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2011年2月14日 (月)

エジプト革命の行方

 エジプトの民衆蜂起によるムバラク大統領追放を取り上げるのは、2度目である。その間、日本のニュースは、大相撲・噴火・土壇場菅の3点セット全盛で、世界中の注目を集めたエジプトの政変など全くよそごと扱いだった。

 ようやく、街頭で喜ぶ民衆の映像などがTVなどに大写しされるようになったが、報道はアメリカや西欧各国の視点に立ったものが多く、アラブ人の真意・背景を伝えるものは少ない。蜂起の原因として、長期政権・独裁反対、失業者増大・貧富の格差、民主化・自由化要求などを指摘するが、反欧米・ユダヤや宗教的な側面は、なるべく小さく見せようとしている。

 塾頭は、どうもそれは違うのではないかと思う。今回の蜂起の連鎖がイスラム圏に限られ、他の独裁国に波及していないことや、在日エジプト人、彼らは富裕層で権力に近いはずだが、涙を流さんばかりに喜んでいる姿を見て感じる。

 またアメリカは、発生以後オバマとクリントンの発言が食い違うなどの狼狽ぶりから一転、この決着を見て、「安定した体制づくりに資金援助は惜しまない」などと、性懲りなく頼まれもしない飴玉をぶら下げて見せる、いつもの姿にもどっている。

 やはり、世界の関心は対イスラエル問題なのだ。鬱積した憤懣の大半は、イスラム教徒・ムスリムへの偏見と差別意識にあったと思う。アメリカは、最大の産油国・サウジアラビアへの波及を警戒しているというが、この国の若者の失業が多いといっても、彼らは長時間拘束されたり単純労働を嫌っているだけで別に貧しいわけではない。

 また、厳格なイスラム国家で、イスラム擁護者を自負する国王は、神の意志で生まれてきた一般のイスラム教市民と全く同等であり、決められた日に決められた方法で、だれでも陳情や意見が言える制度もあるという。

 もちろん貧富の差はある。しかし、持てる者は持たざる者に分け与える義務があり、これも厳格な戒律だ。彼らにとって、欧米流民主主義以上に公平・公正が保たれていると感ずる限り、他の価値観を押し付けられるのは迷惑なのだ。

 サウジは、エジプトや旧イラクのように世俗専制大統領がいて住民の自由を弾圧しているわけではない。アメリカが心配するのは、王制が転覆することでなく、長年続いてきた親米がこのところややゆらいでいるところに、エジプト革命が起き、イスラム圏有力二本柱が崩れ去ることだろう。

 前回、エジプトに「実質的な野党第一党・穏健派イスラム原理主義・ムスリム同胞団」という、長ったらしい形容詞で報道される勢力のあることを書いた。これにも適切な解説がなされず、欧米がムバラク政権のあと、この勢力に支配させることを恐れているということで、「やはり過激派なんだろう」と思い込まされている。

 まず「原理主義」、この言葉は、キリスト教プロテスタント福音派など教典に忠実な解釈をする考えを言ったもので、イスラム原理主義というのは、それを転用した最近の造語である。偶像崇拝を禁止するイスラム教信仰の最大の根拠はコーランだけである。極言すれば、イスラム信者は全員原理主義だといっていいかも知れない。

 塾頭も邦訳のコーランを持っているが、これはコーランではない。コーランは、国籍がどこであろうとアラビア語に限られ、アラビア語による解釈しかない。「サラムアレーコン」という、平和をたたえる挨拶の言葉は、サウジであろうがインドネシアであろうが、ムスリム共通のアラビア語である。

 唯一の神、アッラーのもとでは、国境も国家も意味をなさない。もともとは、砂漠の牧草地を求めて移動し続ける遊牧民の発想ではないかと思わせるものがある。それが「同胞団」という名称になっており、ムスリム同士助け合おうという精神土壌を生む。

 ムスリム同胞団は必ずしも一体ではないが、パレスチナのガザ地区を「ハマス」として支配下におき、レバノンでも活動している。いずれも医療・教育・福祉関係で奉仕活動をおこない、住民の高い支持を受けている。そこが、自爆テロとか、アルカイダのよう人の殺傷を伴う抵抗組織とは違うので「穏健派」と呼ばれるのだろうか。しかし、もともとアラブ人が住んでいた地域に侵入し、武力でユダヤ国家を建設、イスラムの排撃を続けるのを見殺しにするわけにいかない。

 ムバラクは、アメリカの援助を受け、イスラエルと平和条約を結び、ガザ地区との国境封鎖、経済封鎖などでパレスチナ側に圧力を加える協力をした。国境を越えた連帯意識を持つ同胞団が過激にうつるのは、ある意味で当然かも知れない。

 エジプトの民主的選挙で同胞団議員が多数選出されれば、同じ手は使えない。直ちに平和条約を破棄して第5次中東戦争が始まるようなことはないだろうが、イスラエルはムスリム包囲網の中で完全孤立し、強引なパレスチナ地域入植政策の放棄を考慮せざるを得なくなるだろう。

 最後に「事実上最大の野党」であるが、同胞団が国政選挙に候補者を立てれば、過半数はともかく、最大の有力政党になるという意味だ。これまでの選挙でもその傾向は明らかだったが、同胞団から候補者を立てられないよう、立候補資格を厳重に制約するなどの方法で、政治から締め出すことに成功していた。

 しかし今後は、大統領独裁とともに法律が改正され、そうはいかなくなる。軍部の特権維持がどう動くか微妙だが、ムバラク復活の愚を犯すようなことはないだろう。エジプト人は、結束はないとはいえやはりアラブ連盟の盟主としての地位を維持したいはずだ。また、古代文明の発祥地としてのプライドとその力を持つ有力な国家であることには違いない。

 前回も書いたが、アメリカはイスラエル支持の世界戦略を、変えるのか変えないのかの岐路に立っている。それにより、「テロとの戦い」の行方が影響を受けざるをないという、注目すべき変化が起きつつあるのだ。日本のコップの中の嵐のような政局とはわけが違う。注目し続けよう。

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