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2014年4月27日 (日)

侵略に定義はないという安倍流

 安倍首相はなんでそんなことをいうのだろう。実は「侵略戦争」否定は歴代内閣が受け継いできた発想で、安倍首相に始まったわけではなく、一般の人には通用しない論理である

 1993年8月23日、細川護煕首相は就任後最初の所信表明演説の中で、「過去の我が国の侵略行為や植民地支配などが多くの人々に耐え難い苦しみと悲しみをもたらしたことに、改めて深い反省とおわびの気持ちを申し述べる」と発言した。

 その12日前の記者会見では「侵略戦争」という言葉を使っているのに、以後封印しているのは、連立を組んだ右派議員の多い新生党や日本新党に入ってきた右派議員からクレームによるものらしい。その後を継いだ羽田首相は、共産党の志位議員から侵略戦争と侵略行為の違いを問い詰められ、答えに窮して最後は次のように述べた。

 「私は、あなたのような学問をされる、あるいはそういう追及をする型の人間じゃありません……。ですから、そうやって一つずつ詰められれば、何というのですか、いろいろな問題があるかもしれません」 。(吉田裕『日本人の戦争観』より)

 神学論争にもならない低次元の「侵略戦争はなかった論」である。その発想はどこからくるのか。現在は、細川政権当時と比較にならならないほど中国・韓国の反日批判が激化している。塾頭がそれ以上に憂慮するのは、日本のネット世論が歴史修正主義に翻弄され、史実を逆転しかねない勢いを得ていることである。

 その点、中国では強硬姿勢が軍の一部と党宣伝部や外交当局による突出が目立つ反面、トラブルメーカー石原元都知事から、孫文の著書がある舛添都知事の時代に代わったことにより、北京市が中心になった歓待をするなど、一般市民も含め多様さが見られるようになった。

 中・韓のイメージ悪化の原因として、日本国内における政治的・社会的要因を上げることができるが、尖閣領有権問題や、従軍慰安婦問題に対する両国の執拗な日本攻撃が、日本国民の反感を買っているのは間違いないだろう。つまり、両国が日本の右傾化に加担しているということである。

 話が横道にそれたが、話を「侵略戦争」に戻そう。村山談話では「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました」と表現している。

 村山談話は、戦後50周年記念式典に際して、内閣総理大臣の村山富市が、閣議決定に基づき発表した声明である。ここに、植民地支配と侵略という文言がでてくるが、これは歴史を論じたものでも解説したものでもない。当時を生きてきた者が証言する史実そのものである。

 それを修正主義者たちは、国策を誤ったものではない、経済封鎖を受け自衛上やむを得ず開戦せざるを得なくされたといい、アジアの植民地を開放するための戦いであったとする。このふたつは矛盾するだけでなく、史実に反する全くのウソである。

 また、侵略・植民地化は欧米帝国主義各国が競って行ってきたのを、日本にだけ謝れというのはおかしい、という。これも前段の話と矛盾するが、第一次大戦後、世界はパリ条約や不戦条約、国際連盟結成などで戦争に対する反省期に入るが、帝国主義的拡張政策におくれをとった日本だけが逆方向へ突っ走ったことへの反省がない。

 それにもまして、「戦後レジームの脱却」と称して、敗戦の史実を覆い隠し、中にはアジアを開放したから勝ったんだというバカもいる。そして、戦後の国民の民主化闘争や平和運動のすべて占領軍の押しつけでかたずけるという、歴史抹殺行為まであえてする暴論に加担する。

 こういった、発想や虚妄のプロパガンダは、中・韓両国民でなくても我慢ができない。日本国民が多大な犠牲を払って勝ち取った平和と繁栄をなかったことにしようとする。こういった世界のどこにも通用しない考えを、国粋主義、孤立主義、全体主義、軍国主義として、戦後、反省の糧にしてきた。

 これらをもって「自虐史観」という。占領軍が来るとなんでも言いなりになる。言いたいことも言えない。主権回復までじっと我慢する。日本人はそんなに卑屈な民族か。そう考える方がよほど自虐史観である。それでは、右翼が言う自虐史観は全く存在しないかというと、そうとも言い切れない。

 たとえば、尖閣諸島は帝国主義日本が策を弄して清から掠め取ったもので、いまや中国人民にこれを返却すべきだ、などと主張する日本人学者がいたことなどである。また、千島は全島日本が合法的に占有していた領土なのに、ソ連が侵略してこれを奪ったことを指摘するのは、共産党だけで安倍政権ですら「北方四島」だけしか言わないのは、どうしたことか。

 やれやれ、やっと本題の「侵略」にたどりつけた(笑)。安倍首相が「侵略に定義はない」というのは国連決議の批准が進んでいないという点で間違いないのである。というのは、アメリカが南ベトナムと、ソ連がアフガンの共産党政権との間にあった「集団的自衛権」を口実にそれぞれ他国に軍隊を入れて戦争状態にしたのは「侵略」行為ではないのか。また、国連決議のないまま、ニセ情報でイラクに攻め入ったのはどうか、という問題がある。

 したがって、常任理事国自体に疑念がある行為が、国連を通らないというのは当たり前で、侵略戦争と言われたくないための予防線がはってあるのである。そんな屁理屈は官僚どもにまかせておけばいい。

 よその家や敷地に入り込み、家人から「ドロボー」といわれれば「ドロボー」で、「出て行ってくれ」といわれてそのまま居座ったら不法侵入であり、侵略なのだ。修正主義者はいうだろう。主人に断って入ったから合法だと。

 しかし主人が変わったり、他の家人から言い立てられればやはり侵略だ。だから、どんな武器を持っていたにしろ他人の家に入り込まなければいいのだ。そうすれば戦争は起きないし、侵略国とも言われない。憲法9条2項の「国の交戦権はこれを認めない」というのはそういうことなのだ。

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コメント

尖閣での日本人学者とは明代の釣魚諸島略図などを研究していた井上清京都大学名誉教授だと思うが、記載されている事実自体は正しい。何の間違いもありません。
結論の部分が可笑しいだけです。
まあ、この井上説は150年ほど前の話ですから、現在の政治とは直接繋がりません。
今回の日米首脳会談で、尖閣に関する重大な誤訳があると沖縄では大問題になっている。
2014年4月27日の琉球新報は『オバマ氏発言で「誤訳」が独り歩き 日本のメディア』と題して、
オバマ大統領が尖閣諸島問題について「事態をエスカレートさせるのは『重大な誤りだ』」と語った部分について、
日本メディアが『重大な誤り』を指す「profound mistake」を『正しくない』と訳して報じる。
今回は本土の新聞報道は酷すぎる。
まだしもテレビなど映像メディアが、オバマが尖閣の主権問題では日中何れにも組しない(アメリカはノータッチ)と、発言していた部分を報道してる。
マスコミ報道の満額回答どころか、日本にとってはマイナス回答ですよ。

投稿: 宗純 | 2014年4月27日 (日) 16時02分

宗純さま コメントありがとうございました。

ここには書きませんでしたが、当塾の歴史認識に関する基本姿勢は、19世紀以前の国民国家成立以前のことを持ち出して現在を機論するのは誤りという立場をとります。

したがって井上教授の出した結論は誤りで、それを援用している中国の主張も空論に過ぎないという結論です。

おっしゃるようにオバマは施政権が日本にあるとはするけど、領有権があるとは言ってませんね。アメリカ自体、インデアンの土地を侵略してできた国だから、施政権はあるけど領有権はインデアンということかも知れません。

投稿: ましま | 2014年4月27日 (日) 17時31分

過去の歴史を(自分にとって都合の良い部分を)大声で言うのが欧米の政治ですよ。
今日報道された事実ですが、尖閣の主権問題で70年代のイギリスの外交文章で『中国日本の何れとも言えない』との、今回の共同記者会見でのオバマ発言と同じ意味の解釈を英国がしていると報じています。
尖閣は日本の実効支配は認めるが『主権は認めない』との話なのですから、日本に厳しすぎる、中国に優しすぎる内容ですが、
こんな文章が40年ぶりに、今の段階で出てくるなど、日本を取り巻く環境が一段と厳しくなっているのです。

投稿: 宗純 | 2014年4月28日 (月) 10時07分

明治中ごろに古賀さんが同島で事業を考え、政府に願い出た、日清戦争末期に沖縄県に編入した、政府は同島を古賀さんに賃貸、その後払い下げ、おととし持ち主の希望で元の国有地に戻った。沖縄返還前には中国から一度も僚友の主張がなかった。

 そんな事実をどうして政府は公言しないんですかね。

投稿: ましま | 2014年4月28日 (月) 11時26分

現在、多くの日本企業が中国に進出して現地の人を雇用して企業活動をしています。
ところが2005年の反日デモで日系スーパーに対する暴動が発生したほか、2012年にはそれを上回る大規模な破壊と略奪行為で各地の日系企業は散々な目に遭いました。
塾頭は被害を受けたこれら日本企業は中国に進出したからこういう目に遭うのだ、自業自得だ、というのですか?
1930年台に満洲で日本が中国人から受けた被害はこれと瓜二つですよ。
当時も中国人は「愛国無罪」や「日貨排斥」を叫び略奪しまくり多くの日本人・朝鮮人を殺害しました。これに対し現地駐留の関東軍が防衛措置をとった。ところがいたちごっこのようにあちこちで暴動ー鎮圧を繰り返していくうちに支那事変へと突入した。戦後これをもって”侵略”と決め付けられたわけです。
いまのところ傷害止まりで日本人殺害までは起きていませんが、私は時間の問題だと思っています。
1930年代も日本は強引に中国に武力で進出しその地に居座ったわけではありません。日露戦争後の講和条約で南満洲鉄道の権益を譲り受けたのが満洲経営の発端です。
契約行為で中国に進出していったのです。つまり現在と同じです。
塾頭の言う”他人の家に入り込まなければいいのだ”という言い方は国外で企業活動するな、と言っているのに等しいのです。
そう考えれば安倍首相が侵略に定義はないと言うのはそのとおりなのです。

投稿: ミスター珍 | 2014年4月28日 (月) 18時48分

ミスター珍 さま
ようこそ。

経済進出と軍隊派遣をごっちゃにしてはいけませんね。経済進出は双方に利益をもたらすかぎり誰も反対しません。

治安維持は、それぞれの国の警察行為です。他国の軍隊がそれをしてはいけませんね。

それから、満鉄などの鉄道敷設、営業権などを守るためとか、邦人保護のためとかで軍隊を派遣するのは、当時は植民地支配の常とう手段でした。日本はその範囲をはるかに超えてしまい、戦線拡大で引っ込みがつかない泥沼にはまりました。

「契約で」というのは、日本の21か条要求のことかとも思いますが、その内容と相手方の反応をよく調べてみてください。

アメリカもイラクで似たような結果を招いています。ミスター珍 さまはまさかそれを再現した方がいいとは思っていないと思いますが。

投稿: ましま | 2014年4月28日 (月) 20時47分

戦争とは勝った方が正義で、負けた方が侵略者なのです。
ミスター陳様は大きく勘違いしている。


蒋介石政権の中華民国は戦勝国です。
日本帝国は敗戦国です。
戦争とは勝った方が正義なのです。

もし日中戦争で蒋介石が負けていたら、蒋は日本人を大量虐殺した反人類的な悪党だとされたでしょう。
しかし、現実は蒋介石は勝ち日本帝国は無条件降伏しました。

今の共産中国と日本の関係が、昔の中華民国の日本帝国の関係に似ているのは確かにそう思います。
そして「結末」も同じに成ろうとしています。
一部の台湾の右派は琉球は日本帝国が台湾人から略奪したと主張してますが、どんなに荒唐無稽でも勝てば官軍なのです。

投稿: 熊のプーちん | 2014年4月29日 (火) 14時33分

熊のプーちん さま
コメントありがとうございました。

勝てば官軍の論理は、わたしもよく使いますが、第一次世界大戦の戦勝国は国際連盟を、第2次大戦の戦勝国は国際連合を作りました。

中国がよく言うのですが、国際法などというのは帝国主義列強が作ったものだから守らなくてもいいなどと。

それが、今、常任理事国になって国際法を作らなければならない立場にいることを、ちょっと忘れてますよね。

投稿: ましま | 2014年4月29日 (火) 17時02分

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