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2011年6月14日 (火)

原発と国威発揚

 村上春樹さんが2011年6月9日(現地時間)、スペインのカタルーニャ国際賞授賞式でスピーチした。ヨーロッパでは、イタリアで脱原発の国民投票で94%の賛成。仏・英が推進派で、日独伊の3国同盟なるか?。これは悪い冗談だが、今回のテーマは国威発揚である。

 村上さんはスピーチの中で、広島原爆の碑文の「過ちをくりかえしません」の意を、被害者であるとともに加害者でもあると解説し、今回の原発事故における過ちに言及した。、原爆と原発が不即不離の関係にあることは、当塾でもすでに「フクシマ」と「ヒロシマ」(05/27)や「脱・原子力ニッポン」を(05/08)で主張した。

 さらに、村上さんは、日本人が効率を追いすぎたための原発容認という話をしたが、これはあまりにも大まかなくくり方で、原子力を国策として取り入れた1956年頃には、「効率」とは全く無縁なものだった。

 前にもふれたが、当時は冷戦のさ中で米ソの核開発、核武装競争が熾烈を極めており、その前年アイゼンハワー米大統領が「核の平和利用」についての演説をし、西側の同盟国となった日本が早速それに乗ったものだ。

 戦後の日本は、連合国に占領され、5大国から一転4等国以下となって生き延びられるか、という悲観ムードもあった。そんな中で、古橋広之進らが全米水上選手権大会の自由形で優勝するとか湯川秀樹のノーベル賞受賞とか南極観測隊の派遣など、将来に明るい「国威発揚」をもたらす話題は歓迎されたものだ。

 唯一の原爆被爆国である日本は、原爆の恐ろしさや非人道性は骨身にしみてて経験をしている。また、原子力の桁はずれたパワーが世界を変えていくだろうという予見もあった。これを、戦争のためではなく平和のために使うことで日本が貢献できれば、という単純な考えがなかったとは言えない。

 最初は東大や京大などの研究着手から始まる。中性子の存在を発見した湯川博士を輩出しただけの学問的素地はある。ただ、その成果は海のものとも山のものともわからず、山陰の人形峠などという所でウラン鉱をさがしたり、実験炉の設計などから始まったような記憶がある。

 だから効率的(実はもっとも非効率なのだが)などと考えるようになったのは、後半も最近に近い方である。当初は、ふんだんに供給された安い原油に到底太刀打ちできなかった。またエネルギー自給率を高めるというのも、オイルショックを受けた田中政権後にアクセルのかかった政策だ。

 福島事故の原因調査委員会の一員に加わっている吉岡斉九州大学副学長がその著書『原発と日本の未来』でいうように、「国家安全保障の基盤維持のために先進的な核技術・核産業を国内に保持するという方針」(国家安全保障のための原子力の公理)は、中曽根康弘(当時議員)が予算付けしてから、一貫して変わっていない。

 つまり、核武装をしない代わりの平和利用を口実とした技術保持が目的で、ウラン濃縮から原子炉、廃棄核燃料の再利用、処理技術まで一貫した核技術を手にすることだった。いわば、原発はそういった「国威発揚」の道具だったのである。

 しかし、原子力を国威発揚に使うのは、北朝鮮などだけでもう時代遅れになり、原子力に頼らない自然エネルギーなどの新技術が出だすにつれ、原発は斜陽視されようになった。そこに降ってわいたのが温暖化排出ガス削減である。日本の原子力村と民主党は、早速これに飛びついた。これを原子力ルネッサンスと呼ぶ。

 だが、福島事故はこれを無残に打ち砕いた。「国威発揚」も「国家安全保障のための原子力の公理」も福島第一原発と運命をともにせざるを得ない。このように、複雑な経緯をたどった原発であるが、「国威発揚」を残す手がひとつだけある。

 それは、持てる原子力の知識・技術・経験を世界の脱原発に生かし、核軍縮や拡散防止に国連・IAEAなどと協力し先頭に立つことである。それには、国際条約の変更も必要だが、日独伊3国同盟で国連に提案するのもよし、これから国威発揚に使おうなどと考えている国に、原発を輸出しようなど考えてはならないのだ。

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コメント

英米仏だけでなくアジアの中国やインドと、原子力発電の推進派の国は、何れも核武装国ですね。
対して独伊ベルギーなど脱原発は非核武装国。
矢張りこれは、関連がありそうです。

今度の原発事故で判ったことですが、原発とは単に『止める』だけでは駄目で止めてからでも10年程は『冷やし続けないと暴走する』し、放射性廃棄物10万年は安全に管理しないといけない。
しかも原発1基あたりヒロシマ原爆1000発分の放射性廃棄物が毎年毎年必ず出てくる。
フランスの国策会社のアレバですが今回の福島第一原発事故での大量の汚染水の処理で、トン当たり数十万円の経費がかかり商売繁盛大忙しとか。
人間万事塞翁が馬。
大気汚染で、カルフォルニア州の一番厳しい環境基準をクリアできた日本の技術陣の踏ん張りで、放射能汚染の分野での日本国の国威発揚を目指して欲しいですね。

投稿: 宗純 | 2011年6月15日 (水) 11時16分

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