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2015年4月15日 (水)

積極的平和主義は不当表示

 安倍首相は、国会の答弁に窮すると、「そういったレッテル貼りは……」というようなことをよく言う。そのレッテル貼りの名人は、ご自身・安倍首相をおいてない。「アベノミクス」は、自らの名を冠したレッテルだが、公的な場で口にすることをはばからない。

 「積極的平和主義」、これもレッテルだ。今どきの商品は、レッテルの意味が分からなくても、中身の詳細な表示が必ずついている。首相の使うレッテルにはそれがない。首相の貼ったレッテルなら間違いないだろう、と、中を確かめないで買ってはいけない。

 おれおれ詐欺と同様に疑ってかかった方がいいのだ。首相の使う「積極的平和主義」は、このブログでも数回使ってきた。そのたびに、意味は?、中身は?ということが気になっていた。そこで調べてみると、2013年12月17日に国家安全保障会議及び内閣の閣議で決定された中に、この文言がでてくるらしい。

 もちろん研究者の間ではその前から使われている。うかつながら、塾頭の蔵書に伊藤憲一『新・戦争論、積極的平和主義への提言』新潮新書、というのがあったのを見過ごしていた。2007年9月刊行である。気がつかなかったのは、何故だろう。

 同書の帯にこうある。

”戦争のない歴史がはじまる”
 戦争観の分野でいま起っている変化こそは、人類の歴史が始まって以来最大、最重要の変化と言って、言い過ぎではないのです。あの戦争の記憶の呪縛を越えて、二十一世紀世界においておいて起りつつある戦争の意味の変化を理解しなければ、日本は国際社会の王道を進むことはできないでしょう。

 塾頭も似たようなことを言っているのはすでに御承知の通り。何ら反対する中味ではない。そして最後の章には、

 一極体制下における米国のあり得べき横暴に対して、世界不戦体制はどのような「抑制と均衡(checks and balances)」の構造を持つべきか、その制度化が意味をもつと思います。もっと国際連合の機能を強化すべきなのかもしれませんし、日本やイギリスなどの同盟国の米国に対する助言や同意の重みを増すような工夫も必要なのかもしれません。

とあり、これなど、塾頭の主張そのままといっていい。ところが、同じ章のすこし前に、”イラク戦争は「戦争」ではない”という項目を設け、例のブッシュ大統領がニセ情報でイラクに侵攻し、政権を維持していたサダム・フセインを拘留・刑死させた戦争、それを戦争ではなく、「対イラク軍事制裁」と表現している。

 これは、アメリカでさえ通用しそうもない詭弁だ。戦闘機や戦車を動員して全土を制圧、アメリカの肝いりで選挙を行った。その結果、シーア派支配の政権ができたものの安定せず、現在イスラム国(IS)との内戦でアラブ中を大混乱に落とし入れている。これを軍事制裁の成果とするのだろうか。

 同書の著者のいう「世界不戦体制」は、第一次大戦後の国際連盟、第二次大戦でできた国際連合、いずれもアメリカの主導があってできた、たしかに時の大統領のリーダーシップが大きく寄与したことは事実だ。

 しかし、そういったスキームを無視したり破ってきたのもアメリカだ。著者は、戦争が禁止されている現在、世界の平和を守るためには警官の役割を果たすための一極体制が必要、ともいう。イラク戦争を無理して「戦争」と言わない理由だ。

 世界の警察官としてのアメリカが必要ということだろう。そのアメリカにも、いろいろな人がいる。無抵抗な黒人を簡単に射殺してしまう「警官」だっているのだ。警察官が間違いを起こさないという保証は何もない。

 また著者は、「多極体制」には戦国時代再来の危険があるという。念頭に中国・北朝鮮など核保有国の増大があるということらしい。また、北方領土問題を、国家間の不当・不法な現状と定義し、

 究極的な正義を実現するかという問題こそは、不戦時代の人類の背負う最大の問題であるというべきかもしれません。不戦という言葉は、「現状肯定」と同義語ではないはずだからだです。

とする。そうすれば、どうすればいいのか。巻末にはこうある。

 いつまでも戦争時代の記憶にとらわけていて、「世界で戦争をする国にはさせません」と言い続けていては、この不戦時代の現実が見えてきません。戦争が違法化され、犯罪行為と同一視されるようになった不戦時代の現実を直視するならば、「この町は犯罪を許しません」と言って立ち上がることこそが、市民の立場であるべきなのです。

 冒頭の「帯」と見比べてほしい。巻末近くにわずかに出てくる結論と、どうしてこれがつながるのだろう。頭の悪い塾頭にはさっぱり分からない。必要な所に付箋をつけながら、しっかり読み取ろうとしたが失敗した。

 同書の著者は、日本会議の要職にあるようだから、首相の考えと無縁ではないだろう。集団的自衛権の飾りつけにしたかったのかも知れないが、それとも直ちに結びつかない。そういったあいまいさがいいのだとする論者もいるようだが、もってのほかだ。

 「積極的平和主義」の正体を知りたくて始めた作業だが、同書では到底理解できない。。羊頭狗肉というか木に竹を接いだような中身にがっかりした。レッテルと中味の違う不当表示、でないにしても、「積極的平和主義」はすでに「賞味期限切れ」というレッテルを貼っておくことにしよう。

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コメント

経済学者の金子勝は、

『安倍政権は、外国軍隊への後方支援の新恒久法を「国際平和支援法」と名付ける。戦争する国作りを「積極的平和主義」と呼ぶ。
そのうち原発も「安全発電施設」と名に変えかねない。
戦争や危険をわざわざ「平和」とか「安全」と言うのは詐欺師の特徴です。』
と、実に分かりやすい。
分かり難い積極平和主義の本当の訳語は積極戦争主義でしょう。
70年前に酷い目にあった日本人なら右翼左翼に無関係に誰でも『戦争は違法』だと知っている。
法的にもパリ不戦条約とか国連憲章で戦争は違法だとなっている。
ところが、困ったことに肝心の唯一の超大国アメリカが『戦争は違法だ』と言わない。
それでアメリカ人の中では『戦争は違法』だと知っている人と知らない人が拮抗して色々と問題を起こしているようです。

投稿: 宗純 | 2015年4月15日 (水) 09時19分

宗純 さま

詐欺師とまでは言いませんでしたが、その一歩手前で表現しました。

参考に挙げた図書も、一見学術書風ですが歴史分析が粗雑でひどいものです。

塾頭のような素人が見ても、論理に脈絡がなく高レベルの物とは思われません。

吉田茂ではないが、「曲学阿世」という言葉を思い出しました。

投稿: ましま | 2015年4月15日 (水) 09時58分

「積極的平和主義」とは・・・

「攻撃は最大の防御なり」て、ことですよねcoldsweats01

投稿: 玉井人ひろた | 2015年4月16日 (木) 18時35分

それならば『積極的戦闘主義』といえばいいのにィangry

投稿: ましま | 2015年4月16日 (木) 19時59分

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