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2014年9月29日 (月)

文学に見る"噴火目撃"

井上靖『日本の文学71』中央公論社「小磐梯」より

 私はその時台地の上に坊主頭が一つ二つ立ち上がって来るのを見ました。そして全部の頭が私の眼にはいつて来た時、私は一人の子供が大きな声で唱うように叫ぶのを耳にしました。

 ――ブン抜ゲンダラ、ブン抜ゲロ
 すると何人かの子供がまるで体から振りしぼられるような声でそれに和しました。
 ――ブン抜ゲンダラ、ブン抜ゲロ
 私ははっきりと何人かの子供たちが磐梯山に向かい立っているのを見ました。そして私の耳は彼らがありったけの声を張り上げて叫ぶのを聞きました。

 ――ブン抜ゲンダラ、ブン抜ゲロ
 そうです。その歌とも叫びとも判らぬ絶叫の合唱が終わるか終らぬうちに、轟然たる大音響が大地をつんざきました。私は自分の体が一間ほど右手へ吹き飛ばされ大地へ叩きつけられるのを感じました。大音響は次々に起こり、大地は揺れに揺れています。いつ私の眼が磐梯山を捉えたのか、そのことはあとで考えても判りませんが、とにかくその時、磐梯山の山頂から火と煙が真っ直ぐに天に向かって噴き上がり、その地獄の柱は一瞬にして磐梯自身の高さの二倍に達していたのであります。磐梯はまさしくぶん抜け、この時小磐梯は永遠にその姿を消してしまったのでした。もちろんこうしたことは私があとで知ったことであります。

 明治21年7月のこの噴火のタイミングは、気象庁・噴火予知連絡会より、坊主頭の子供の方がはるかに正確に言い当てたようです。

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コメント

ブン抜ゲンダラ、ブン抜ゲロ

標準語にすれば「打ち抜けるんなら、打ち抜けろ」となるでしょうが、この場合「破裂するなら、はやく破裂しろ」という意味でしょう。

噴火前に山が少し膨らむと言われます。その現象があったのでしょうね。

投稿: 玉井人ひろた | 2014年10月 1日 (水) 12時44分

昔、裏磐梯の反対、猪苗代湖がわのふもと、それこそ軽トラック級の火山岩がゴロゴロしているところへ高名な写真家と車で入りました。

「ここにヌードを置いて撮りたいなあ」とのご託宣。安達太良の空もそうですが、火山と芸術はどこかで結びつくようです。

投稿: ましま | 2014年10月 1日 (水) 21時21分

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