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2011年5月 5日 (木)

ポスト・ビンラディン

 2か月とおかず世界に飛んだ大ニュース、東日本大震災とビンラディン殺害だ。全く違う角度の出来事だが、ここから世界が変わる、という予感がする。ビンラディン、たったひとりの死だが、ソ連崩壊にも匹敵する一時代の区切りになるかも知れない。

 日本を襲った地震と津波もさることなが、フクシマを襲った放射能の恐怖である。核の管理は、限りない大きな力に魅せられた「原子力体制」を支持する「人々」に委ねられている。その「人々」を信じることが、いかに愚かであったか、この「ポスト・フクシマ」の方は、また稿を改める。

 ビンラディンは、これまで生きているのか死んでいるのかわからなかった。アメリカはその中で彼を追って10年も戦い続けたのである。米軍がパキスタン軍施設に近い隠れ家を急襲し、死体を海に捨てたことになっているが、その真相は別として、存命していないことはほぼ確実になったと思う。

 この殺害をめぐって、さまざまな反応がでている。いくつかあげてみよう。まず、ビンラディンが神聖視され、報復テロが激化するだろう、というもの。そもそも、9.11の主導者がビンラディンであるとの確証のないまま、彼をヒーローに仕上げカリスマ化したのはアメリカで、すでに彼の育てたアルカイダは、同時多発テロを起こすような機動力がなく、各地の自称・アルカイダが主になっている。

 イエメン、シリア、イラク、ガザ地区などにアルカイダが送り込まれているというが、反米闘争と位置付けられる組織的な結束や行動があまり見られない。今後も貧困や差別に反発した散発的な自爆テロが後を絶たないだろうが、米軍(外国軍)撤退が進めば反米テロは自然解消するだろう。

 次に、アメリカで群衆が集まって勝利の歓呼の声をあげたとか、イスラム圏ではアメリカに対する抗議の集会も報じられている。思慮に欠けたこのような動きは別として、米軍の行動はパキスタンの主権侵害であるという指摘もある。塾頭は、これらのいずれも大勢に影響することなく、この事件で和平路線が促進されると見る。

 つまりこれは、綿密に組み立てられたアメリカの決定的な「出口作戦」なのである。この時期が選ばれたのは、エジプト、リビア、シリアといったイスラム有力国をはじめ、イエメン、レバノンその他の民衆蜂起が独裁体制をゆるがし、これまでのようなアメリカの干渉を止めて、中東から手をひくチャンスにしたい、ということではないか。

 もちろん、イスラエルに肩入れしてきたパレスチナ問題は残る。ここにも、新情勢が生まれた。これまで分裂していたパレスチナの強硬派ハマスと和平指向のファタハの和解統一である。さらにエジプト、シリアの政変を受け、穏健派イスラム原理主義といわれるムスリム同胞団の影響が強くなり、相対的にアルカイダが進出する余地が狭まれば、イスラエルはアメリカの威を頼りにするすべがなくなる。

 オバマ大統領がイラクからアフガンに転進をはじめてから「敵はタリバン」と言い続けてきた。タリバンは、たしかにビンラディン引き渡しを拒否した当時のアフガン政権の主体で、アフガン戦争により壊滅したた。しかし、現在確実に地方で勢力を回復しており、現カルザイ政権も治安回復には彼らの協力なしでは不可能になっている。

 また、パキスタンはインドとの対抗上、タリバンを育ててきた過去があり、アメリカの追討作戦に協力しきれない面があった。最近のアメリカの無人機によるパキスタン北西部の爆撃は、パキスタン人の反米感情に火をそそぐものでしかなかった。

 私は、今度の作戦がパキスタン政府と同軍部の暗黙の了解のもとで行われたと思っている。その証拠のひとつは、パキスタンのタリバン運動(TTP)のスポークスはロイターに電話したとされる「パキスタン指導者やザルダリ大統領、同国軍がわれわれの第1の標的となる。米国人は第2の標的だ」という声明にも現れている。

 ビンラディン殺害作戦で損をする国はどこにもないのである。最も得をするのがアメリカでありオバマなのだ。この国は、勝ったことにしないと撤兵しにくい。市民が戦勝気分にわくのも計算済みだ。際限のない帰還兵士の傷病対策、財政危機を救う軍事費低減はもとより、オバマの支持回復は、これを措いてほかにない。  

 そもそも、国家を敵にするのでなければ、いわゆる「抑止力」などというものは意味をなさない。アメリカは今後どこを敵とするのだろうか。さきにも言ったが、ビンラディンを敵にするのは相当無理があったのだ。だからそれをかばったアフガン国家、→その母体であるタリバン、と迷走を続けなければならなかった。

 アフガンの治安維持に問題ありとする撤兵反対派は依然として大きいだろう。しかし外国兵がいなくなって生じる治安悪化は一時的なもので、居座ることの方が勝るとはいえない。また、一方ではアメリカ不在の間隙を縫って資源獲得をねらう覇権主義的な動き、たとえば中国などを警戒する、などの論もでてくるだろう。

 しかしアメリカを反面教師とし、国際社会から孤立するような行動はとれない。さらに、国内問題を抜きにしてアメリカにとって代わろうという野心を持つ国は当分でてこない、と見た方が順当だ。こうして見ると、世界は古典的な戦争を過去のものとし、新しい平和構築・安全保障の枠組み作りに進みだす。これが、楽観論者・塾頭の考えである。

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