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2012年2月25日 (土)

消えた怪物・共産主義

 「一つの怪物がヨーロッパをうろついている――共産主義の怪物が」この有名な共産党宣言の書き出しは1848年、今から164年前、明治になるまであと20年も間のある頃の話である。この怪物はもうすっかり世界から姿を消したのに、なぜか日本では怪物の存在を信じている人が多い。

 もつとも日本を含めた世界各国に「共産党」が現存するのだから、怪物は健全なのだと思われても仕方ない面はあるが、少なくてもスターリン死後「一つの」怪物ではなくなった。共産党宣言の頃がマルクス・エンゲルス主義だとすると、ロシア革命に成功(1917年)したのがマルクス・レーニン主義であり、レーニン・スターリン主義はソ連中心の独裁体制を確立した。

 周辺に侵攻して自治州を作り、東欧の衛星国を従え、いわゆる「共産圏」を構築した。そこに中国、ユーゴスラビア、ルーマニアさらに北朝鮮、ベトナム、キューバなども加わる。ところが、スターリンの死後、その強権・独裁体制に国内からも「スターリン批判」が公然化(1956年)することになる。

 しかしソ連は、共産主義の本家本元はクレムリン(モスクワの権力中枢)であり、その方針に背く国または党員は、追放か粛清されなくてはならない、という態度を変えない。共産圏の団結は必要だが、それぞれの国にはそれぞれのやり方がある、というのが中国をはじめ前段で国名をあげたような国々だ。

 東欧のブルガリアやチェコスロバギアなどには、それぞれスターリンに忠誠を誓って地位を維持してきた分子がいたが、文化人・作家など国民の批判が高まった。それに対し、ソ連は反革命であるとして軍事行動をとることになる。

 中国の毛沢東は、そういったソ連を「覇権主義国家」と位置づけ、一時は国境紛争などもあり、戦争を覚悟するようなこともあった。ソ連が崩壊したのは、スターリンが死んでから実に38年たった1991年である。その間、東欧衛星国国民の血のにじむようなソ連全体主義への抵抗は、日本であまり知られていない。

 特に若い人は、共産主義、共産圏というワンパターンでしか物を考えないようだが、それが通常の国際感覚を麻痺させている。共産主義といっても、マルクス・エンゲルス、マルクス・レーニン、レーニン・スターリン、そして東欧主体の人民民主主義や、中国の毛沢東主義、鄧小平主義など、それぞれ別のものだ。

 東欧国民抵抗の指標となった「二千語宣言」というのは有名だが、中身を紹介されることがあまりない。中国や北朝鮮の今後を占ううえでも参考になると思い、以下テキストとして紹介する。

 [起草者]作家・ルドヴィク・ヴァツリク、1926年生まれ、元国営チェコスロヴァキア放送と雑誌「リテラルニ・リスティ」編集者、1969年党から除名されたが1968年に党員権を回復、1969年党から再除名。

 「二千語宣言」1968年6月27急進的民主派が一層の民主化促進を要求し発表された宣言。(主な内容)

①[共産党]は、指導部の誤った路線のために、政党から、またイデオロギーによって貫かれた同盟から、権力機構へと変化し、この「権力機構」は、支配欲の強い利己主義者、嫉妬深い卑怯者、および恥知らずの人々に対して大きな魅力となった。

②党が国家と結びついたために、党は、行政権力から距離を失う結果となった。国家および諸経済組織の活動は、批判されることが無かった。議会は審議することを、政府は統治することを、そして、企業の支配人等は管理することを忘れた。人間関係は堕落し、労働に対する喜びは失われた。

③今日の状態に対しては、われわれすべてに責任があるが、そのなかでも、共産主義者には、より大きな責任がある。しかし、主要な責任は何らの抑制も受けなかった権力の構成分子、およびその手先であった人々が負っている。特別に育成された党および国家機構の職員の階層が、労働者の名において支配した。この階層は、打倒された階層に事実上とって代わり、自ら新しい権力となった。

④社会政策の源は、経済である。

⑤[自由にものが言える、新しい]制度を、人間的にしようというわれわれの意図は、絶対に完成されなければならない。

⑥各人は自らの責任において、自らの結論を出さなければならないであろう。共通の一致した結論は、ただ討論によってのみえられるのであり、その討論には、今年われわれがかちとった唯一の民主主義的成果である言論の自由が必要なのである。

⑦われわれは権力を乱用し、公共財産を破壊し、不誠実あるいは残忍に振舞った者の退陣を要求しよう。たとえば公開の批判、決議、デモ、示威を行う労働者たちによる、彼らが恩給生活に引退するための資金カンパ、ストライキ、ボイコットなどを行う活動を妨げる、彼ら反労働社会層を退陣に追い込む方法を見出さなければならない。われわれは、国民戦線の運動を復活させよう。われわれは国民委員会の公開の会議を要求しよう。

 誰もかかわることを望まない問題のためには、われわれも自身の市民委員会を結成しよう。われわれは、大部分が公式見解の代弁者に堕落している地方、および市町村の新聞を、あらゆる肯定的な政治勢力への演壇に代えよう。われわれは言論の自由を守る委員会を結成しよう。

⑧最近わが国の発展に、外国勢力が介入するかもしれないとの恐れから、大きな不安が生じている。すべての点で優勢な勢力に直面して、われわれがなし得ることは、われわれの立場を、節度を守って主張し、誰にも「言いがかり」をつけられないようにすることである。われわれの同盟国に対しては、われわれの同盟条約、友好条約を守ることを保障することができる。

⑨われわれの国内状態を質的に改善し、そして、われわれの復活の家庭を大幅に推し進め、その結果、われわれが選挙によってこうした関係を樹立し、維持するに十分な勇気、誠実さ、政治的能力を身につけた人々を選出する。それは、世界の全小国全ての政府に通じる問題である。
(小屋修一訳『人民民主主義の歴史/スターリン以後(下)』より)
 

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コメント

68年プラハの春、私は当時小学生でした。64年の東京オリンピックで一躍有名になったチャフラフスカが、68年のメキシコオリンピックで受けた政治的な不正審判を思い出します。

あの時の「ブレジネフドクトリン」の21世紀バージョンが「テロとの戦い」だと思っています。まったく身勝手で独善的な論理は守ろうとした体制そのものを崩壊させるというお手本のようなものです。

投稿: ていわ | 2012年2月25日 (土) 21時16分

「テロとの戦い」、ブッシュの先輩がいたのですね。またひとつ利口になった(笑)。

「米ソ覇権主義反対」、毛さんは偉いよ。天安門広場の絵が「中国覇権主義反対」と言ってる妄想をしたくなる。

投稿: ましま | 2012年2月26日 (日) 10時07分

怪物(ソ連)が攻めて来るとの話を信じて何十年も冷戦を行っていたが、実はその怪物には攻めて来る意思も実力もまったく無かった。
侵攻したチェコやハンガリー、アフガンは自分の勢力圏だと思っていたからで、日本人がソ連を恐れる必要性は無っかたのですが、『怪物が攻めて来る』との、この冷戦思考はある意味で楽なのでしょうね。
日々の食料にも困る北朝鮮の脅威論が一時言われていたが、余りの馬鹿馬鹿しさに気が付いたのか、今度は中国が攻めて来る話に摩り替わっている。
超大国だったソ連と後進国だった中国では半世紀ほどの技術力の差があるが、冷戦崩壊後の中国の驚異的な発展は世界一の経済大国アメリカの思惑(承認とか支援とか後援)無しには無理なのです。
アメリカの貿易の一位は中国で、対外債務の一番目も中国です。
密かな中米合作が行われているのですよ。
これは歴史的に見れば何の不思議も無い。日本は敵国だった時代に中国は同盟国であり、今の国連とは当時の連合国の意味で有り、それ以外の解釈のし様が無いのです。
副主席の訪米では日本国首相よりも高待遇。
オバマ大統領は20年間の中国の驚異的発展を褒め称えて米中の友好関係を演出していたが、今後何かの間違いでネットウョさんの言うように中国軍が日本に侵攻したとすると、軍事行動は制海権と制空権を確保してから行うのです。
そして制空権も制海権も米軍が握っているので、間違いなく米軍の支援とか了解の下で行われますね。

投稿: 宗純 | 2012年2月28日 (火) 10時53分

宗純 さま
コメントありがとうございました。

すべて私の言いたいことを網羅していただいて不足分を補っていたたき感謝。実はこういう結論に持ち込むため「怪物」の話を持ち出したんですが、引用が長くなりすぎて、あとを省略しました。

ひとつ付け加えると、尖閣諸島の主張や南沙諸島での行動など、多分に覇権主義的な行動があり、また、国内の反日感情に軍部などが反応している面は否定できません。

しかしそれらが、日本における靖国参拝の奨励や名古屋市長の不用意発言、そして米軍海兵隊の沖縄引き止め策なとが、先方のタカ派分子に塩を送っていることになることに気が付いていない、ということです。

投稿: ましま | 2012年2月29日 (水) 10時20分

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