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2013年1月 8日 (火)

粗雑な安倍流集団的自衛権

■相変わらずの「戦う政治家」
 安倍首相は、集団的自衛権の行使を禁じた憲法解釈の見直しへ遂に動き出した。有識者懇談会を復活させ(前回の座長は柳井俊二元駐米大使)を設け諮問するという形をとるが、事実上は官邸が主導する”はくづけ”が目的だろう。

 憲法改正は、長期目標として参院選まで音なしの構えで攻勢を避ける。ただし集団的自衛権の方は改選されて衆院議員の78%が法解釈変更を是としている。安倍はこれを先行させ、いずれ憲法改正は避けられないという空気を作り上げるか、改正をしなくても事実上支障をきたさない、という状況に持っていく危険性がある。この方がはるかに戦争を近づけることになりかねない。

 これまでの安倍首相の発言を聞いていると、過去の発言とさして変わっていないので、もう一度6年前に買った本『美しい国へ』を引っ張りだしてみた。この時、すでに第一次の首相に就任していたので、一介の政治家の無責任発言とはいえない。

 そこで改めて彼の軽薄さと危険性を再認識することになってしまった。この6年間で、アメリカを中国を含め世界は大きくかわっている。しかし彼の信念・主張はなんら変化・成長を遂げていないようだ。

 同書冒頭に、”わたしは、つねに「闘う政治家」でありたい”といつている。「闘う」の意味は初心を忘れず前向きに、といった意味かと思ったが、ちょっと違う。その動機を次のように書いている。

 一九三九年、ヒトラーとの宥和を進めるチェンバレン首相に対し、野党を代表して質問に立ったアーサー・グリンウッド議員は、首相の答弁にたじろぐことがあった。このとき、与党の保守党席から「アーサー、スピーク・フォー・イングランド(英国のために語れ)」と声が飛んだ。グリンウッドはその声に勇気づけられて、対独開戦を政府に迫る歴史的な名演説を行ったという。

 彼はこれに感銘をうけたわけだが、「フォー・イングランド」を「国民の声」に置き換えている。そうではなく日本の戦中の「お国のために」と同義で、イコール民意ととるのは彼特有の単純さだろう。「闘う」は「戦う」の間違いではないかとさえ思えるのだ。

 本文では、いわゆる「リベラル」を攻撃し「ネオコン」を礼賛する記述がいたるところに出てきて、右翼政治家であることを自ら宣告しているが、同時に「価値観を共にする」というアメリカ中心の発想の持ち主であることも鮮明にしている。中国やイスラム教国家は価値観が違うといっているのだ。

■アメリカ戦闘機が飛ぶ理由
 冒頭に書いた「集団的自衛権」にかかわる項目をを見てみよう。

 (前略)しかしわが国の自衛隊は、専守防衛を基本にしている。したがって、たとえば他国から日本に対してミサイルが一発打ち込まれたとき、二発目の飛来を避ける、あるいは阻止するためには、日本でなく、米国の戦闘機がそのミサイル基地を攻撃することになる。いいかえればそれは、米国の若者が、日本を守るために命をかけるということになのである。

 ずいぶん短絡した書き方だ。他国はなんの警告もなく外交手段も講じず突然ミサイルを撃ち込んでくるわけがない。もしあったとすれば間違いによる暴発である。それを確かめずにアメリカの戦闘機が命がけで「ミサイル基地を攻撃することになる」だろうか。

 それに、本気で戦争を仕掛けるなら、一発目、二発目などと悠長な攻撃はしてこない。ミサイル防衛システムを無効化するため、広範囲の多数のミサイル発射基地から同時に、あるいは時間差をもって発射してくる。いかに米軍が援護するといっても防ぎきれないのが真相だろう。

 上述の戦闘機は、一体どこから飛び立つのだろうか。沖縄の米軍基地か洋上の航空母艦からか。それも、日本から依頼されてやるのか、米軍が勝手にやるのか。さらに一発目が在日米軍基地を狙ったものか、それ以外の都市部を対象にしているのかでも違ってくる。

 日本の要請により安保条約に基づいて飛び立つのであれば、基地提供が憲法違反になる可能性もあり、当然事前協議の対象になる。また、その基地は敵の攻撃目標となり、周辺部の住民はは戦火に巻き込まれる。アメリカは在日米軍および在日米国人を守るために基地を置いており、日本人を助けるためではないという建前だ。

 飛び立つ戦闘機が、在日米軍基地と関係のない航空母艦からならば、アメリカは勝手な行動ができる。しかし、そのような回りくどいことをするはずがない。第一、撃墜される恐れのある戦闘機に人をのせて攻撃するはずがない。ミサイルかか無人機などを使って人命を損ねないようにするのが昨今の常識で、アメリカの売り物だった海兵隊でさえ今や縮小の対象になっている。以下そのことにふれている。

 だが、条約にそう規定されているからといって、わたしたちは、自動的に、そうするものだ、そうなるのだ、と構えてはならない。なぜなら命をかける兵士、兵士の家族、兵士を送り出すアメリカ国民が、なによりそのことに納得していなければならないからだ。そのためには、両国間に信頼関係が構築されていなければならない。

■血で求める「盟友」
 ここでいう「信頼関係」とは何をさすのだろう。個人的信頼関係、たとえ夫婦間であってもちょっとした利害や誤解で破たんすることは珍しくない。まして国家間であれば時代や人その他の環境により、絶え間なく変化するのが当たり前だ。

 さらに彼は、日米関係の「双務性」をあげるのだが、前述の戦闘機発進と同様あり得ないような事例を掲げて「集団的自衛権」を人道問題にすり替え、自説の正当性を高めようとする。しかし、これが仮定に仮定を重ねた、ためにする詭弁であることに大抵の人は気がつくはずだ。以下がそれである。

 たとえば、日本の周辺国有事のさいに出動した米軍の兵士が、公海上で遭難し、自衛隊がかれらの救助にあたっていとき、敵から攻撃を受けたら、自衛隊はその場から立ち去らなければならないのである。たとえその米兵が邦人救助の救助の任務にあたっていたとしても、である。

 これができたからといってアメリカ人が信頼をよせ、納得するはずがない。双務性は平等に、ということである。9.11でアメリカが攻撃を受けた。だから、タリバンやアルカイダと戦いイラクにも自衛隊を出しなさい。そして、米兵の犠牲をすこしでも肩代わりし、思いやり予算しいう形で米軍事費用分担に協力しなさい、という要求に応じることが「双務性」であるはずだ。これは法解釈を変えるための、明らかにごまかしのテクニックである。

■国連憲章のいいとこどり 
 安倍は国連憲章51条に、個別的自衛権にならび集団的自衛権が記載されていることを取り上げ、この双方とも「自然権」であるとの自説を展開する。しかし、日米安保条約のような2国間条約に「集団的自衛権」があり、しかも個別の自衛権と合せて「自然権」であるなどとはどこにも書いてない。

 「世界でそのように理解されている」というのは確かで、アメリカのベトナム戦争やソ連のアフガン侵攻がそのような理解のもとで強行されてからだ。つまりその発想は、米ソの冷戦時代の落とし子と言っていい。当塾では「集団的自衛権は過去のもの」で一度これをとりあげた。
http://hansenjuku.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-bf14.html

 道で突然暴徒から殴りかかられたら、腕をあげてこれを防ぐのは誰もが持つ自然の権利だ。さらに逆をとって抑え込み、警察に引き渡すのも正当防衛の範囲で暴行ではない。国にもそれをなぞらえて自衛権という不文律ができた。

 そこへ被害者の仲間がやってきて加害者を殴りつけようなやりかたは、果たして自然権と言えるだろうか。自衛権は、当然存在する権利として憲章の原案にはなかったものだ。それへアメリカが当時結成したばかりの「米州機構」が小国の権利を拒否権で奪われることのないよう、追加させたのが「集団的自衛権」だ。

 この点に限り安倍は国連憲章の条文を高く買っているが、国連憲章ができて間もなくその意を受けついでできた日本国憲法については、次のようにくさしている。この屈折した心理は、他の右翼にも共通するものだといえよう。

 前文にちりばめられた「崇高な理想」や「恒久の平和」という言葉には、アメリカがもつ自らの理想主義を日本で実現してみせようとする強い意志がかいま見える。この憲法草案は、ニューディーラーと呼ばれた進歩的な若手のGHQ(連合軍総司令部)スタッフによって、十日間そこそこという短期間で書き上げられたものだった。

 アメリカのオバマ大統領は、退任するパネッタ国防長官の後任に野党・共和党のチャック・ヘーゲル元上院議員を指名した。ヘーゲルは、ブッシュ前政権時代には民主党議員と共にイラク戦争を批判したことで知られる。核兵器廃絶への現実的道筋を追求する民間活動団体(NGO)「グローバル・ゼロ」でも活動してきた。

 こういったアメリカの変化にどう対応するのか、またついていけるのか。日本の首相を信じたいが「日米同盟の深化」と「価値観外交」から新基軸を生み出すことは、彼にとって「かなり無理な注文」というのが塾頭の実感である。

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コメント

まずは、憲法改正の前段階である手続きの法を改正しやすい法に替えてから、憲法改正に取り掛かろうとしているようですね。
これは、物議を呼ぶこと請け合いです

投稿: 玉井人ひろた | 2013年1月 9日 (水) 22時16分

「美しい日本」のかわりに「醜い姑息の日本」に変えようとしている。それもすました顔で――。\(*`∧´)/

投稿: ましま | 2013年1月10日 (木) 11時15分

弾が飛ばない戦争行為である外交では一人勝ちは許されず、こちらが何かを得るためには相手にも何かの利益を与えてバランスを取る必要がある。
ですから外交での最善策とは、相手に名目的な栄誉などの満足感を与えて、こちら側が実利を得るのが一番良い。
この安倍晋三の集団自衛権の主張ですが、アメリカとしては得になるが、日本側に具体的な実利がゼロですね。
得するところが何も無い。
アメリカの一番の子分だとの満足感程度でしょうか。
阿部さん、何を目的にして集団自衛権に熱心なのでしょうか。
なんとも不思議です。
安倍晋三としては従軍慰安婦など『日本が悪い』との戦後レジームからの脱却の自分の主張を、アメリカに認めてもらう見返りとして、アメリカが喜ぶ集団自衛権を主張しているのかも知れない。
それなら名目的な名誉を得るために、実利を与える最低な話ですね。

投稿: 宗純 | 2013年1月10日 (木) 15時01分

尖閣の場合は逆で、中国の領土主張には国際法上全く根拠とする実態がなくがなく、これを認めれば沖縄もということになります。

歴史の改ざんや威嚇行為を認めるわけにはいかないので、大陸棚共同開発権や漁獲割り当てで相手に実をとらせる交渉、福田もと首相はやりかけていたのだからこれを進めるべきだったのです。

それを遠のかせてしまったのは誰でしょう。時間をかけてでもそこへ戻すべきですが、安倍・石原枢軸では無理でしょう。日米同盟があれば万全で戦争になっても勝てると思い込んでいるのですから。

投稿: ましま | 2013年1月10日 (木) 18時17分

尖閣ですが日本が100年間実効支配している既成事実は、何よりも大きいでしょう。
国際司法裁判所に提訴しても日本側が勝つ可能性が高い。
ただ日本政府やマスコミが主張する『中国の領土主張には国際法上全く根拠とする実態がない』は明らかな間違いですよ。
中国側にも言い分があるから、今現在ももめているのです。
そもそも、本当に『根拠とする実態が無い』なら今のように騒動にならない。
100年前に領有した事は事実ですが、尖閣は戦後長い間日本国内のマスコミも久場島や北小島など日本名ではなくて、黄尾嶼などの中国名で表記していたのですね。マスコミで日本名に変わるのは1960年代以降の話ですよ。
そもそも尖閣諸島の名前自体がイギリス海軍の名づけたピナクルアイランドの漢訳であり到底日本名とは呼べない。

前記事の沖縄独立の悪夢ですが、話は正反対になった可能性の方が高い。
冷戦を考えれば有り得ない話だが、もしも米軍が早期に沖縄を返還していれば、それで沖縄の本土復帰が早まっただけですよ。
また仮に沖縄独立となった場合でも、当時の最大政党である右翼社民党の社会大衆党政権になり鳩山民主党の東アジア共同体構想程度ですね。
社会大衆党と社会党、人民党との3党連立左翼政権になった場合ですが、これは非武装中立になり琉球王国500年の伝統に立ち返るだけでしょう。早期に中国と国交回復して尖閣もあっさに共同開発で決着するはずです。
そもそも日本国では欧米とは違い、誰ものものでも無い村民が利用できる入会地などの共同体の共有地が沢山存在していた。
ところが事情は明治維新で大きく変わる。
今の法律では土地は個人所有に全て変更される決まりなのですね。個人主義の欧米の土地に対する観念と日本独自の共同体意識の強い日本人では土地に対する考え方に違いがあったようなのです。

投稿: 宗純 | 2013年1月11日 (金) 11時59分

国際法などを考える場合、命名・地図・私文書などは実効支配に関連する公文書などから見て相当低位な証拠と位置付けられます。

「魚釣り」などの命名は、遣使や交易船の道先案内をしていた琉球人かもしれません。また、1960年以前に中国公文書で「尖閣」を使っていた事実もあります。これは決定的落ち度ですね。

投稿: ましま | 2013年1月11日 (金) 13時02分

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