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2011年1月11日 (火)

対テロ戦争に地殻変動

 9.11から今年で10年になる。当初、敵はテロリストの首魁・ウサマ・ビンラディンと実行組織・アルカイダ、それをかくまうタリバンだった。ブッシュは、それに協力しかねないとして、「ならず者国家」を指定、イラクのように戦争で政権を倒したり、経済制裁を科したりした。

 ところが最近は、なんとなく様子が変わってきている。国家でも宗教でもなかった相手だったが、どうやら「敵はイスラム教徒」という風潮が強くなってきた。以前から『文明の衝突』などと、遠回しの言い方はあったが、宗教や民族を名指しすることはタブーとされ、慎重に避けられてきた。

 アメリカでは、「ホームグロウン・テロ」、つまりアメリカ国籍のアラブ出身者やイスラム教に改宗した若者が、テロ計画などの容疑で検挙された人数の約4割に達するという報道(毎日新聞)があった。捕えてみればわが子なりである。それは貧困などの動機もあるが、イスラム教徒であるという理由だけで、日頃過度な監視や差別を受けていることに起因することが多かったようだ。

 アメリカの官憲がこのような手法をとるのが常態化し、モスク建設を妨害し、「女性を軽蔑する野郎どもは一人残さず打ち殺す」といって、機銃掃射の引き金を引く米軍兵士の存在が不思議ではなくなった時代になったのだ。ヨーロッパでも右傾化が進み、人種差別への抵抗感が薄れつつある。

 テロリストの方にも変化がある。厳重な警戒のせいでもあろうが、アメリカ、イスラエルでのテロ行為より、中東アラブ各国やパキスタン周辺国での自爆テロの方が目立つようになってきた。その中にはキリスト教(コプト教)教会を襲って多数の死傷者を出すなどの事件も起きている。

 欧米がイスラム敵視に傾けば、「目には目を」で当然起きえる現象である。当塾では去年「宗教と戦争」という記事をエントリーした。その中で、ユダヤ教とイスラム教は、教義や慣習の点でキリスト教より親和性があり、長い歴史の中では双方ともにキリスト教から排撃された経験が長いことを書いた。
 
 パレスチナでの抗争は、半世紀を超える。他国の干渉さえなければ、そろそろ戦い疲れて和解の道を歩み始めてもいい頃だ。核をめぐるイラン対イスラエルの確執も一時ほどではない。アフガニスタンも、タリバン復権が現実味を増している。対立の構図がユダヤ対イスラムより、キリスト対イスラムに変わっている。

 パレスチナ問題が緩和の方向に向かえば、イスラム過激派もテロの口実の大半を失う。同時にアメリカやNATOなども早くアフガン撤兵を行動に移すことだ。こうして、宗教戦争への発展を阻止する政策を取らない限り、テロとの戦いは永久に続くことになる。通常戦力を誇示するだけでは、人類の不幸を取り除けない、ということがすでに常識化し始めている。

 混乱と機能不全に陥っている国内政治をよそに、世界は気づかれないようなスピードで変わろうとしている。せめて、政争の外にあるような感のある岡田外相に、かじ取りを誤らないよう願うしか手がなさそうだ。

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日本の暴力装置(自衛隊)の頭脳とは果たして何処にあるのだろうか。 北澤防衛大臣でも防衛省内局(職業軍人ではない私服のキャリア官僚)でも無いらしい事だけは誰にでも判る。 ましてや内閣総理大臣が自衛隊の最高指揮官であることを知らなかった管直人首相では絶対に無いことは明らかである。 非常識非科学反知性の日本の恥部、お笑い田母神俊雄が校長をしていた統合幕僚学校(自衛隊幹部育成学校)でない事を願いたい。 それなら他には防衛大学校ぐらいしか思いつかないが、この校長の五百旗頭真の1月9日付け毎日新聞コラム『時... [続きを読む]

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