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2014年4月10日 (木)

「クリミア」が意味するもの

 8日のNHK-BSの番組で、アフリカ・ルワンダのフツ族、ツチ族によるジェノサイド(民族浄化大虐殺)から20年がたち、アフリカの軌跡と言われるような経済復興、安定ぶりが伝えられた。現在では、往時の混乱が想像できないような変貌ぶりで、国連の責任者をつとめていいた緒方貞子さんを交え、経緯をふりかえっていた。

 その中で「どうして同じ地域に住む両族があれほどすさまじい殺し合いをしたのか」という疑問に、対し、「当時の情報伝播がラジオに限られており、それが両族の対立をあおって、殺戮を扇動した」というようなくだりがあった。今はインターネットが普及し、多様化したさまざまな情報が得られるようになっているので、その恐れはないという。

 ここから塾頭の頭をよぎったのは、いまだに緊張激化を続けるウクライナ、そしてクリミアのことである。クリミアの政変について当塾が最初に触れたのは3月19日の「今回はロシアに応援」で、まだ20日あまりしかたっていない。塾頭が表題のような判断を下したのは、現地からもたらされる平穏に行われた住民投票の映像や各国の記者が伝える情報だった。

 ロシア軍の展開はあったにしろ、その圧力が投票に影響したとも思えず、そこで書いたようにロシアの自制ある行動が続くようであれば、現在の安定を優先させ、戦争・内乱の愚をさけるべきだと考えたのである。

 現在、激しく動いているのは、ウクライナ東部国境地帯のロシア系住民の多く住む地帯である。騒ぎを大きくしているのは、議会占拠や独立宣言など、一部のロシア系住民のようだ。アメリカのケリー国務長官などは、ロシアへの経済制裁呼びかけを続ける一方、ロシアの地下組織の動きがある、などと様々な情報戦を仕掛け、ウクライナ暫定政権をけしかけているように見える。

 仮に内乱状態になり、ロシアが動かなければ、クリミアと違って地続きの国境をから難民がロシアに続々と流れ込む。そうすれば、宣伝戦で西側の負けということになり、ロシアは下手に手出ししてやけどを負うようなことはせずにすむだろう。

 現に日本人記者は現地に入ってレポートをしはじめ、国家権力に屈しない伝統を持つBBCなどが公正な情報を流し続ければ、昔と違って住民や他の局外にある多くの国がその無益な対立に気がつくはずだ。

 情報を国家統制のもとにおき、マスコミを露骨にコントロールしようとしている大国は、中国が目立つ以外少なくなってきた。それに対抗しようとする意図なのか、安倍首相がNHK会長人事などで姑息な手を使ったにしても、成功するはずがない。また、そうさせないようにしなければならない。

 ついでに、ウクライナ東部国境地帯などは、クリミアの場合と地政学的に見て全く違うということも付け加えておこう。「クリミア戦争」という言葉で何を思い出すだろうか。従軍した看護婦ナイチンゲールのことは、教科書でも習った。

 ところが、世界史にとって画期的な戦争であり、南下をねらうロシアと西欧やオスマントルコ連合軍の勢力範囲争奪戦という、今回の紛争を思い起こさせるような激闘があったことはあまり知られていない。その際、象徴的な主戦場となったのがクリミアで、黒海を中心に広範囲に及ぶ。

 戦端が開かれた1853年は、日本史にとっても重要な画期を迎える年になる。鎖国の夢が打ち破られ世界の舞台に立たなければならなくなったのだ。ペルーが浦賀にやってくる、またロシアのプチャーチンも長崎で交渉を求めてきたのは、決してクリミア戦争と無関係とはいいきれない。

 クリミア戦争で多くの兵士が悲惨な犠牲者を生んだことで、以後兵士以外で戦場を見守らなくてはならなくなっさたのは、ナイチンゲールなど野戦病院だけではない。優秀で公正な報道を任務とする従軍記者が存在するようになったのだ。

 Dscf4199_2 カット写真は自蔵本できたないが、原著の題名は”The First Casualty”(最初の犠牲者)で、第一次世界大戦に参戦したアメリカのハイラム・ジョンソン上院議員の言葉「戦争が起れば最初の犠牲者は真実である」からとっている。

 その内幕として、クリミア戦争の『ザ・タイムズ』ラッセル特派員がとった行動と、ベトナム戦争の市民虐殺レポートまで各戦争で伏せられていた実態を赤裸々に綴っている。

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コメント

第一次世界大戦の半世紀前のクリミヤ戦争は日本ではほとんど教えないので誰も興味が無いが、今回の騒動とも連動している可能性があります。
ロシアへのEUの経済制裁ですがギリシャとキプロスが反対したのですが、何れも東方正教会系ですね。
西欧のカトリック+プロテスタントと東方正教会の争いとの宗教的な側面がクリミヤ戦争にはあるようです。
ロシアの南下を阻止するとの英仏伊がオスマントルコを助けてロシア帝国を叩いたのが、クリミヤ戦争ですが、悲惨を極めた壮絶な戦争であったらしい。悲惨になった原因には宗教戦争の側面があるのです。
当時の東欧の正教会の大部分が強大なオスマントルコの支配下にあり、東方正教会の盟主としてロシアが解放戦争名目の領土拡大を仕掛けたとの別の見かたも出来るのです。
キリスト教の東西対立は第4次十字軍の東ローマ帝国の首都コンスタンティノポリス攻略のように根が深い。
キリスト教ですが何故か異教徒よりも、同じキリスト教異端者(別派)により厳しく敵対心を燃やす悪い癖があるようです。

投稿: 宗純 | 2014年4月12日 (土) 16時29分

宗教のことはむつかしくわからないので書かなかった。追加解説ありがとうございました。

あれだけ激しくいがみ合っているイスラムとユダヤ、聖典の出所は同じだし、偶像崇拝、豚肉禁止など禁忌もほとんど同じ。

しかし経済格差は極めて顕著。結局どこかでこれが絡んでそうな気がします。

投稿: ましま | 2014年4月12日 (土) 17時05分

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