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2013年11月15日 (金)

尖閣と井上論文

  前々回「アメリカの心変わり 3」という題で書いた。その中で、中東のイラクにおけるテロの応酬やエジプトの政治闘争などについて、最近はパレスチナ問題というより、イスラム圏内のナショナリズムと原理主義間の主導権争いに転化し、この地域におけるアメリカの関心が急速に低下していることを述べた。

 「ナショナリズムと原理主義」、言葉の意味する所は相当違うが、塾頭は「民族派と国際派」にあてはめて見ることも可能だと思う。相当古い話で恐縮だが1950年代はじめマルクス主義歴史学者が日本共産党を軸に国際派、民族派(所感派ともいう)に分かれて論争したことを思い出した。

 その国際派の代表格が故井上清東大教授である。スターリン没落以後国際派の影は薄くなるが、羽仁五郎氏などとともに新左翼の理論的支柱であったこともあった。いま、なぜ井上清かというと、尖閣諸島は中国のもの、という論文がクローズアップされているからである。

 中国のTVでおなじみの女性解説者が「日本人は井上教授の論文をよく読んだ方がいい」と言ったと聞くが、逆に中国側にそれ以上のものが無いというという証拠にもなりそうだ。

 それは、論文というより左翼用語をふんだんに駆使したアジテーションばりのもので、内容の信頼性はそれだけで大きくそがれる。華夷思想が肯定されても帝国主義収奪は否定される。膨大な史料も、その目的にだけに注がれているという構成になっている。

 そこには、日本古来の日本民族(琉球民族)の姿が全く見えてこない。氏は羽仁氏とともに、戦後の歴史学会の支配をねらった。『日本書紀』批判で戦時中弾圧を受けた津田左右吉氏に相談を持ちかけたあと、津田氏が天皇制擁護の姿勢を表明した。世間を驚かせたのは井上氏らの考えと距離を置くため、という説がある。津田氏の研究は”日本民族”を離れてはありえなかったはずだ。

 中国のTV女性解説者がいうように、井上論文は日本人によく読んでもらった方がいい。膨大な史料に中国の同島嶼を実効支配した確証は全くなく、恣意的な解釈を積み重ね「日本帝国主義の策謀」を口汚く糾弾するものであることがわかるからである。

 以上は、冒頭に書いた中東問題とはかかわりがない。また、井上氏の戦後の動静に関する記述は、網野善彦『歴史としての戦後史学』を参考にしたことを付言する。

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コメント

日本の新聞やテレビニュースなどの報道量では圧倒的に尖閣が多い。大きく差を付けて竹島で、その次が北方領土。
これ、可笑しくありませんか。
日本にとっての重要度で言えば正反対になりますよ。択捉一島だけでも沖縄本島の何倍もあるし、本土の直ぐ近く。
対して竹島も尖閣も遥かに離れた絶海の無人島です。
距離的には160キロ程度と同じだが、まだしも竹島は本土から近い。尖閣は沖縄の離島から160キロですよ。報道量とは正反対で重要度は圧倒的に北方領土で、大きく離れて竹島。尖閣はそれ以下。
しかも尖閣は他とは違い日本が実効支配しているのですから、何も騒がないのが日本にとっては一番利益がある。
中国が騒ぐのは分かるが、今のように日本側が騒ぐなど合理的では有りません。
今のマスコミの不思議ですが、日本がそれだけ病的に右傾化していて、合理的な判断力を失っているとの何よりの証拠でしょう。

投稿: 宗純 | 2013年11月17日 (日) 09時51分

外交課題としてはその順でおかしくありません。たしかに国際倫理上論理上一番理不尽なのは北方領土です。

日本共産党の言うように千島全島は合法的に日本が取得したものです。しかし日本は戦争に負けてポツダム宣言を受け入れたのです。

千島に択捉・国後が入るのか入らないのかが日露の解釈の分かれるところです。だから交渉で解決しようとか「引き分け」がいいとか、プーチンの言うところは聞くだけの価値はあります。

竹島は、徳川幕府末期に訪朝させた使節に「竹島が朝鮮領になったいきさつを調べよ」などという指示をしています。

必ずしも日本が先占していたという証拠はありません。現在韓国が実効支配している事実を認め、日本の漁業権など利権確保を求める交渉は可能だと思います。武器は国際裁判提訴だけですが。

尖閣には固有の領土を譲る理由が全くありません。  

投稿: ましま | 2013年11月17日 (日) 19時34分

引き分けの意味ですが、プーチンは今まで具体的には言及していないが、これは施政権と主権とを分離するとの沖縄方式ではないでしょうか。
沖縄の主権は一貫して日本国に有ったのですが、70年代までは米軍が施政権を握っていた。
これを北方領土に適用するとロシアの施政権を日本が認める替り、ロシアは日本の主権の存在を認める方式で日露講和条約を結ぶ。
ロシアですがシベリアの呪いとか石油の呪いと言う不思議な話があるのですね。
ロシアは広大なシベリアが在るために何時まで経っても欧州の普通の国になれない。豊富な石油資源の為に真面目に経済発展に努力する気持ちが起きない。
ロシアの辺境であるアムール州とか沿海州では人口減少で困っているのですね。もっと辺境の北方領土はもっと深刻なのです。中国の経済特区とかマカオや香港の一国二制度のような日本とロシアによる共同統治による開発を目指せば緊張緩和だけではなく経済的にも大きく両国とも発展します。

尖閣ですが、日本の施政権はアメリカも認めているが、困ったことに主権については一切ダンマリで答えない。尖閣の日本の主権をアメリカは公式には一度も認めていないのですよ。これは大問題と思うのですが、何故か日本ではマスコミは触れたがらない。日米安保は尖閣ではほとんど意味を持っていません。

投稿: 宗純 | 2013年11月18日 (月) 12時18分

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