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2015年5月10日 (日)

政治劣化と戦争

 高木惣吉は海軍軍人である。昭和12年、第一次近衛内閣で米内海軍大臣の大臣官房調査課長として仕え、戦後初の東久邇宮内閣では、再び米内海軍大臣のもと内閣書記官長をつとめた。最後の階位は、少将であった。

 日米開戦前から、海軍の非戦派として陸軍に対抗し、戦中は敗退の責任をとらない東条首相退陣工作に黒子として奔走、実現させたキーマンだったが、歴史の表舞台に立つことはなかった。東条独裁当時にも、抹殺される危険をかわし、目的を遂げることができたのは、皇族軍人に協力者がいたことや近衛などの知遇を得ていたこと、そして、学界などの陰で支えるブレーンに恵まれていたこともあるだろう。

 開戦直前の昭和16年11月、高木は海軍のブレーントラストとして、京都大学に足場を築くことを目的に京都を訪れた際、、史学教授・鈴木成高博士らに次のような談話を残している。やや長くなるが、川越重男『かくて太平洋戦争は終わった』から引用する。

(前略)『支那事変の不始末は許されないことで、国民の皆様に対して申し訳なくお詫びの言葉もありません』と頭を下げながら、支那事変批判、陸軍批判が鋭い語調で述べられた。支那事変の最中に真正面からこんなに痛烈に事変を批判されることなど予想もしていなかったので、一同はびっくりすると共に、高木さんが我々を信頼しての発言であることに気付き、その懐の深さに打たれた。対米外交についても、軍事機密に関する内容などにも触れながら、その緊迫した情勢を詳しく述べられたあとで『世界のトップリーダー達は、スターリンにしろ、チャーチル、ルーズベルトにしろ、またヒトラーにしろ、背後に哲学と思想を持っている。日本の指導者にはそれがない。唯神がかりの独善主義を振り回すだけである。自国民すら説得できない独断論、独善論でどうして世界を動かす戦争ができるのでしょうか。ひとりよがりの皇国史観でなく客観性を持つ世界史観をぜひ教えていただきたい』と熱意をこめて切望された。

 私達が、まさにそうあってほしいと思っていることをズバリといってのけられたので、ここ数年のモヤモヤがふっきれた思いで爽快感があふれた。支那事変をもてあまして、軍民ともに自信をなくし沈黙しきっている中で、右翼の強がりだけが空まわりして、これからどうなることかと考えている矢先だったので、海軍の考えを聞いて救われたという、実感を、その時はじめて感じた。(後略)

 文中のスターリンは失脚し、ヒトラーは自殺に追い込まれた。いずれも、独裁者に祭り上げられ、自らを失ったためだ。さらに、背後にあった哲学と思想が結果を招いたと言えなくもない。塾頭はここで哲学と思想を「知性」と「悟性」に置き換えてみたい。現在の政治が当時より進んでいると言い切れる人がどれだけいるだろう。

(註)
知性 ①物事を考え,理解し,判断する能力。人間の知的能力。「豊かな-の持ち主」「現代を代表する-」②感覚によって得られた素材を整理・統一して,新しい認識を形成する精神のはたらき。
悟性 〘哲〙①広義には,論理的な思考を行う能力・知力を指していう語。知性。②カント・ヘーゲルでは,さらに理性とも区別される。㋐カントでは,理念の能力である理性と異なって,感性に受容された感覚内容に基づいて対象を構成する概念の能力,判断の能力をいう。
(以上、大辞林 第三版より).

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