前回、「このところ急速に(保守層を含め)反米感情が高まりつつある」を結語として持ってきた。国会討論で「アメリカの言いなりになっている」ということが公言されるようになったことがそれを示している。この責任は、アーミテージ氏というより、責任の過半は、冷戦後日本が進むべき外交上の理念が欠落し、官僚任せにしてきた日本の政治家にあることを断言する。
その具体的で最大の弊害が、日米の官僚が望む現状維持の切り札として、「核の傘幻想」を振りまいてきたことである。同床異夢とはいいながら、これを持ち出してアメリカに懇願したのは日本の方だった。
核保有国にとって、使い勝手が悪く使いようのない核兵器を持ち続けることはお荷物になっている。南アフリカやリビアは、「1抜けた」でその地位を捨ててしまった。反面、盛んに持ちたがっている小国が現存することも事実である。
核武装することで、国民が飢えても「強勢大国」なると信じて止まない国とか、かくれ保有国イスラエルから攻撃の危機にさらされている国などだ。保有量トップと2位のアメリカ、ロシア内には、それがあるから世界の警察官や、かつてのソ連の栄光がとりもどせると盲信するタカ派がまだいる。
3番目が、ジャパン・バッシングは仕方ないが、パッシングやナッシングだけはご勘弁を、といってアメリカに「傘」を懇願する日本や韓国などである。そんな傘(戦術核)などすでにないのだが、「せっかくそういうのなら仕方ない」と、応ずる顔をする。これが「抑止力」という幻になる。
前回紹介した、アーミテージとナイの本を見ると、この抑止力は海兵隊とセットになっている。核の傘といっても、日本が攻撃を受けた場合、アメリカは本当に核で反撃するんですか、という疑問についてこのように発言している。
ナイ (前略)核有事の際に米国が日本を守ることを担保してくれるのは核兵器そのものではなく、日本に駐留する米軍なのです。
仮に核兵器を搭載した米艦船を日本の領海内に置いたところで、それは必ずしも核抑止力を強めることにはなりません。もちろん、幾分かは便利というか、効率的ではあると思いますが、真に担保するものは北朝鮮の(核)攻撃によって、日本国内で命を落とすことになるかもしれない米国人が(日本に)いるという事実なのです。(中略)
春原 その「ロジック」とは沖縄に駐留する米海兵隊のことを意味しているのですね。
ナイ ええ、沖縄の海兵隊はその好例です。もちろん青森県の三沢基地や横須賀基地なども含まれます。これらの基地、米軍兵力はいずれも日本にとって、米国の核の抑止力を最も強く担保してくれるものなのです。
アーミテージは、「人質」という言葉は避けたが、その趣旨には反対していない。さあ、これであなたは「核の傘」に信頼を置けますか。たとえ同盟国であっても、「米軍基地がなければ核兵器で日本を守ることはしません」と言ってるのと同じで「駐留なき安保」では、「傘は無効ですよ」ということになる。
なんとも恩着せがましいが、2人は沖縄の米軍基地の存在が抑止力となり、日本の安全にとって不可欠のものであることを強調する。中国の軍事力増大や海洋進出そして、プレッシャーが強ければ強いほど日米当局に有利な状況が生まれてくるという構図だ。
ところが、最近こんなニュースが飛び込んできた。沖縄の海兵隊約1万7600人のうち8000人がグアムに移転する。これは前から決まっていたことだが、中身が司令部要員中心だったのが歩兵、航空部隊などの戦闘部隊も移転する案が立てられたという。
その理由について「西太平洋で米軍の行動を妨害できる能力を高めている中国軍を念頭に、海兵隊を分散することで壊滅的打撃を受ける危険性を減じる狙いがある」(毎日新聞11/13)としている。
現在は、沖縄1万7600人、ハワイ6000人、グアム20人、豪州25人で圧倒的な人数が沖縄に集中していることになる。それが「壊滅的打撃を受ける危険」があるというのだから、抑止力どころか、そこに基地があること自体が危ないということを証明することになる。
さらに豪州ダウインに駐留・訓練基地を設け、数年後には豪州からの展開可能力を保持する本格的な海兵隊の拠点となる可能性(11/17夕・毎日新聞)も報じられた。こうなればもう、離着陸を含む総合訓練のために必要としていた辺野古移転などやめてもいいのではないか。
しかしそうにはなるまい。アメリカは世界でもっとも安上がりで住み心地のいい基地が沖縄だ。軍事費削減で締め付けられている現在、日本からそれを要求されるようなことがあれば、立退き料はうんと積み増さなければならないだろう。アメリカにとって日米同盟の深化とは、軍事費と人命の肩代わりを日本に期待することなのだ。
敵地への殴り込みを任務とする海兵隊や、先制攻撃も否定しない米軍が沖縄にいるのと、外国での武力行使をより厳密に禁止された自衛隊が固く守備をするのと、どっちが抑止力になるか議論してもいい頃だ。
最後に、上田愛彦など元自衛隊幹部7人の共同執筆になる『派遣国家・中国とどう向き合うか――2020年を見据えた我が国の防衛――』(10/11/10発行)からの引用を付録として付け加えておこう。
与党内の政権争いは、菅グループと小沢グループとの対立を鮮明にしたことでマニフェストを実行できるかの懸念を国民に抱かせているが、保守と革新の寄せ集めの政権であるから各種政策を進める上で大きな矛盾を露呈する可能性があり、大胆な予測をすれば3年後には民主党も自民党も存在しない可能性もある。(中略)
第二に『米国』であるが、2009年に誕生したオバマ政権は、サブプライムローン問題を原因とする金融政策から実体経済に大きな綻びを見せたため、暫くは国内経済対策に忙殺され、安全保障面での国際的役割を縮小し、中国やロシアそしてEU(欧州連合)の進出を許さざるを得ないだろう。このため、経済が縮小する分、米国の世界制覇を維持するために、同盟国への役割分担を求める公算は高く、とりわけ日本に対しては経済的負担と、自衛隊の国際的関与を要求する度合いが強くなることが予測される。
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