« 米・新国防戦略、日本はどうなる | トップページ | イラン制裁と日本 »

2012年1月 7日 (土)

続・新円切替の時代

 「新円切替」とはどういうものかについては、前々回の記事を見てください。その前の<消費税と「蛮勇」政策>から話はつながっているのですが、わかりにくいようでしたら読み返してみてください。次の話は、塾頭のごく身近にいた先輩から聞いた話です。

リンゴ成金
 彼は、兵隊でしたが衛生兵という、あまり前線で戦うことのない部門の担当でした。彼は、軍人勅諭の「一つ 軍人は忠節を尽くすを本分とすべし……」をもじった「軍人は要領をもって旨とすべし」に徹したんだ、と自慢げに述懐していました。

 その彼は復員後、せっかく無事帰ってきたのだから、戦争の垢を洗い落とし、気分一新しようと熱海の温泉で休養することを思い立ちました。そうして、大浴場で偶然会った人と次のような会話を交わしました。

 男「復員早々だというが、長逗留だね」
 彼「うん、金ならいくらでもある」
 男「そうかい。じゃあリンゴを大口で買わないか。○○円でどうだ」
 彼「よし、買った。引取先はあとで部屋へ届けさせよう」

 彼はそのまま忘れていたところ、ある日秋葉原の貨物駅から突然電話がかかってきました。「青森からリンゴが貨車で届いているんですが……」。大口とは言ったがまさか貨車で……、と驚いた彼だが、引き取らないわけにいかない。

 その頃、すでに新円切替の話が出始めていたのです。男の方は、新円になったら、貨車単位でリンゴを買ってくれる客はそうはいないだろうという計算です。一方彼は、旧円をいくら持っていても銀行預金で封鎖されたら使えなくなるはずだということで、旧円を親戚や知人からもかき集めました。それで支払を済ませ、全量自宅に引き取りました。

 自宅の玄関から庭までうず高く積み上げられたリンゴ箱をどう処分するか。彼が思い立ったのは、新円切替が始まると同時に、新橋駅前でにわか露天商、別名ヤミ屋をはじめることです。「リンゴの歌」がはやったように、それこそ飛ぶように売れました。

 彼の手元には使いきれないほどの新円が転がり込みました。500円生活、300円生活には全く縁がない、いくら使ってもいいお金です。彼はやがてこれを株式投資に向け、ちょとした金満家になりました。話半分に聞いても、目先の利く人はやはり違います。

家内工業全盛
 サラリーマンなら、月に500円は新円が入るわけですが、定職のない人はそうはいきません。インフレに置いて行かれないように、なんとか新円を手に入れなくてはなりません。そこで塾頭の家では、手動のメリヤス編み機を導入し、「軍足(ぐんそく=靴下)」を作って問屋に納入することにしました。

 「軍手」なら今でも100円ショップなどで買えますが、「軍足」はご存知ない人が多いと思います。作り方は、まず、「短繊維」という再生品の毛糸(粗悪品ですぐ切れる)をメリヤス編みにして円筒形の胴の部分を作ります。 
  
 別にゴム編みで履き口の部分をまとめて作り、メリヤス編みの筒にかがってつなぎます。つま先の部分は、しぼって閉じるだけ。これで完成。かかとの部分の補強加工は特にありません。それでも一応は商品です。靴下の形をしたジュラルミンの板を中に入れ、アイロンをあてて体裁をよくしました。

 「それでは一度履くとかたちがなくなる……」。それでいいのです。軍足は履くたびにかかとの位置が変わり、特定の場所に穴が開きにくいのです。それでも1シーズン持てばいい方だったでしょう。良心的ではありませんが、物不足だからそれでも売れた時代なのです。

 バイトなどという言葉もなかった時代、学校から帰ると一所懸命に手伝いました。後には、「前身ごろ」「うしろ見ごろ」「袖」を編んでかがり合わせるセーターも作りましたが、それらの商売は2年と続かなかったように思います。近くには、軍需品の部品製造設備を利用して電球まで作る家がありました。田舎の小さな町でも、そんな復興への活力があったのです。

|

« 米・新国防戦略、日本はどうなる | トップページ | イラン制裁と日本 »

戦中・戦後」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/468248/43658504

この記事へのトラックバック一覧です: 続・新円切替の時代:

» ・・・今年、恩義(Oblige347)の決意! [自由進歩マガジン『青旗』! 『ArtBlue-Liberalism』のBlog]
小生には夢がある…!  たとえ、小生の命が息絶え絶えようとも名が永代にて残るほどの偉業を成し遂げるという夢がある!! この夢を夢で終わらせたくはない…!!! この絶望的な世の中や我々人民への仕打ちに悲観するのではなく、 むしろこの絶望の世を我々にとって喜ば...... [続きを読む]

受信: 2012年1月 8日 (日) 02時46分

» 福島第一原発ヘリ放水 [逝きし世の面影]
『もっと近づかないと駄目だべ』 世界に恥を晒した日本の自衛隊ヘリの飛び去りながらのセミのション便シャワー 『放水、今日中に』米政府が日本に圧力   東京電力福島第1原発事故の発生後、日本政府の事故対応に不信感を募らせた米政府が原発への放水を早急に実施す...... [続きを読む]

受信: 2012年1月 8日 (日) 09時16分

» 「安全安心」ホルミシス効果VS「低線量がより危ない」ペトカウ効果 [逝きし世の面影]
『除染費用1兆円を被災者に』 1973年のノーベル物理学賞受賞者江崎玲於奈氏1925年生86歳(横浜薬科大学学長、茨城県科学技術振興財団理事長)は、 『われわれ人間は誰でも、故郷を愛し、伝統を大事にしたいと願う保守性と、世界に飛躍して新しいものを創造したいという...... [続きを読む]

受信: 2012年1月10日 (火) 10時05分

« 米・新国防戦略、日本はどうなる | トップページ | イラン制裁と日本 »