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2012年9月30日 (日)

核心的利益、反日、暴走

«まえがき»
 ネット論壇では、気のせいか「反日」とか「反中」などといって二者択一のレッテル貼りする傾向があるようで気になります。これは、原発問題その他の政策論争でもあることで、塾頭自身おちいりやすい、またそうしないと人の目をひかない、といったジレンマがあります。

 しかし、これを越えたところで是々非々を明らかにしていくこと、自由闊達に論議をすすめていくこと、これがなければ進歩も正解も生まれてこないし、ネットが単なる不毛の荒野になってしまうのではないか、塾頭が恐れるのはこの点です。

 以上に直接関係はありませんが、「ちどりさま」から「日本も尖閣白書を」にいただいたコメントが、本塾の基本的な方向性を問いかけるものなので、ここでお答えしたいと思います。なお、ちどりさまの文が要領よくまとめられているのに対し、部分的な引用になりますがこの点はお許しください。

«1»

日中間の紛争の根源は単なる領土のいさかいではない。現実の軍事バランスや経済関係の重要性を考えても、中国が単なる野心や領土欲から一方的に日本を挑発していると見るのは無理があります。

 「現実の軍事バランスや」のあとを「石油備蓄を……」と置き換えてみましょう。日米開戦の直前そっくりです。起こせるはずのない戦争に突入したのです。開戦当日のことを思い出しました。一介のサラリーマン家庭の我が家の朝、ラジオ放送を聞いて、出勤前の父に聞きました。

 「勝てるの?」。「…………」。ただ、開戦に対し、今様の表現にすると「マジ~……?!」という顔つきでした。この冒険の土台をつくったのが5.15や2.26クーデターの青年将校で、軍には下剋上が当たり前のようになり、政治は天皇の統帥権侵犯という軍の恫喝を跳ね返せませんでした。

 最近、これまでとは違って中国で「まさか」と思われるようなことが起きないと断言できないと思うようになりました。民衆のデモは横に置いておいても、中国政府が内外に向けて発する強硬発言は、かつてない突出したものです。日本の開戦前の「国威発揚」キャンペーンを思い出します。

 前回にも触れましたが、その発信もとは、首相もタッチできない利権集団・中央軍事委員会の首席交替を前に、制服組幹部の激しい権力闘争があるとされ、お互いに過激宣伝を競いあっているのではないかと想像されます。

 防衛大学校長をされ、中国事情にもくわしい五百旗頭真先生は、2年前すでにこのことを予知されたのか「中国よ、戦前日本の道を歩むこと勿れ」という一文を、「人民日報」に投稿されています。ノーカットだったそうですが、いまなら完全に没でしょうね。

 次に「中国が単なる野心や領土欲から一方的に日本を挑発していると見るのは無理」というご意見ですが、中国は、尖閣を「核心的利益」と公言し、琉球列島の外側まで「列島線」という軍事ラインを拡張しています。

 塾頭は、これを聞くと、もともと欧米が国際法上使っていた用語で、日清戦争前日本でも言いだした「中朝国境が利益線」とか、その後の「満蒙国境は日本の生命線」などという言葉を思いだします。こういった線引きは大東亜共栄圏でさらに拡張しました。

 戦略上の線引きは「生き延びていくためにはそれが必要」という意味で、必ずしも領土的野心とは言えません。中国の「核心的利益」は、台湾、チベット、新疆ウイグル自治区、南シナ海のほとんど全域、さらにはインド洋にまで広がる勢いです。

 13億の人口を養い、貧富の格差解消のためにはエネルギーをはじめ膨大な資源が必要です。昔は農作物を得るために土地が侵略の対象でしたが今はもろもろの経済利権です。尖閣諸島の中国領有を認めるということは、明の時代云々という彼らの理論からすれば、沖縄も譲るということになりかねません。

 尖閣の領有は確保して、鉱物・漁業資源や共同開発というのが将来考えられる妥協点ではないでしょうか。無抵抗・無原則の妥協は日本をさらに苦境に追い込みます。日本の抵抗が強いので軍事進攻はあきらめざるを得ない、という体制は、現憲法下で整えることが可能ですし、またそうしなければならないのが現実の姿です。

«2»

 「中国政府よりは日本政府を信用する」旨お書きですが、百戦錬磨のブログ主様の言にしては、いくらなんでもナイーブすぎます。中国であれ日本であれ、為政者やその取り巻きの言うことは、疑ってかかるのが庶民として当たり前の態度ではないのですか?

 このコメントでの答えは次の通りです。

政府の言うことは100%信用できないのでしはょうか。信用できない点と信用すべき点両面あります。それを見分けるのが国民の訓練です。

 国民が選んだ政府であり、存在を無視することはできません。100%信用できないのであれば生きていけません。日本政府と、中国政府。言論統制の差で比べればまだ日本政府の方を信用します。

 さらに付け加えますと、日本政府の信用が地に落ちたといっても、比較的オープンなので同じ閣内で、脱原発ひとつとっても意見に差のあることがわかりますね。気に入らなくても日本に一つしかない政府です、今の趨勢ではそれが来年まで続く気配です。

 それに対し、庶民感覚に近い閣僚を言論で応援する自由はあるわけでそれで向きを変えることもできます。政府だからといって良心的政治家、官僚のすべてを含めて敵対してもなんら得るところがありません。庶民の利益にもなりません。それに引きかえ、中国のそのすじ(中国共産党)は一枚岩で、意見の相違など絶対出てきませんし、人民はそれに従う立場です。

 だからウオッチャーは幹部の言葉のはしはしで憶測するしかないのです。日本の権力の隠ぺい体質は徐々にベールがはがれ、「真っ赤なうそ」がまかり通る時代ではなくなりました。ソ連解体後、衛星国の曝露もの書籍がいくつか出ていますが、共産党政府の「うそ」には相当悪質なものがあったことが知られるようになりました。塾頭の「よりまし」論は、そんなことから出ています。

«3»

抗日戦争は現中国のアイデンティティの根源ですよ

 それがどうして尖閣諸島の国有化反対につながるのでしょうか、尖閣を領土に編入したのは日清戦争を終結させる下関条約締結の3か月前、1895年1月のことです。抗日戦争とは全く関係ありません。
 
 日清戦争は、朝鮮国内の農民一揆に端を発した戦争で、圧倒的に強いとされていた清国の北洋艦隊を壊滅させたことで勝利を得ました。戦勝国が賠償を求めるのは当時当然の権利でした。条約により台湾の割譲は受けたものの、遼東半島はその後3国干渉で返還しています。

 ここですでに述べたことですが「釣魚島は日本が盗んだ」という中国の言い分を吟味してみましょう。同島付近を内務省が調査に乗り出し、古賀辰四郎が開拓を申し出たのは、領土編入の9年前、1884年です。

 それ以来、政府は同諸島が無主無住の島かどうか慎重に調査するといって、標識等の建立や沖縄県編入を引き延ばしてきました。そして領土編入をしたのが前述のとおり日清戦争で清国の敗色が見え始めた1895年1月です。

 そこで、中国側は、「尖閣諸島が中国領であることを日本は知っていたから9年も放置していた。それが急に日本領に編入されたのは、清国が敗戦目前でそれに抗議するような力がなくなつた。そういったどさくさにまぎれて同諸島をひそかに盗み取ったのだ」という言い方になっています。

 これは成り立ちません。もし中国領と知っていたならなにもこっそり盗み取らなくても、下関条約で台湾の一部にしてしまえばよかったわけです。条約では周辺諸島として澎湖島をはじめ散在する小島をもれなく網羅していますが、尖閣諸島はその中に含まれません。

 それから下関条約の清国全権大使を務めた李鴻章は、自国の利益のため全力を尽くした立派な人物として日本でも尊敬を集めた人です。敗戦で意気消沈して抗議すらできなかったということは考えられません。要はそんな小さな島に関心がなかったというだけでのことでしょう。

 当時台湾を取られ反日感情がなかったとは言いませんが、中国本土で反日運動が組織的になり社会問題にまで発展したのは、第1次大戦後中国に理不尽な要求を押し付けてからです。さらに満州事変、日華戦争と侵略が露骨化していったことはご承知の通りです。

 まあ、戦後生まれの安倍晋三さんなどが、それを認めることが嫌で「美しい日本を」などという今や少数意見になった歴史修正論に執着していますが、今回の中国の反日ぶりがこれに勢いを与えようとしていることは残念です。

 塾頭にしてみれば「今ごろなにを」という気持ちです。1955年、国交のない中国から学術調査団として日本に居住経験のある郭沫若など著名人がはじめて来日しました。この時、日中友好の糸口を作るとして、マスコミをはじめ国をあげてのフィーバーぶりでした。

 同じ頃、うたごえ喫茶全盛で「東京・北京」という歌がはやりました。歌詞は、美しい友情をもって肩を組み、アジアに光を掲げようといった内容です。そして田中角栄首相が友好裡に国交正常化を果たして40年たちました。

 それがどうしていつの間にか「中国のアイデンティティの根源」が反日になってしまったのでしょうか。やはり作られた人為的なものとしか言えません。日中関係は日米関係同様、言いたいことをはっきり言える関係でなければならないと思います。それが相互の誤解を解くカギになってほしいものです。これが日本政府にもっとも不足している。

«4»

石原にはさしたる非難とて起こらない日本の政治・メディアの状況をブログ主様はどうお感じですか?

 全く同感です。こんなのをおまけにつけておきますが、わずかながら意識している人もいるようです。

「新聞・テレビが言わないなら、本誌が言おう ことの発端は石原都知事にある!」
(週刊朝日 2012年10月05日号配信掲載)

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コメント

懇切な御回答に感謝申し上げます。
尖閣諸島領有権のいきさつについてはブログ主様が以前から丁寧な御解説をされており、特に異論はありません。ただ、今回の日本側のアクション(石原発言→国有化)に対する中国の強硬な姿勢を、歴史問題と切り離して考えることにはよもや無理ではないか、とも感じているのです。
日中国交回復当時の友好ムードは、私もよく憶えているところです。「日本人民も中国人民も、等しく日本軍国主義の犠牲者であった」という旨の中国側の発言が、好意を以て迎えられていたと記憶します。ただ、それは「抗日戦争」が忘れられていたことを意味するわけではない。「日本軍国主義」は許されないものである、という中国側の姿勢は一貫していますよ。そもそも「憎むべき東洋鬼」を前にした「惰弱で臆病な国府軍」と「勇猛果敢な八路軍」の対比は、中国の現体制の正統性を保証する根拠として喧伝され続けたし、それが民衆に受け入れられる余地がやはりあったのだと思います。ただそれが今のいわゆる「反日」に直結しなかっただけのことでしょう。
90年代このかた、日本国内ではアジア侵略の過去を正当化して「軍国主義」に免罪符を与えるような言説がもてはやされ、「犠牲者」の末裔たる「日本人民」が喜び勇んで民主主義的に、そうした歴史修正主義者を国会や地方首長に大挙送り込むようになってしまった。中国側が文字通りの「反日」に転じるのは、先方からすればある意味当然とさえ思えます。中国側がそうした不満の捌け口を領土争いに結びつける手法は、私とてあまり褒められたものではないと感じます。が、「褒められたものではない」ことは、小泉首相の靖国参拝をはじめ、日本側も山ほど積み重ねてきたことを重々自覚すべきと考えます。
昨今の中国が覇権主義に傾きつつあるというブログ主様の危惧を全否定するつもりはありません。仰る通り中国の現体制は密室政治であり、今後どのような国際戦略をとるか予断を許さないのは確かでしょう。ただ仮に危惧が的中したとして、日本国内で蔓延する歴史修正主義、近隣諸国への罵倒・侮蔑と闇雲な強硬論を正当化する根拠には到底なりません。こうした国内の動きを真っ向批判していかなくては、実はやっぱり中国より日本の方が「危ない国」だった、という笑えない結末になるのではないか、と危惧しています。
私は「領土」の主張は堂々とスジを通せ、というブログ主様の御主張自体に、実はさして異論があるわけではありません。ただ、それをするに当たって、先方に「歴史認識」がらみでつけ込まれるような状況を放置してはならないと考えています。今の領土絡みで強硬論を煽るのは、得てして歴史修正主義者に染まり、味噌も糞も弁えず近隣諸国を罵倒して良しとするような手合いです。そんな連中の思う壺になるようでは、日本はそれこそ元も子も失うことになると思いますよ。
ブログ主様の懇切な御回答への十分な反論になりえているかどうか甚だ心許ないのですが、何卒真意のほど御斟酌下されば幸いです。長文失礼しました。

投稿: ちどり | 2012年10月 1日 (月) 01時14分

ちどり さま のお考えよくわかりました。今後事態はいろいろ変化していくと思いますが、折にふれ感じたことは書いていきたいと思います。

 その上で、今回の書き足らなかったことや感想めいたことを書いてみます。ちょっと本文では余計なことになるので書きませんでしたが、塾頭が最も嫌うのは、歴史を正しくない判断でねじまげ、我田引水を試みようとすることです。

 日本の安倍晋三や日本会議などに蔓延する歴史修正主義はいうまでもありませんが、持論に合うごく狭い範囲の史料しか選択しないこと、時間軸を無視して結論を導くことなどが含まれます。

 時間軸でいえば、19世紀までの帝国主義戦争と20世紀に発生したファシズム戦争を混同させること、公娼制度のあった時代と、それを現在の価値観で単純に「性奴隷」とする従軍慰安婦に関する風潮などがあります。

 塾頭はけっこうそんなところにこだわる性癖を持っています。時間軸ではありませんが、デモをした中国人民と、国連総会などで言いつのる政府(党)の言動もわけて考える方が賢明だという考えるようになりました。

 政府はこれまでの「領土問題は存在しない」という発想で、国連など海外に対するアピールや中国に対する論理的反論を押さえてきたが、もう問題化しているのだから、主張すべきは堂々と主張すべきだということを、毎日新聞の社説や共産党の志位委員長から米倉経団連会長まで異口同音にいい始めている、塾頭はこれに賛成します。

投稿: ましま | 2012年10月 1日 (月) 10時05分

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