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2011年2月22日 (火)

「たて」と「やり」 1

 日本各地に散在する米軍基地、面積にするとその約75%が沖縄にあります。日本になぜそんな米軍基地が必要なのか、改めて考えてみたいと思います。日本は、日米同盟(日米安保条約)があって、米軍と自衛隊が共同して日本の安全を守ることになっています。

 そのために、国内に米軍の基地もあるのですが、日本は、憲法第9条があるため、自衛隊が海外に攻めていくことはできません。それでは、戦争になった場合に弱いので、自衛隊は「たて」の役割で守る専門、米軍は憲法の制約にとらわれないので、相手を攻撃する「やり」の役目をする、という解説を最近よく耳にします。

 なんとなく、わかったような気分にさせられていますが、これは日本国憲法を無視した全く危険な考え方なのです。自衛隊が「たて」にしては物騒な新鋭戦闘機や戦車を持っているので、その存在自体すでに憲法違反だという意見があります。その議論は、ここでは一応棚上げにしておきます。

 まず、日本国憲法につていいくつか考えてみましょう。この憲法はGHQ(総司令官・マッカーサー)から押し付けられたもの――その通りです。GHQが日本を占領するとすぐ新憲法制定の必要性を考えました。最初は日本の中からいろんな案が出てくることを期待していました。

 10月には、元首相の近衛氏にこのことを告げています。しかし、近衛は戦犯の容疑がかかり自殺したので、案づくりは政府の手にわたりました。もともと、明治憲法を大幅に変えたくなかった戦前からの官僚と政治家が中心になって作った案が、翌年2月1日に毎日新聞のスクープで明らかになりました。

 この案を見て焦ったのはGHQです。すでに、GHQには、民間で非公式に作られた案がいくつか来ていたのです。それに比べてあまりにも明治憲法に近く、そのような案ではアメリカ国内やソ連などにある「天皇を裁判にかけろ」という意見をおさえることが困難になると見ていました。

 マッカーサーは、占領を日本国民の支持をえながら成功させるためには、天皇を利用することが大切なことを知っており、同時に民主主義を徹底して根付かせることが第一と考えていたので、政府がそれに従わないようなら、GHQが考える案を公表してどっちがいいか日本国民の意見をきいてもいい、とまで言ったようです。

 それから、政府とGHQの間で激しい意見のやりとりがあるのですが、強硬にGHQが押し切ります。なお、第9条の戦争放棄は、当時の幣原首相のアイディアが採用されたものという説もあります。戦争放棄をうたったパリ不戦条約は、幣原氏が戦前2度目の外務大臣になった一週間前(1929.6.2)に日本が批准したもので、戦後の日本を担う責任を負うことになった氏にとっては、印象深いものがあると思います。

 また、憲法が翻訳調でGHQ案を丸写ししたという主張をする人もいますが、これは、法文作成の実務にあたった法制局第一部長佐藤達夫さんに失礼です。むしろ、翻訳調にならなにいよう、かつ、過去の漢文調から、口語体に近いものにするよう職を賭してGHQとわたりあっています。漢文調が残っているので、文法的には似たところのある漢文調と英文調が誤解されたのかも知れません。

 ともあれ、日本の議会ではいくつかの修正を含め、共産党をのぞく全党の賛成で憲法が成立しました。重ねて言いますが、憲法は占領軍の強い干渉があって生まれたもので、マッカーサーの仕事がうまくゆくことに当面の目的があったわけです。また日本国民も、押しつけを歯を食いしばって我慢したという事実はなく、これをすなおに喜んで受けいれました。

 講和条約が締結され、占領が解かれた後すぐ改正してもよかったわけですが、日本の保守政治家も、そうはしませんでした。朝鮮戦争が起き、アメリカはむしろ日本に再軍備を求めます。しかし、吉田首相は、憲法の存在と革新陣営の抵抗を理由にことわり続け、ようやく自衛隊の前身・警察予備隊を作るにとどめました。

 以来、日本は軍備より経済発展の道を選び、世界でまれに見る成長をとげたのです。講和直後は、冷戦がいつ熱戦になってもおかしくない状況となり、日本にいた占領軍が一挙に撤退すると不安がますため、日米安保条約(旧)を結び米軍が一部残ることになりました。さきに述べた警察予備隊も、国内治安に責任を持つ意味もあります。

 1960年には岸首相が、「より独立国にふさわしいものにするため」と称して、暫定的で期限のない条約を、10年契約以後毎年自動更新という(現)安保条約に変えました。それから50年、世界は大きく変わっているのに、安保条約は1度も変えていません。

 その変化をたどってみると、次のようなことがあります。

①冷戦激化のもと、日本は防衛力も経済力も貧弱で発展の途上にあった。
②アメリカは、日本を共産主義の防波堤とすることに意義を認めた。
③冷戦終結、ソ連解体、EUの発展。
④中東戦争、ユーゴ解体などの地域紛争の時代に。
⑤日本は世界第2の経済大国に成長。軍事費も米中に次ぐ世界屈指の額に。
⑥米軍の世界戦略変更。
⑦ブッシュ政権下のアメリカ一国主義とテロとの戦い。
⑧地域としての不安が西欧から太平洋へ。

 日米安保が締結されたのは①②の時期で、当然その時代を反映したものになっています。その骨子は、次のようなものです。

1.国連憲章を尊重し、その精神の下で行動する。
2.経済協力をする。
3.それぞれ武力攻撃への抵抗能力を高める。
4.日本国の安全又は極東の平和・安全に脅威が生じた場合は協議する。
5.日本国の施政下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危険に対処する。
6.アメリカは、陸・海・空軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。

 ポイントは5.で、条約第5条の部分をそのまま引用して書きました。ここでは、相互の憲法に規制されることが明記されています。そのほか、3.の日本又は極東の平和・安全に脅威を生じた場合の事前協議や、6.の米軍基地設置への日本の許可(権利ではない)が目を引きます。

 これを見てお気づきになりませんか。反共の防波堤をつとめる日本に、アメリカは、今よりずっと遠慮がちの態度だったと思えるのです。それが、上記の変化の中でいつの間にか、我が物顔で基地を使い、基地運営に思いやり予算をつけさせ、自衛隊が海外で血を流すことや日本の憲法を変えることまで、陰に陽に要求するようになりました。

 安保条約には、「たて」と「やり」などのことは、どこにも書いてありません。それどころか、米軍が軍事行動を起こすための範囲が日本と極東に限られ、脅威が生じた場合に事前協議することも定められています。つまり、米軍が日本の基地を利用して行動を起こすとき、「日本国憲法の趣旨に反する」といって、反対することができるのです。

 米軍は沖縄からベトナムやイラクに軍を出動させていますが、事前協議など一度も日本から要求したことがありません。また、条約はそのままで、交換公文、合意文書、ガイドラインなど、中には秘密文書まで含め、国会にかけない約束事をして「日米同盟」の中味を変えてきました。

 それにより、「やり」は使えないはずの憲法が、いつのまにか無視されたままどんどん同盟を「深化」させています。防衛予算も経済発展にともない、世界で5本の指で数えられるほど膨らみました現在改憲案を作り直している自民党はもとより、。「たて」も「やり」もいっしょくたにして考える菅政権もその点では、まったく歯止めになりません。

 安全保障の要に「抑止力」つまり、「やりも持っているぞ」というおどしを重視する政策は、どうしても変更させなくてはなりません。「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」(憲法第9条)の今日的意義を、あらためて再確認することが大事です。

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コメント

そうなんですよね。沖縄の海兵隊に抑止力があるとは、
武力による威嚇力(武力の行使の力を見せ付けて脅かす)があることになり、それなら憲法違反。
憲法違反の存在に、税金を注ぎ込むのは間違いなく違法行為です、

投稿: 宗純 | 2011年2月22日 (火) 14時22分

コメントありがとうございました。

力士が相撲協会に対し、「携帯提出は通信の秘密侵害の憲法違反だから断る」とか、沖縄の基地新設も憲法違反を目的にするものなので断る」とといった、国民の憲法意識が今ほど大切なことはないと思います。

自民党政治で、現憲法改正をかかけることで、かつての権威が軽んじられ、官僚、教育、マスメディアそろってこういった取り上げ方をしなくなった弊害は大きいと思います。

人権無視の検察不祥事もそれにつきると思います。

投稿: ましま | 2011年2月22日 (火) 20時18分

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