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2014年3月22日 (土)

石油帝国主義の終焉

 当塾のエントリー "今回はロシアに応援"は、前回の記事だが随分前だったような気がする。というのは、その後ロシアのクリミア編入手続きが進みプーチンが調印、全欧安保協力機構(OSCE)、ウクライナにロシアを含む国際監視団100人を派遣することを決めたなどの続報のほか、ウクライナに新政府を作ったデモ隊に、西欧のNGOから2000万円のカネが渡っていたとか、クリミアで無差別発砲で2人殺した犯人がウクライナ人の少年だったなど、こまかな周辺情報が続いているからだろう。

 それに引きかえ、塾頭が気にしていた黒海の石油利権の話がさっぱり出てこない。そもそも、今回の騒動は東側を地盤とするヤヌコビッチ大統領が昨年11月EUとの関係を強化する連合協定の署名を見送り、ロシアとの関係を深めようとしたことに端を発する。

 それを嫌ったデモが発生し、そのデモ隊に誰かがビルの屋上から発砲しデモ隊と規制する警備隊双方に多数の死者をだすという大混乱になり、大統領が政権を投げ出して先月末に逃亡、急ごしらえの暫定政権ができたというものだ。

 これに肩入れしたEUやアメリカと、クリミア独立住民投票後、ロシアの間髪をいれない受入れ体制整備で、勝ったのはロシアというめまぐるしい動きだつた。その中で、背景のにある黒海の石油利権の話が等閑視されていたような気がする。実はこれが発端だったのではないか。

 石油危機後、イギリス・ノルウェイの北海油田、ロシアの黒海油田がそれぞれのドル箱として機能していることは知っていた。今回あらためて調べてみたところ、次のようなことが分かった。

 黒海は、南から時計回りでトルコ、ブルガリア、ルーマニア、北端がウクライナでそこからロシア、2月6日付で当塾記事にしたアブハジア、そしてグルジアと続く。沿岸の距離が最も長いのがトルコで、ロシアからグルジアまでの東側がこれに次ぐが、急に深海となり石油探査や採掘は困難で、開発途上にあるといっていい。

 一番取り出しやすいのは、「大陸棚」と称する陸地から遠浅で続く海底である。その大陸棚の面積がもっとも広いのがウクライナで、沿岸が短いもののルーマニアとブルガリアがこれに続く。クリミアがロシアに編入されるとなると、単純に見てウクライナの大陸棚は半減し、ロシアのそれは3倍程度増えるのではないか。

 Dscf4140 カットの写真『石油帝国主義』は、第一次大戦後の1927にルイズ・フィッシャーが原典を書いたものだ。表紙裏にはカスピ海、黒海、イラク、ペルシャ(イラン)それに樺太(サハリン)を加えたイラストが描かれている。「石油帝国主義戦争」の引き金となる産油地帯に擬せられていたのだ。

Dscf4147  その後世界一の産油国としてアメリカ本土が躍り出し、世界の石油支配を実現したが需要の伸びで石油輸入国に転じた。しかしその後もサウジアラビア産原油でそれを補い、バスク・アメリカーナの地位を守った。

 最近、石油中心のエネルギー事情がすっかり様相を変えている。アメリカはシェールガス開発の進展でエネルギー輸出国復帰を視野に入れており、EU・ヨーロッパもエネルギーの30%をロシアの天然ガスに頼っているが、ウクライナのシェールガス開発にも注目している。

 今、80年前に予言された「石油帝国主義」の火薬庫に火がつくだろうか。武力を背景に資源産出国を支配し市場を支配するという構図は、分かりやすいだけに現在の中国やロシアを「資源帝国主義国」に擬す向きが多い。

 しかし、黒海の現状は全く違う。前述したとおりウクライナの石油利権は大幅にロシア側線引きし直される可能性がある。その利権は、探鉱権、採掘権、のほか、投資、共同事業参加、資金・技術提供、パイプライン使用、販売先その他さまざまな利権が絡み合い、失敗による危険を避ける意味からも1国だけの開発の例は珍しい。

 ウクライナ沖でいうとガス田が多いが、既存のものは1970年代ソ連時代に開発されており、ウクライナの分離独立後同国側とロシア側に分割された。これがクリミア半島ロシア編入に伴い再分割されることになるが、これまでも両国の共同事業のように一体化して運営されており、両国の話し合いなしで分割が強行されるとは考えにくい。

 また、クリミア半島南東側深海の鉱区はヤヌコビッチ大統領が、アメリカノバナコなど4社のJVに07年に与えた。その後この決定に同国首相が反対し、裁判にまで発展、現在のデモ、政変にまでつながっている。

  この利権話には中国への売り込み話もあり、中国自体の国有石油会社を牛耳る大物が習政権の汚職追及を受けていることなどから急に進む話ではない。いずれにしても、ウクライナはロシアの協力なしに資源の維持管理は困難で、新政権がロシアと対等な交渉をするまでには時間がかかるだろう。

 ロシア自体はどうか。JVの相手先としてアメリカのシェブロン、共同開発計画にエクソン・モービル、さらに開発プロジェクトへイギリスのBPが予定されるなど、欧米諸国というよりグローバリゼーションの進んだ国際企業との連携に力を入れている。資源を一国だけの占有物とし、独占的利益を得ようとする「資源帝国主義」はもう古い、ということを知っているかのように見える。

 今日の報道からは、アメリカやEUなどが、ウクライナのロシア派高官とロシアの石油利権に関連する高官の銀行口座閉鎖、さらにロシア銀行の封鎖など、セコイ経済制裁を続発しているが、プーチンは自分の口座がないのでロシア銀行に口座を開設するよう指示した、という西側を茶化したようなニュースが印象的だった。利害は国家から利権に群がる個人のレベルに引き下げられたようだ。

【参考ウエブ】
http://oilgas-info.jogmec.go.jp/pdf/3/3696/201011_069t.pdf
http://be-spo-hirarin.blogzine.jp/weblog/2014/03/post_2300.html
http://blogs.yahoo.co.jp/yada7215/62169888.html

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コメント

カスピ海沿岸は石油や天然ガスの宝庫なのですが、この記事の『黒海』はカスピ海の間違いではないでしょうか。黒海は特殊な成り立ちの海で酸素濃度が低くて、沈没船などがほぼ原形で見つかる沈没考古学の宝箱のような場所らしいですよ。
2月22日の銃撃でキエフからヤヌコビッチ大統領がロシアに逃亡して政権が崩壊した時、多数のウクライナ市民がロシア側に亡命しています。
欧米メディアでは『ロシア側のデマ宣伝である』と根拠も無く一方的に断定しているのですが、実は紛れも無い真実なのです。
種明かしは簡単で、現在のウクライナとロシアの経済格差が大きくて、ロシアで働けば賃金とか年金が数倍になり物価もロシア側の安いので、政変を『これ幸い』と国境を越えてロシア側に亡命するのは、当然起き得る選択肢だったのです。
クリミヤですが非ロシア系市民が41%もいるのですが97%がロシア編入を賛成したのも同じ理由です。

投稿: 宗純 | 2014年3月23日 (日) 09時35分

宗純 さま コメントありがとうございました。

カスピ海と黒海は、本文に書いてるとおり混同していません。

バクー油田で代表されるカスピ海沿岸は、戦前からロシア(アゼルバイジャン)の産油地帯として有名です。

黒海は、ルーマニアがソ連圏の産油国として代表的でした。最近になって深海の海底油田開発がが北海油田とともに注目されるようになりました。

しかし、まだ開発途上でありロシア各地のガス開発のように主流を占めてはいません。この点、カスピ海と混同されるような書き方になった点は訂正させてください。黒海はこれからの地帯です。

投稿: ましま | 2014年3月23日 (日) 18時15分

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