだ。国家・国民を背負っているなとどと思わないで、トレーニングのように精出すしかない。

 それなのに、ネットの試合評では、4-0で勝った日本選手の健闘には触れず、相手の手抜きだとか、観客を愚弄しているとか、弱い相手を選んだ主催者の落ち度だといった酷評が巾を利かせていた。

 イラク選手はどういう人たちかわからない。アメリカが大量破壊兵器を隠しているというニセ情報で攻め込んだイラクは、かつてフセインの独裁国ながら、ムスリム・シーア派、同スンニ派そしてクルド人を何とかまとめてきた。そして中東では近代化が進み、豊かな国でもあった。

 同国を支配下に置いたアメリカは、早速戦争目的を民主化に変えた。投票で選ばれた首脳は、当然多数を占めるシーア派から出ることになる。シーア派を国教とするイランは、イスラエルにとって最大の敵対国だが、イラクが傀儡政権ならアメリカも何とかなると踏んでいた。

 そこで、オバマは公約の米兵撤退を実現させることに成功した。しかし、非力な傀儡政権では後が続かない。スンニ派の巻き返し、最過激派のIS国(イスラム国)が隣のシリアも含めて一定領域を確保し、世界に広げる勢いとなる。

 アメリカは、「あとは知らんよ」といって手を引きたいところだが、中東に手出しして多くの米兵を失い、正義の味方でありつづけて世界の頂点に立った手前、国際的にも国内的にも逃げが利かない。そこでやむを得ず、イラク政権に軍事指導という名目でテコ入れをはかることになった。

 指導を受けるのは、シーア派義勇軍だという。多分金で動く民兵に近いのだろう。米軍司令官が、もともと戦意がなく逃げるばかりだと苦情をもらし、手にした最新式武器は、IS側に奪われるというお粗末さだ。愛国心があって鍛えた体を持つサッカー選手が、日本にくる理由がないのだ。

 今の日本人は、イラクというと荒れた砂漠が多く緑の少ない不毛の地というイメージが強いかもしれない。しかし、チグリス・ユーフラテスの大河にはさまれた豊穣のメソポタミア、そこにバビロンという世界最古の文明が発生し、東西交通の要衝として栄枯盛衰の歴史があったことは知られている。
 
 その一方、エジプト、ペルシャ(今のイラン)、ローマ帝国、トルコ、イギリスそしてアメリカの侵攻に蹂躙された生々しい歴史もある。日本のように神代から定住し続け、追い出されたことのない日本民族とは相当違うのだ。アメリカの後方支援だけでなく、彼らの事をもっと親身に考え、思いやらなければならないのではなかろうか。

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コメント

昨日のイラク戦、4対0の快勝でしたが、日本はちょっと出来すぎみたいな・・・。

でも、観ていてスカッとしましたね。

投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2015年6月12日 (金) 19時18分

縦に突っ込むのがよかったみたいですね。

投稿: ましま | 2015年6月13日 (土) 06時40分

申し訳ありませんが・・・

「ピッチで聞く国歌は「欧州チャンピオンズリーグのアンセム(試合前に流れる賛美歌)を聞いたときよりも興奮しました」

上記コメントは、三浦氏ではなく、その試合初先発したガンバ大阪FWの宇佐美選手のコメントでございます。

投稿: 玉井人ひろた | 2015年6月13日 (土) 10時27分

イラク共和国国歌は↓

1番

♫わが祖国、わが祖国。
壮麗な美しさと、 高尚な輝き。
それらがその地の丘に。それらがその地の丘に。

生命と解放。 喜びと希望。
それらはその地の大気の中に。
それらはその地の大気の中に。

出会えるのか、出会えるのか。
平穏で心地良い、その響きと御加護に。
星にも届く、星にも届く、その高き姿に。
わが祖国、わが祖国 ♫

和訳だと、上記のようなもののようですよ。

投稿: 玉井人ひろた | 2015年6月13日 (土) 10時53分

玉井人ひろた さま

ご指摘ありがとうございました。

確かにそのようですね。どう読み違えたのか確かめたく検索をかけたのですが、同じ記事が見当たりません。

その記事には「君が代」の記載がなく、本文では「もちろん君が代のことだろう」と付け足しました。あきらかに、前に見た内容と部分的に違います。

 記事の要旨に影響するようなことではないので、特に訂正はしません。

(追而) 新国歌。ご教示ありがとうございました。

旧国歌に比べて主張も中身も希薄ですね。「♪であえるのか であえるのか」これも悲しくなる。(涙)

投稿: ましま | 2015年6月13日 (土) 11時00分

イラクの今の国歌に付いては良く知りませんが、
国旗の方は昔のフセイン時代の国旗に復帰しているようです。
フセイン大統領時代の国旗を廃止したのがアメリカのイラク占領軍政府(CPA)長官のポール・ブレマーはイスラエル人脈で、何と新イラク国旗はイスラエル旗とよく似ていた。
ブレマーですが、旧与党のバース党を徹底的に弾圧して、一番下っ端の役人まで全て追放するが、これではイラクが今のようにボロボロになるのは当たり前です。
イラクの国旗ですが、これ実はシリアの国旗と星の数が違うだけでデザインが同じなのです。

投稿: 宗純 | 2015年6月13日 (土) 17時06分

イラクもシリアも、社会主義国に似たバース党独裁の国だったわけですが、それは植民地のあとです。

それまでは、部族長支配、王侯支配があったものの、イスラムが柱で国家の概念はなかった。

したがって、国旗とか国歌など、西欧の価値観がない方が自然ですね。

投稿: ましま | 2015年6月13日 (土) 20時07分

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