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2010年12月13日 (月)

斉明天皇物語 1

 斉明天皇陵ではないか、という発掘調査の結果についての報道が続き、「斉明天皇陵」と題したエントリーに多くのエントリーを頂いている。この天皇は、日本史上でもまれに見るユニークな天皇である。

 このブログでは何人かの天皇を、カテゴリ「歴史」でとりあげたが、この天皇は、天智天皇と天武天皇の母親ということで触れることはあっても、ひととなりを通して描いたことはなかった。

 ユニークな点というのは、女帝であり激変の時代を2度即位(重祚)しているからである。最初が皇極天皇で2度目が斉明天皇というおくり名(あとからつけられた「漢風諡号」)で、同一人物をさすのには適当でない。

 和風ではいずれも「あめとよたからいかしひたらしひめのすめらみこと(天豊財重日足姫天皇)」という。他の天皇にもよく見られる美称を除いていくと「たからいかし」が残り、それが本名だということになろう。そこで本稿は、歴史記述風ではなく、主語を「たから姫」として物語風に書いてみたい。

 たから姫は629年に37歳で舒明天皇の皇后となった。相当晩婚である。実は再婚で、前の夫を高向王といい、漢皇子(あやのみこ)という子供もいる。高向王は用明天皇の孫とされているが、高向や漢という命名は、朝鮮半島からの渡来者と密接な関係があることをうかがわせている。

 それから、舒明天皇との間に3子をもうけた。中大兄皇子、間人皇女、大海人皇子でいずれも後の天皇、皇后になるが、これはのちに詳述しよう。中大兄が16歳になった年、たから姫は舒明と死別する。中大兄は葬儀で立派に弔辞を読むことができた。

 中大兄は、後を継ぐ位置にあるがまだ若く、別に年上で蘇我馬子の娘との間にできた古人皇子など後継者選定に困難があったためか、たから姫が天皇の位につく。いわゆる皇極天皇である。

 しかし、3年とわずかで思わぬ事件がおき、たから姫の弟・幸徳天皇と政権交代をするはめとなる。たから姫の目前でわが子・中大兄が蘇我入鹿を惨殺する、かの有名な乙巳の変の勃発である。

 この事件は、教科書に首がすっ飛ぶ絵などがあって、ことの次第は先刻ご存知ということにして、皇位継承の周辺だけを観察する。最初におことわりしておくが、この前後から『日本書紀』の史料に『藤氏家伝』が多く採用され、藤原氏顕彰で史実が曲げられているという説が多いが、証拠のないとんでも仮説より、『書紀』の重視でいきたい。

 まず、事件現場にいて事件を目撃した中大兄の異母兄・古人大兄の証言である。

 見て私の宮に走り入りて、人に謂ひて曰はく、「韓人、鞍作臣を殺しつ。韓政(からつひとのまつりごと)に因りて誅(つみ)せらるるを謂ふ。吾が心痛し」といふ。(『日本書紀』岩波文庫より、以下同じ。下線は本文標注。鞍作臣=蘇我入鹿)

 犯人と背景を突く発言としてよく引用される部分である。韓人は直接下手人をさすのではなく、漢政と共に、渡来人・帰化人の勢力争いが入鹿を殺した、という原因をさすものと解釈するのが穏当であろう。

 前に書いたように、たから姫一家は、帰化人と縁の深い地区の出身と見られ、蘇我氏もまた韓人の私兵軍団を持つなど、代々帰化人の元締め役のような氏族である。したがって古人自身も韓人に関係なしとは言えない。それらの内部に起きた勢力争いと見たのであろうか。

 しからば、たから姫はこの陰謀を事前に知っていただろうか。

 天皇大きに驚きて、中大兄に詔して曰はく、「作(す)る所、何事有りつるや」とのたまふ。

 その直後から蘇我本宗家殲滅戦に入り、入鹿の父蝦夷の自殺で、クーデターはその翌日に完了した。あくる日、たから姫は中大兄に譲位したいと申し出る。しかし、中大兄は中臣鎌子(後の藤原鎌足)と相談した結果、これを断る。

 目前の惨劇には、さぞかし動転しただろう。2日たっても、気持ちの整理がつかない。深い考えもなく18歳になったわが子にすべてを託したいと思ったのだろう。あらかじめこういうシナリオで芝居を打ったとはとても考えられないのだ。

 結局鎌子は、長幼の序を説き、身の危険を察知している古人を辞退させ、中大兄の叔父、たから姫の弟にあたる孝徳を担ぎ出し、皇后にはたから姫の娘、間人をあてた。これにより、かねて念願の政治改革・大化の改新に乗り出すのである。天皇の地位の全面移譲、たから姫の生前譲位という行為は、史上初のことになる。

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