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2010年12月17日 (金)

斉明天皇物語 5

 たから姫を葬った墓すなわち斉明陵は、宮内庁が指定する車木(くるまき)ケンノウ古墳ではなく、奈良県明日香村の牽牛塚古墳らしいと報道されたのは9月10日である。それについては、「斉明天皇陵」で記述した。その後12月9日にその古墳に接するように新しい古墳が発見された。

 これは、『書紀』に記載のある大田皇女の墓ではないかということで、考古学会ではこれをもって確定的になったと評価している。しかし、宮内庁は依然として指定の変更はしないしいう、かたくなな態度を変えていない。明治時代には数件の指定変更があったというから、その後の天皇絶対視政策が庁内に残っているからではないか。

 宮内庁が根拠のひとつとする『書紀』の本文を以下に掲げるが、その前にあるたから姫葬送関連の記事を紹介しておこう。

 冬十月の癸亥の朔己巳に、天皇の喪、帰りて海に就く。是に、皇太子、一所に泊てて、天皇を哀慕ひたてまつりたまふ。乃ち口号して曰はく、

 君が目の 恋しきからに 泊てて居て
 かくや恋ひむも 君が目を欲り

十一月の壬辰の朔戊戌に、天皇の喪を以て、飛鳥の川原に殯(もがり)す。これよ発哀(みねたてまつ)ること九日に至る。

 朝鮮遠征軍を渡海させてすぐのことである。戦争より葬式といった感じだ。それにしても中大兄の母に対する敬慕・哀惜の歌は、たから姫の家族中心主義を余すことなく伝えているようだ。

 それから6年あとの春2月の条に埋葬の記事が出てくる。

 天豊財重日足姫天皇と間人皇女とを小市岡上陵に合わせ葬せり。是の日に、皇孫大田皇女を、陵の前の墓に葬す。高麗・百済・新羅、皆御路に哀奉る。皇太子、群臣に謂りて曰はく、「我、皇太后天皇の勅したまへる所を奉りしより、万民を憂へ恤(めぐ)む故に、石槨(いわき)の役を起こさしめず。冀ふ所は、永代に以て鏡(あきらかなる)誡めとせよ。

  これで見るように、たから姫と娘の合葬を示す2列並んだ石室、この陵のすぐ前にくっつくように設けられた新発見のやや小さい墓、これが中大兄の娘、つまりたから姫の孫娘の墓のようで、上記の記述に合致する。

 宮内庁が否定する根拠が、後半の石槨の役を免除した、という点だ。しかし「石槨を作らなかった」とは書いてない。たしかに、朝鮮遠征で国費(国民に課す徭役)を使い果たし、中大兄の即位、母、妹などの埋葬も延期していた。ようやく目途ついてきたのがこの頃だ。

 さらに、新たに使える労働力があった。それは、戦争を逃れて朝鮮半島から大挙押し寄せた難民や移住者である。その翌月、都を飛鳥から近江の大津に移している。これも多くの移住者をこの地の開墾や建設作業に当たらせたことが大きい。

 薄葬令は、この時始まったことではない。推古の頃から前方後円墳はすたれ、巨大天皇陵は小型化した。そのため、豪族などの円墳や角墳と区別がつかなくなり、8角形墳墓は天皇陵に限るという権威づけが行われたのではないかというのが定説だ。 

 大田皇女が出てきたので触れておく。中大兄の後継候補で、たから姫が溺愛した建王が夭折し、大いに嘆いたという話は前に書いた。ほかに妹が2人いる。大田皇女と鸕(う)野皇女だ。 この2人は揃って叔父・大海人の妻となった。

 大田皇女は、たから姫の出陣に同行しその間2人の子をなした。鸕野皇女は天武天皇となった夫の後を継いで、持統天皇となる。祖母斉明に次ぐ女帝だ。間人皇女も叔父に嫁いだが、たから姫の「家族主義」がここまで及んだのであろうか。今では考えられない近親結婚の連続である。

 一時、これを理由のひとつとして、「実は天武は天智の兄弟ではなく、朝鮮王族の出」だとか、「天智と父を異にする年上の兄だ」という「とんでも」学説がはやっていたが、最近また復活しているようだ。

 私は、これを一笑に付している。「ソ連の諜報機関の1資料にこうある」とか「正史に書いてないから真相である証拠」などという論法は、著名な某女性論者でもよく使う手であるが、歴史の著述者は、誰にでもすぐばれるような嘘は絶対に書かない。これは私の経験則である。

 『書紀』の完成は720年である。天武即位が673年、その年に18歳だった人は完成時65歳でまだ大勢存命しているはずだ。完成後秘密文書にしておくならともかく、早速普及のための勉強会なども開いている。特に家記などの資料提供した豪族関係者などは、関心をもって読んだに違いない。(完)

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