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2013年9月12日 (木)

枝野改憲私案に落胆

 当塾は、自民党の改憲案に対比するため、社共を含む野党、与党である公明党も改憲案を作るように主張している。このほどやっと民主党の新ポスト憲法総合調査会長に就任したばかりの枝野幸男議員が、私案という形で『文春』10月号に発表した。(内容は文末・参照)

 だがこれでは駄目だ。自民党案と突き合わせることにより、国民が「はるかにこの方が優れている」と感じさせるものではなくてはならないのに、一口で言って、国民の願望に応えるためでなく、永田町だけを意識した政治的・官僚的改憲案だからである。

 これを見て、感動する人はいるだろうか。難解、読みづらさ、不恰好、その点では自民党案の方がまだましだ。現状維持だけが目的で何のため改憲するのかもわからない。

 まず、全体の体裁で見てみよう。この改定案には記載されていないが、9条が「第二章 戦争の放棄」に属し、9条の表題”第九条 [戦争の放棄、戦力の不保持・交戦権の否認]”には手をつけないままとしよう。

 ところが追加する部分が、9条の2以降現行条文の5倍以上もある。追加の中味は「自衛権」の強調で、明らかに章立てや表題の精神から外れる。また、「交戦権」と「自衛権」の折り合いはどうつけるのか。自民党案では章立てや表題からあっさりと「戦争放棄」を削ってしまった。

  「自衛権」については後で述べるとしてその追加部分である。9条の2などと一つの条を分割して該当部分を追加するような手法は下級の法令、条例などではよく見られるが、硬性の憲法では採用したくない方法だ。

 さらに読みづらくわかりにくくしているのは、追加部分で最も言いたいはずの「自衛隊」という言葉を使わず、「前二項の自衛権に基づく実力行使のための組織」としたり、アメリカを「国際法規に基づき我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を守るために行動する他国」と言い、国連を「わが国が加盟する普遍的国際機関」という言葉に言い換えるなど、もともと憲法にはなじまないことを現状固定のためねじ込もうとして生じた現象である。

 これでは一般国民は一体何のことかさっぱりわからない。また、「急迫不正の武力攻撃がなされ、これを排除するために他に適当な手段がない場合、必要最小限の範囲において」なども、その時々に使われる法律用語であり具体性がない。これで、腑に落ちる国民はいないだろう。

 最後に国連憲章との関連に触れておきたい。そもそも現行憲法はGHQの強い関与のもと、できたばかりの国連憲章を意識に入れて作られたものと考えている。自衛権については、自民党や保守改憲勢力が、国連憲章に自衛権や集団的自衛権の記載があるといって、再軍備への金科玉条としてきたきらいがある。

 間違えてもらいたくないのは、国連が権利として「自衛権」の行使を是認したり奨励しているわけではなく、ましては集団的自衛の存在を理由に行使義務を定めたものでもない。

 寧ろその逆で、1923年に「不戦条約」で戦争放棄を定めたのに各国が「自衛権行使はその例外」として、遂に第2次大戦を招いたことの反省がもとにあり、当初案では省かれていた言葉だ。そこへアメリカが当時主導した米州機構の「チァプルテペック決議」の存在が持ち出された。

 そこで「平和に対する脅威」に対し安保理の対処を定めた第7章最後に「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない」という自衛権行使の制限を付け加えたのが51条の趣旨である。

 もうひとつあげておこう。現行憲法の2項でいう「陸海空軍その他の戦力」を保持しないという条文は枝野私案でそのままである。自民党は、自衛隊はどの国も軍隊だと解釈しているから、それに合わせて改正するのは当然、とし、護憲派の一部は自衛隊の存在がそもそも違憲、としていた。

 枝野私案はそこから逃げているだけではなく、ミサイル発射の準備を整えたことがわかったら「急迫不正の武力行使」と認め、先制攻撃まで認めようとしている。そのようなことはこの私案からうかがうことができず、これまで以上に解釈改憲の余地を広げたとしか言いようがない。

 国際貢献などについては、国連発足以来戦争や紛争の形態、ミサイル等兵器の発達、情報処理などいろいろな変化を遂げてきた。またこれからも変化を続けていくだろう。したがって憲法で固定的に考えるより、変化に柔軟に対応できる法律にゆだねた方がいい。

 そもそも「陸海空軍」という表現は、安保理決議に加盟国が協力する組織として国連憲章にあるもので、日本の旧軍隊は陸・海だけで空軍は独立しておらず、3軍はGHQ由来のものだろう。

 これを持たないということは「決議に従わなくてもいい」「参加できない」ということで、もちろん義務もない。もっとも、憲法制定当時は国連加盟国でないばかりか「敵国条項」に該当している日本である。当たり前といえば当たり前なのだが。

 枝野氏は、前の野党時代から議会の憲法調査会にかかわるなど造詣が深く、弁護士でもある。その当時から国民投票法案策定で自民党委員と渡り合い、国民を納得させるベターな案を提示するなど手腕を発揮していたので期待していた。

 しかし、今回の私案はまったくそれを裏切るもので、がっかりしている。現憲法が制定されたころ塾頭は中学生だったが、先生の適切な指導があったにしろ、読み下してみて十分理解可能だった。

 憲法は、理想をいえばコーランや仏典、祝詞などのようにつっかえることのない韻律に富んだもの、読み下すだけで自然に心に訴えるようなものであってほしい。
その点、私案とはいえ、期待から大きく外れるものであった。

憲法9条「第3の道」
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現行憲法9条
1項 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権はこれを認めない。

追加する条項
9条の2

1項 わが国に対して急迫不正の武力攻撃がなされ、これを排除するために他に適当な手段がない場合においては、必要最小限の範囲において、我が国単独で、あるいは国際法規に基づき我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を守るために行動する他国と共同して、自衛権を行使できる。
2項 国際法規に基づき我が国の安全を守るために行動している他国の部隊に対して、急迫不正の武力攻撃がなされ、これを排除するために他に適当な手段がなく、かつ、我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全に影響を及ぼす恐れがある場合においては、必要最小限度の範囲で、当該他国と共同して、自衛権を行使することができる。
3項 内閣総理大臣は、前二項の自衛権に基づく実力行使のための組織の最高指揮官としてこれを統括する。
4項 前項の組織の活動については、事前に、又は特に緊急を要する場合には事後直ちに、国会の承認を得なければならない。

9条の3
1項
 わが国が加盟する普遍的国際機関(注・現状では国連のこと)によって実施され又は要請される国際的な平和及び安全の維持に必要な活動については、その正当かつ明確な意思決定に従い、かつ、国際法規に基づいて行われる場合に限り、これに参加し又は協力することができる。
2項 前項により、我が国が加盟する普遍的国際機関の要請を受けて国際的な平和及び安全の維持に必要な活動に協力する場合(注・多国籍軍やPKO等、国連軍創設以外の場合)においては、その活動に対して急迫不正の武力攻撃がなされたときに限り、前条第一項及び第二項の例により、その武力攻撃を排除するための必要最小限の自衛措置を取ることができる。
3項 第一項の活動への参加及び協力を実施するための組織については、前条第三項及び第四項の例による。
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反戦塾改憲案こちら

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コメント

今の特別な現状を成文にしただけ、という感じですね

投稿: 玉井人ひろた | 2013年9月13日 (金) 18時47分

そうなんですよ。

党内右派の長島昭久議員が「俺が読んでも意味がよくわからない」などと、みそくそでした。

これで党内ばらばらのねたが一つ増えた。伊藤博文級の人が出てこないと政治家が素案を作るというのは、所詮無理ですね。

投稿: ましま | 2013年9月13日 (金) 19時16分

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