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2011年11月 1日 (火)

天皇と憲法

 11月26日の「憲法審査会発足と護憲」で予告したカテゴリ「憲法」のリニューアル版として、まず憲法「第一章天皇」を取り上げてみたい。

 第一条 [天皇の地位・国民主権]天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
 第二条 [皇位の世襲と継承] (略)
 
 第三条 [天皇の国事行為と内閣の助言・承認及び責任]天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。

 第四条 [天皇の権能の限界、国事行為の委任]天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
② 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。
 (第五条~第八条略)

  「天皇ハ神聖ニシテ犯スヘカラス」(第三条)の存在であり、「統治権ヲ総攬シ此ノ憲法ノ条規ニ依リ之ヲ行フ」(第四条)する権能を有した「大日本帝国憲法」からの改定である。「押し付けられた憲法論」にはここでは触れず、当時の立法手続きがどう進んだか、を示すと次のようになる。

・終戦の翌年、昭和21年(1946)3月6日、政府が「憲法改正法案」を発表。
・立案した幣原政権は選挙の洗礼を受けておらず、新政党の結成も進んでいたため、改正憲法の民意を問う含みで総選挙が4月10日に行われた。
・5月16日に第90臨時議会が召集され同月25日から憲法の審議が始まった。政府案について答弁に当たったのは5月22日に成立した吉田茂内閣であり、議会は10月12日まで続く。こうして日本国憲法は、11月3日に公布、翌47年5月3日から施行される。

 塾頭の記憶をたどってみると、このような革命的新憲法案に対し、国内で賛否両論が激しく対立、自主憲法制定のための国民運動が起きたなどということは、全く覚えがない。とはいえ、起案に当たり、GHQの誘導があったことは誰もが知っていたことなのである。

 関心の的は、憲法より日々の食糧確保であり、インフレ・新円切り替えなどの生活環境であった。かろうじて人々の口にのぼったのが「天皇制」と「戦争放棄」である。天皇については、よく知られている5月19日の食糧メーデーのブラカードがある。

 「国体はゴジされたぞ、朕はタラフク食ってるぞ、ナンジ人民飢えて死ね、ギョメイギョジ」

 品のない行為だとは感じたが、ここまで言論・表現の自由があるのだという証明にはなった。GHQが厳しい言論統制を敷いていたからといった説を為すものがあるが、庶民にとって占領統制はあっても、「物言えば唇さむし」という戦時のような弾圧を意識することはなかった。

 天皇制に表立って反対したのは各会派のうち共産党(5名)だけだつたが、1月に国外逃亡中だった同党野坂参三が中国延安から帰国し、市民の熱狂的な歓迎を受けるなど、食糧メーデーも天皇制反対も、ある程度の共感を持つ人がすくなくなかったのである。

 その年の正月元旦、天皇の「人間宣言」という詔勅が発せられ、天皇みずから神格視の誤りを指摘するという異例の措置がとられた。しかし、それにもまして天皇を国民に身近な存在として引きつけたのは、2月19日の神奈川県から始まった地方巡幸である。

 天皇の問いかけに答える庶民に、「あっ、そう」とだけをオウムのように繰り返す素朴さは、多数の国民をすっかりとりこにした。学校では、その口真似がはやり、宮中では、普段勅語のように「チンオモフニコウソコウソウ」などとしゃべっており、普通の日本語は使ってなかったのか、などと言ったものだ。

 巡幸は回を重ねるごとに熱狂的歓迎をうけるようになっていったが、塾頭もお召列車の停車駅・信越線新津駅の手前線路際で先生に引率され手を振ったことを覚えている。天皇を「天チャン」、皇太子を「セミ天」などと親しみをこめた呼び方をするようになったのも、このあとあたりからであろうか。

 こうして、憲法の天皇制否定論はすっかり影を薄くしていったようだ。次回は天皇の戦争責任や天皇制のありかたなどに的を当ててみたいと思う。

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