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2012年2月19日 (日)

徴兵制論は改憲への呼水

 『サンデー毎日』で岩見隆夫が「徴兵制賛成論」をぶち上げた。彼の評論を「老害」だなどとくさす人がいるが、実は若いのだ。終戦の時は小学生低学年だから、徴兵制度のなんたるかを知らない。老害をいうなら石原慎太郎だが、彼は海軍兵学校など軍幹部になるための進学校にいたから、田中角栄が経験したような初年兵になることなどは考えられなかっただろう。

 徴兵されて戦地へ行く、それは限りなく死と隣り合わせになることを意味した。だから中産階級以上は、いかにして徴兵逃れをするか、あるいは入隊しても危険から遠い兵種を志願してもぐりこむかに腐心したものだ。これは、アメリカで徴兵制度があった頃、ブッシュが州兵を志願してそれを逃れたという噂をされたのと同様である。

 日本の徴兵制度は、明治新政府による国民皆兵精神のもと変遷を重ねてきたが、所要兵数を満たすため、成人男子に徴兵の順位をつけることから始まる。そのために受ける最初の儀式が徴兵検査だ。

 結果は甲、乙、丙、丁、戊の5種に区分され、丁・戊は重い病気や障害を持つ人なので、ほとんどは上の3種に入る。甲、乙が合格で乙は第一乙と第二乙に区分され、徴兵される順序にかかわってくる。結果を悪くするため、どんな手口が使われたかは、Wikipediaを見ればわかる。

 徴兵令状(一般に赤紙といった)が実際何時どういう形でくるかはわからない。明治時代は、長男や家督(家業など)を継いでいるものは除外された。しかし、戦局の発展によりどうなるかわからない。太平洋戦争前までは、就学中の大学生も除外されていたが、志願する形で強制的に動員された。よく画像に出る神宮外苑の雨中の行進がそれだ。

 また、基準はよくわからないが、戦争遂行上不可欠な職業・地位にいる人の順位はあとになるとか、戦争非協力者は真っ先に持ってこられるとか、さまざまな運用操作があったことは、公然の秘密であった。

 話はがらっと変る。共通番号制度(マイナンバー法案)のことである。国民の住民票をはじめ病歴、所得、財産などの諸情報を一括管理して番号化するという構想は、塾頭の記憶がはっきりしないが、相当以前、多分朝鮮戦争からそう遠くない頃からある。

 当初、その反対の最大の理由は、「徴兵制度に悪用される」であった。現在なら、徴兵順序ソフトを作れば瞬時に結果が出てくる。大手新聞の社説では、産経が真っ先にマイナンバー法案賛成の線で意向を示したが、今日19日になって朝日・毎日が社説にした。

 いずれも、個人情報の流出を十分ガード」したうえ、国民的議論を経て成案を得るよう、という事実上のゴーサインである。これは、各社が実施した国民世論調査などで、過半数が賛成しているというのを見たうえの結論かも知れない。

 そのアンケートの反対する理由の中に、「徴兵制度に悪用される可能性があるから」というのはなかった。憲法上あり得ないからという意識が作用したのだろう。しかし、その意識と前段の岩見氏の「徴兵制度論」の間に、越えがたい別世界の事柄としていい隔壁があるのだろうか。

 塾頭は津波に役に立たなかった隔壁のことを考えてしまう。最近の与野党の均質化、橋下現象など地方首長による右傾化現象などから、国民の護憲マインドは相当低下していると憂慮している。岩見の「徴兵制度論」も「大阪都」や「首相公選」構想も憲法改正をともなう。

 それを正面に出さず、耳当たりのよさそうなキャッチフレーズを連発することで、改憲が当然の帰趨であるかのような機運がかもしだされる。それがこわいのだ。小さな外電記事だが、ハンガリーの政権に右傾化の兆しがあるという。あの民主化を求めたハンガーリー動乱を知らない世代が多くなったから、との解説だ。

 フランスや韓国は左派が優勢というが、イスラエル、イランをはじめナショナリズムを前面に打ち出したパワー・ポリティクスは衰えを見せない。また、経済面の不安定がそれに輪をかけている。日本では、中国・北朝鮮の脅威を念頭に、アメリカの新防衛戦略展開を必要以上に強調して受け止めようとする人がすくなくない。
 
 すでに世界は新しい時代に入っている。その機運にのって、日本の憲法を軽んじ、9条の意味をないがしろにする動きには、断固とどめをささなくてはならない。その点で「徴兵制論」など不用意な発言をしてかえりみないやからは、老害とか売文家といわれてもやむを得ないだろう。

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コメント

よくぞ書いて下さった。
岩見のしたり顔には辟易しています。
悪いが岩見は、後数年でリタイア当確。本来なら超ベテランマスコミ人として、徴兵制度の功罪を、奴お得意の『思い出話』で諭したりする立場でしょう。
あいつは、慎太郎や橋下さんとかと違って、薄汚いです。奴らは濃淡の差はあれ、賛成の側を示している。
岩見の本音は、最後の最後まで、おのが地位を傷つけたくないから『模様見』をしているんです。
リベラル・良識派ぶった隠れ保守派と20年以上、せせら笑っていましたが、ついに極右とも、にぎにぎし始めた。しかも、遠巻きに、セコーイ!
あいつは昔、筑紫さん・石川さん・安東さん・前田哲男さんと『積極的護憲論』をやっていたことがありました。
許せない!石川さんが当時、馬鹿左翼どもから小ばかにされつつも、真面目にチャレンジした、あの文章を思い起こせば…中村主水(笑)の出番だよ!
政治家が路線変更したりするのは、ある程度我慢します。でも言論人が、ああも阿るのは、ダメ!
鳥越未満のちょうちん河豚は、弟分のブルドック、岸井さんと共にリタイアして欲しい。

投稿: 暇 | 2012年2月22日 (水) 14時01分

暇 さま
はじめまして。コメントありがとうございました。

気持ちはあるのですが、つたない文章でどこくまで真意が伝えられるか……、という不安があったのですが、共感していただきありがたいと思ってます。

毎日も若い記者には、括目させる記事を物にする場合がありますが、岩見は雇われマダム、岸井は主筆になってからどうも無定見評論家に見えてきた。見識がない分、鬼面人をおどろかす文を書いたりおおきな声をだせばいいというわけではない。

「売文家」と書きましたが、文章を売るのならまだいい。TVや週刊誌で顔を売るようになってからだめになった。戦前のように地方紙から名文で朝野をうならせるようなジャーナリストが出る幕がないのですかね。

投稿: ましま | 2012年2月22日 (水) 20時01分

徴兵制は嫌な人にむりやりやらせても意味ないと思うので賛成しませんが、18~20歳くらいの男女に1年間社会的奉仕をするオプションを与えてはどうですか?たとえば、自衛隊員、警察官、消防官、刑務所の刑務官、変わったところでは南洋群島に今なお眠る日本兵の遺骨回収とか。好きな職種を選ばせて社会経験させれば長い人生の貴重な体験になるはず。刑務官なんてなったらかなり犯罪抑止に役立つんじゃないかと思います。ほかの職種もやりがいありそうだから社会勉強にもなるし、気に入ってそのまま就職すればなおよし。
インセンティブもないと応募しないから、たとえば公務員試験で加点するとか何年間か国民年金保険料を免除するとか。自分も若い頃そういう制度があればやっただろうなーと思います。

投稿: ミスター珍 | 2012年2月23日 (木) 21時59分

自衛隊でもそれはできます。

投稿: ましま | 2012年2月23日 (木) 22時57分

コメントが載っていた上に御返事まであったので、書き込みます。かなり乱文、長文ですが、ごめんなさい。
毎日って記者の目とかいう写真入りのコーナーや、社会面など、良い記事というか金払って買う気になるものもあり、また尊敬する伊東光晴さんの書評や、右からの批評として評価している西部さんのひねくれた意見文もあるから好きなんです。
日経と思想的にも大差なく見える、しかも無駄に高い(笑)朝日ではなく、東京と毎日しか買う気にはなりませんが、さてさて、なんで爺ばかりに頼るのか?松田とかいう爺さん官邸記者も、テレビ等でも馬鹿すぎだし、ろくなのがいない!
岩見や松田、岸井のおかげで鳥越さんが最近、ひどくまともに思えるこの頃。
因みに岩見はどうも産経にかぶれている臭いがします。私が大嫌いな小沢氏に対する、鳥越さんの法治国家ならば、至極まっとうなコラムが出ていた前述の毎日で、くだらない極みの岩見コラム[それを読んでしまった私も馬鹿だが…]で、偶然にせよ産経ソースが二人分、また、先日立ち読みした佐高さんのコラム近くにあった奴の文にも、産経支持的な書き込みがあったと記憶しています。偶然と言えばそれまで(笑)。しかし、あの世代で今更、徴兵制度プッシュしますかねぇ?
近聞何とかで取り上げられた四人の、まあ、ドンビキなこと!FAXを押し売りみたいにばらまく『完璧に頭の逝っちゃった』元右翼中小政党党首は、岩見さんと大差なく見えました(笑)。
その塚もっちゃんで想起したので、ついでに…。
岩見さんを、ここまで嫌いになっているのは、去年だったか、不破さんと写真入りで対談したやつ、あれかもしれない。
仔細ではなく、四十年ぶり、不破さんが書記局長になる直前に自宅で会って以来みたいな発言を読んだ、その刹那(笑)かも。
この男の、なんかいやな物をもろ感じてしまいました!
要は、あんた、えらそうにしているが、共産党のボスにすら、まともに会ってないんだろ?
そーんな政界[皮肉を込めて、こう書く!]記者は、いねぇだろって!
政界記者ならば、どんな困難なケースでも、まあ、その昔、六全協直後とかならばいざ知らず(笑)、チャンネル作って取材するものだろうに…。
昔、久米さんが自嘲気味に『現場に行かないジャーナリスト』[彼は、当然司会者なので、これも適当なギャグだったんだろう…]と自己分析していたが、プロの記者たる岩見さん、なんだかなぁだ。
私の学生時代、小選挙区バトルの最中だったが石川さんが『もぅ、ろくに新聞も読まなくなったなあ、横着して(笑)。たまに岩見隆夫君のコラムは読むけどね』と謙遜なさっていたが、同じ火曜日の朝日・毎日の看板編集委員のコラムには格段の差がありました。
片や、ひたすら思い出話、片や、政治事象、思想等の背景に在るものをレクチャーするもの。石川さんはかといって政界記事が書けない方ではなかったが、それをやりだしたら政界記者になるから嫌だと明言されていた。学生時代に夜行列車で丸山さんの、かの本を読んだくだりなど面白く話して下さった…。PKO法案の社共のヘボ戦術を意地悪く諌めたり、オックスフォード大で教える名目で英国の小選挙区事情を勉強なさったり…。朝日で一人で反対の論陣を張る姿を今でも間近に見ていた一人としては、毎度毎度、あの時佐藤が、そこで角さんがと下手な浪曲師みたいなことしかできず、かつ、常に『模様見』で現実政治を見つめる岩見さんには与せぬものがありましたね。
『銭金の問題なら、なんとかなるもんだ。でも命に関わる、社会そのものが揺らぎ兼ねないケースってのは、絶対疎かにしてはなりねぇんだよ』
こんなことは、何も大学で学ぶことではないのだが、私が飯田橋体育大学で、自身の単位とは全く関係ない彼のレクチャーで学んだ忘れなれないことのひとつです。

投稿: 暇 岩見ネタから思い出話を | 2012年5月 8日 (火) 06時48分

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