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2014年7月11日 (金)

徴兵検査

 八年の歳月は、小さな少年をみあげるばかりのたくましさに育てている。
「そう、検査だったの。もうね。」
 涙のしぜんとにじみでだす目に五人の姿はぼやけた。いつまでもそうしておられぬと気づくと、きゅうに昔の先生ぶりにもどり、
「さ、いってらっしゃい。そのうち、みんなで一度、先生とこへきてくれない。」
 
 それで、いかにも男の子らしくあっさりとはなれてゆくうしろ姿を、さまざまの思いで見おくりながら、久しぶにじぶんの口で「先生」といったのが、なんとなく新鮮な感じで、うれしかった。

(中略)年よりもまた若者たちを見おくりながら、小さい声で、
「えらいこっちゃ。ああやってにこにこしよる若いもんを、わざわざ鉄砲の玉の的にするんじゃものなあ。」
「ほんとに。」

「こんなこと、大きい声じゃいうこともできん。いうたらこれじゃ。」
 ランドセルをもったまま両手をうしろにまわし、さらに小声で、
「ほれ、治安維持法じゃ、ぶちこまれる。」

【壺井栄『二十四の瞳』新潮文庫】

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