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2012年2月 6日 (月)

第2次朝鮮戦争を言う雑駁

 小学館が発行する『SAPIO』という雑誌がある。広告の表題をたまに見るだけで、一度も買って読んだことはない。たまたま、ネット上にバックナンバーに載ったジャーナリスト・桜井よし子氏の一文があったので何とはなしに目を通してみた。

 文春とか新潮系の雑誌に定番で現れる右翼論壇の学者・教授などの中には、同意しかねるが「読ませる=勉強になる」文章に接することはある。しかし、桜井氏の場合、まずそういう期待からは遠い。

 それでも、一時ほどではないが売れっ子の彼女のことである。最近あふれんばかりの安易な中国・北朝鮮脅威論に、なにか目新しい観点でもあるのかな、という興味はあった。しかし、それは的外れだった。やはりネットウヨ・アジテーターのレベルを超えるものでなかった。

 くわしく紹介する気にはならないが、北朝鮮の金正日なきあとの新体制は不安定なものになる。その結果、仮に同国内に騒擾状態が発生した場合、中国軍が国境を越えて進駐する可能性がある――、ここまでは塾頭も同じ考えだ。

 そして、「あわよくば韓国を含めた朝鮮半島全体を自らの影響下に置きたい、かつての朝貢国のようにしたいというのが中国の思惑なのです」と飛躍する。その場合、アメリカが中国の朝鮮支配をだまって見ているわけがない。北朝鮮情勢は「第2次朝鮮戦争」の危険をはらんでいます、というおとぎ話になる。

 だから、日本政府はいますぐにでも「集団的自衛権」を明確に認め、さらに「先制攻撃」「敵基地攻撃」は、憲法上も可能であると明言しておかなければならないという、国民も司法も認知していない空論を重ねる。

 そして最後の結論が、「中国の軍事介入を抑止するためにも、日本が「韓国による朝鮮半島の自由統一」を明確に支持し、中国の北朝鮮支配には正当性がないことを国際社会に訴え続け、日米韓が団結することが極めて重要なのです」である。

 ここに話をもってくるため、古代高句麗支配の例を示したり、日・米・韓が行う図上作戦計とか日本の後方支援が切り札、といったさきの朝鮮戦争の話を持ってきて、現実がさしせまっているように表現する。

 軍部が仮想敵国を考えて準備したがるのは日常あることで、その職責上、あるいは予算獲得のテクニックとして当然なことである。しかし、それに輪をかけてあおりたてる「トンデモ」ぶり、それがまた「売り物」となるというところに、この種のアジテーションの怖さがある。

 中国軍が仮に中朝国境を越えるような事態が発生したとしよう。理由は、軍部暴発の危機でも虐殺でも、暴動発生治安維持、なんでもいい。中国は、国連安保理に緊急事態の発生と、そのためにとった行動を報告するとともに、しかるべき決議を要求する。

 もちろん、アメリカにはたとえ了解がなくとも、限定的作戦であることを内報する。この場合、日韓の頭越しで暗黙の了解が成立するかも知れない。アメリカは総力をあげ情報収集と監視を続け、また38度線で厳戒態勢をとるが成り行きを静観するにとどめる。

 中国は、傀儡であろうが何であろうが軍部の暴発を押さえ、治安が確保されて難民の大流出が避けられるようであれば漸次撤兵する。それ以上のことをするわけは、絶対にない。その理由は、桜井氏の言うような中国の拡張政策なら、北の民衆は身を挺して抵抗するに違いないからだ。それは東北地区に多い中国の少数民族・朝鮮族に波及し、チベットやウイグルに次ぐ難問をかかえることを意味する。

 また、最大の貿易相手先である日・米・韓と対敵するようなことになれば、得るものより失うものの方がはるかに大きい。アメリカにとっても中国の介入により、この地域が安定すすることに反対する理由はない。核実験や軍事力行使による瀬戸際政策がなくなれば、日・米・韓ともに好都合なことだ。

  もう一つ抜け落ちている観点がある。それは、朝鮮半島に住む朝鮮民族の悲願が南北統一であるとしても、いつどのような方法で、またどうあるべきかを決めるのは彼ら自身でなければならない。それを、あたかも中国や日・米・韓に主導権があるような発想をすること自体、越権行為だということである。

 桜井氏がいう、日本政府が平時から「韓国による朝鮮半島の自由統一を支持する」と表明し、「そのためにいかなる協力も惜しまない」との態度を明確に示すべきだなどという構図は、韓国からも猛反発を受ける可能性がある。そのくらいなら、北朝鮮と結託して反日国家を作った方がましだ、という人さえでてくるだろう。

 北朝鮮の「主体思想=チュチェ思想」という言葉を聞いたことのある人は多いと思う。朝鮮は有史以来大陸や日本の侵攻を受け苦しんできた。その中で生まれたのが「事大主義=大きいもの、強いものに従い仕えること」という処世術である。

 そういった思想を克服しない限り、民族の悲劇が繰り返される。北朝鮮独立後、その相手がたとえソ連・中国であっても、民族の自立を優先させ盲従はしないという考え方だ。これはスターリン批判後、より鮮明になっている。いまだに「共産圏は一枚岩だ」と信じるている冷戦思考から抜け切れない人が多いのは、日本をおいてそうないだろう。

 韓国にはそんな国是はないが、民族感情としては共通するものがある。体制の違いはあっても、同じ民族だという意識の方がかなり根強い。在韓アメリカ軍に対する韓国民の心情には複雑なものがある。統一にアメリカの力を借りるという主体性のない話はやはり通用しないだろ。戊辰戦争で英・仏の協力をことわった日本の明治維新を考えれてみればすぐわかる。

 日本にとってもっとも憂慮すべきことは、国際化が進んでいるというのは口先だけで、外交や国際感覚については、明治時代、戦前以上に鎖国状態にあるということだ。そうして、日米の近代兵器さえあれば、朝鮮半島の征服など朝飯前だという戦争に対する浅はかな知識だ。陸上兵力を主とする白兵戦ならば、量質ともに北朝鮮が最強である。ベトナムやイラク、アフガンから何も学びとっていない。

 桜井女史もさることながら、防衛大臣が田中さんという日本の寒さは、このまま続いていくのだろうか。

本塾内参考エントリー
http://hansenjuku.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/post-afc3.html

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