« 日中、賢いのはどっち | トップページ | 司馬遼太郎と北方領土 »

2010年11月 1日 (月)

軽すぎる戦争観

 もう旧聞に属するが、3年ほど前赤木智弘さんというフリーターの方が、「希望は、戦争」という論文を書いたということに驚いた。まあひとつの社会現象として納得はしたのだが、若者の戦争に対する認識の軽さが気になっていた。

 たまたま資料整理をしていたところ金光翔著「<佐藤優現象>批判」(『インバクション』第160号・2007年11月刊掲載)というスクラップがあり、精読した記憶がないので目を通してみた。筆者は在日韓国人3世で、岩波書店で雑誌『世界』の編集をしていた人らしい。

 その中に、こういうくだりがあった。文中の軽いのりで、まともにとる必要はないのかも知れないが、週刊誌や娯楽雑誌ではない。まともにとる人がいないとは断言できないし、場合によれば有害だ。

 そもそも、改憲か護憲(反改憲)か、という問いは、以下の問いに置きなおした方がよい。日本国家による、北朝鮮への武力行使を認めるかどうか、という問いだ。

 簡単な話である。仮に日本が北朝鮮と戦争した際、敗戦国となることはありえない。現代の戦争は、湾岸戦争にせよイラク戦争にせよ、アメリカ単独もしくはアメリカを中心とした多国籍軍対小国という、ゾウがアリを踏むような戦争になるのであって、ゾウの側の戦争当事国本国が敗北することは、100%ありえないからである。

 大衆は、マスコミの人間ほど馬鹿ではないのだから、そのことは直感的に分かっている。したがって、対北朝鮮攻撃論が「国民的」世論となってしまえば、護憲派に勝ち目は万に一つもない。

 全体の論旨は、佐藤優を北朝鮮攻撃肯定派と見なし、彼をのような「リアリスト」を取り込むことで、護憲勢力の幅を右派の一部まで広げられる、という雑誌編集方針は、「妄想の最たるもの」だとい言いたいことのようだ。

 塾頭が懸念したのは、たとえ仮の話である話としても、あまりにも戦争を軽薄単純に考えていることである。まず、戦争を自分の事として考えたことがなさそうなことと、戦争は簡単に起きるし、また終わらせるゲームのようなものとしか認識がないように思えるからである。

 ここでは、全体の論旨を問題にしない。戦争に対する無知が、これから先、市民をあらぬ方向に導きかねない、という歴史上の教訓が一切顧慮されていないことだ。戦争を言うときは、抽象論や観念論を避けるようにしてもらいたいものだ。

 まず「戦争の性格」である。今は国対国の戦争や、飛行機、軍艦など重装備同士の戦争はほとんどなくなった。金氏の見方では、イラク戦争やアフガン戦争にアメリカや多国籍軍が勝ったと思っている。たしかにハイテをク兵器を使った電撃作戦で旬日の間に首都制圧を果たした。しかしそれは、一作戦上の戦闘に勝っただけで、戦争には負けている。

 何千人もの兵士が犠牲になり、何年かけてもビンラディンが見つからず、治安回復のないまま撤兵せざるを得ない。どうして勝ったと言えようか。これが、冷戦以後の戦争なのである。覇権主義から抜け切れない軍事大国は、まだその愚かさかを後生大事に持ち続けている。

 北朝鮮や中国との戦争を考えてみよう。石原都知事が尖閣諸島問題などに関連して、日本は核を持たなければならない、などと妄言をはいた。それに対して、日本は核を持っても中国には勝てないと前のブログに書いておいた。

 核戦争では、発射基地設定や目標地点の集約で、奥深く国土の広い方が圧倒的に有利になる。これは幼児にもわかる理屈だ。石原さん、やはり頭をさげてアメリカの核の傘をお願いに行きますか?。次に北朝鮮に行こう。

 これも、戦えば日本に勝ち目はない。北の常備軍は精鋭の100万人だ。日本は14万人、アメリカを入れても16万人、量だけでなく質も、兵の忠誠度や贅沢を言わない点で相手の方が上だろう。なぜそれを言うかというと、北と戦って勝つためには相手国に行って国土を完全制圧しなければならないからだ。

 山岳地帯にはすでに軍事トンネルが多く準備できている。ハイテク機器を使って爆弾や銃器をどれほど打ち込んでも音を上げないことは、ベトナムや中東ですでに体験済みである。韓国で、天安艦沈没事件のあと、地方選があった。事件の北関与の発表は、与党を有利にするための「北風」作戦だ、という風説があったが北風は吹かなかった。

  最近の『朝鮮日報』を見ると、大衆の中に「北と戦争をすると韓国人は死に直面する」という恐怖感が働いたのではないか、と分析している。韓国の兵力は56万で、北の半分強だが、徴兵制度もあり実戦経験も自衛隊と違って豊富にある。

 中距離弾道ミサイル(ノドン)も相手が上だ。200発あるといわれるが、日本は地対空など防空が主、他国攻撃用はない。北には迎撃用ミサイルPAC-3などで守るしかない。もっとも、北のは命中率が低く、燃料もそうないだろうからそれで日本が滅びることはない。

 やっぱり、日本に上陸する能力なければ勝てないから、自衛隊が領土の制海権・制空権を握ってさえいれば大丈夫だ。このように、ゾウとアリの比喩が滑稽なことはすぐわかるだろう。さらに付け加えると、多国籍軍というのは国連決議がなければ作れない。北との戦争であれば拒否権のある中国が賛成するわけがなく、日米連合軍だ。

 さて、韓国はどっちにつくだろう。中立であればまだ良し。北につく可能性の方がより高いのではなかろうか。また、かつて朝鮮で多くの戦死者を出したアメリカが、日本に代わって主力になって戦い助けてくれるわけがない。 

 右とか左とか、護憲とか改憲などと、昔に出された宿題を、特に今の若い人がこねくり回す時代ではない。ゼロから考え直すべきだ。反戦塾だから戦争ごっこは嫌いだが、もっと戦争を現実的に見て、時代にそぐわない大国意識や軍事優先国家のお先棒をかついだり、そばづえを食らったりしないようにしなければならない。

 結論を言おう。日本は攻めに行ったら負けなのだ。しっかり守る分には、島国ということもあって相応の力を持っている。ミサイル攻撃があれば、打ちもらしもあって被害が出る。しかし一番強いのは、日米同盟ではない。外国へ攻めていかない、という平和憲法をより強化し、相手が攻め込む理由をなくすることだ。

|

« 日中、賢いのはどっち | トップページ | 司馬遼太郎と北方領土 »

憲法」カテゴリの記事

コメント

軽すぎる戦争観ってのは、自分のこと?
でしょうね。

>外国へ攻めていかない、という平和憲法をより強化し、相手が攻め込む理由をなくすることだ。

平和憲法が謳っているのは、「攻めていかない」だけではなく戦力の不保持もだけど、それについてはOK?
それに平和憲法を強化しようが、相手が攻め込む理由が無くなることはないでしょうよ。

投稿: shinesayoku | 2010年11月 2日 (火) 05時38分

コメントありがとうございました。

私は改憲反対論者でも自衛隊縮小廃止論者でもありません(自民党のような゛新憲法制定案゛は反対)。しかし、あなたのような疑義を生じることもあるので条文を整理補強することが「強化」の意味です。

共産・社民がそのような改正案を示せないことが、護憲陣営の弱みだと思います。

投稿: ましま | 2010年11月 2日 (火) 08時52分

ましまさん

よくわかりました。
でも、平和憲法を整備しようが補強しようが、相手が攻め入る理由がなくなることは無いでしょう。
だったら最初から、9条なんか、いや、現憲法を破棄して、新たに憲法を作り、相手が攻め入ってこられないほどの軍備を補強した方が良いのでは?

投稿: shinesayoku | 2010年11月 3日 (水) 01時19分

 今の憲法は、押しつけというけど、手続き的には明治憲法の改正となっています。一度見比べてみてください。第一章天皇から始まり、章立てなどそっくりそのままです。

 その点では、自民党案が「新憲法」とうたっていますが同様で、革命でもなければ、すっかりいれ変わるということはありません。

 次に9条があっても、日米安保で、日本の基地から米軍が戦争に出動する場合、事実上断れません。また、集団的自衛権容認など、自衛隊が海外出動する可能性(解釈改憲)を進めようとしています。したがって外国からも9条は信用されていません。

 世界に向かって改めて、他国に攻め入らないことを約束すれば、他国の方から犠牲覚悟で攻めてくることはないでしょう。もし、過去にイラクがクウェートに攻め込んだようなことをすれば世界が許しません。

 それでも、過激分子の独走など不測の事態がないとは言えませんね。だから相応の専守防衛軍はあってもいいと思います。

 なお、自衛隊そのものを憲法に書き込むかどうか、私は特に必要ないと思います。国民のために命がけで働くのは、警察・消防・海上保安庁みな同じです。

 私の改憲案や考え方は、お暇なときに右側のカテゴリ「INDEX」から、シリーズなどにリンクして見ていただけば幸いです。

投稿: ましま | 2010年11月 3日 (水) 07時03分

反戦塾様は専守防衛が本土決戦に等しいことを御存じないのでしょうか(「リアリズムと防衛を学ぶ」参照)。軍事について不確かな知識しかお持ちでないようにお見受けします。

投稿: はてな | 2010年11月 4日 (木) 02時17分

「専守防衛」がお気に召さないようですが、本稿は「本土決戦」を否定していません。

>日本に上陸する能力なければ勝てないから、自衛隊が領土の制海権・制空権を握ってさえいれば大丈夫……

とも言っています。本土決戦は太平洋戦争末期、日本で言い始めた言葉ですが、その時は日本全体に制海権・制空権、特に制空権がゼロでした。

投稿: ましま | 2010年11月 4日 (木) 11時16分

太平洋戦争の時代と違い、自衛隊機の航続距離の外側からミサイルなどで攻撃するアウトレンジ戦法をとられると、現状の自衛隊の装備では反撃できず、反撃は米軍頼みです。
他国に上陸・侵攻するのは、日中戦争の過ちを繰り返すことになりますが、改憲して周辺国の策源地を叩く敵基地攻撃能力を持たないと、ミサイルなどで攻撃されるのがわかっていても何もできず、手をこまねいているままになります。
本土決戦は沖縄戦のように国民に多大な犠牲を強いるのに、護憲派は専守防衛が何を意味するかをよく知らないまま、平和的な方針のように誤解しているのではないでしょうか。

投稿: はてな | 2010年11月 4日 (木) 17時13分

ご指摘の通りです。中長距離弾道弾が防げないことは本稿にも書いてあります。ただしアメリカの協力があっても100%防ぐことは不可能です。今のところ米偵察衛星の協力をえないとMDシステムが完全に機能しないことも確かです。
だから、各種迎撃ミサイルやMDシステムの性能向上を図ることには反対しません。

問題は、軍拡競争と、軍事同盟依存対9条厳守、専守防衛のどちらが日本の国民にとって、より安全を担保する方法なのかの計算です。

投稿: ましま | 2010年11月 4日 (木) 22時31分

おっしゃる通り、日米同盟が健在の間は現状を特に変える必要はないのかもしれません。
しかし、日本同様中国と対峙している台湾は攻撃用のミサイルを開発しています。
専守防衛のままだと攻撃面を米軍に依存し続けざるを得ないので、中国の軍拡が続くようだと、日本も攻撃型兵器を持とうという声が高まるのではないでしょうか。
日本のような大国が国防の多くを他国に依存しているのは、情けない気もするのです。

投稿: はてな | 2010年11月 5日 (金) 16時17分

はてな さん とあまり現象認識はちがわないように思うのですが、もう一回追記します。

台湾は、政権が代わり「独立宣言」などの事態があれば熱い戦争になりかねません。中国はアメリカの介入を警戒していますが、仮に沖縄の米軍基地から中国本土に爆撃機が飛び立ったら、その基地が中国からのミサイル攻撃の目標になるでしょう。

無人島の尖閣列島を占領するため中国が自衛隊基地を先制攻撃することなどあるでしょうか。日本は、固有の領土として最低島周辺の12海里は死守すべきであっても、海底資源開発、漁業専管水域などは交渉で解決できる問題だと考えます。ただ、日本が外交に弱いのが気がかりです。

投稿: ましま | 2010年11月 5日 (金) 17時21分

いつにもまして、重いエントリーですね。
ニコ動の小沢さんのロングインタビューの中でインタビューアの中の女性が、恐いのは平和ボケの強行派だといってました。たぶん、仙石さんとか前原さんだと思うのです。彼らは戦争を知らないが戦争をしたいか、緊張感を醸成するようにアメリカ様から指令をうけているのではと妄想しています。ところで、日本を叩くには核ミサイルは要りません。原発に通常のミサイルを撃ち込めば、一巻の終わりでしょう。北の性能の悪いミサイルが間違って日本海側の原発に当たってしまい、放射能が北風に乗って太平洋がわに流れて、戦争どころではなくなるなんていうのがリアルな妄想です。

日本の平和を守るには、世界平和を構築するしかないです。 もう日本一国でどうなるものでも無いと私は思っています。国連を改革して、より民主的な組織に作り上げ核兵器やミサイルの規制や武器の売買の規制などして、世界平和を構築していくしかありません。アメリカは中東で下手を打ちました。アメリカの力が弱まるのを利用して、より平和に近づく外交政策を民主党にお願いしたい所ですが、あの空き缶じゃ無理でしょうね。

投稿: カーク | 2010年11月 5日 (金) 20時45分

カーク さま

たしかに重くなりました。このエントリーの題は、「゛軽すぎる゛戦争観」だったのですが……。

おっしゃるように、どの国からであろうと、ミサイルほど手におえないものはありません。たった一人の錯乱者がいれば、一発でめちゃめちゃになってしまうのですから。

尖閣関連ビデオの流出など、その意味でコントロール不能の事態が起きたわけで、ただ事ではありません。真相はわかりませんが、もし出所が海保なら指揮・命令系統の破たんです。田母神論文の自衛隊でおあろうが前田証拠改造検事の検察であろうが、国民の安全が危機に瀕している――とは、おおげさでしょうか。

心配性の塾頭はそう考えるのです。


投稿: ましま | 2010年11月 6日 (土) 14時45分

カーク様のおっしゃっるように、もう日本は戦争はできません。
現実とずれてはいるが、警世の意味で、憲法九条も日米同盟がある間は変えない方がよいと思います。
最も怖いのは中国軍部の強硬派が台頭することではないでしょうか。

投稿: はてな | 2010年11月 7日 (日) 00時34分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/468248/37487176

この記事へのトラックバック一覧です: 軽すぎる戦争観:

» 中国のスパコン、世界最速へ 「天河1号」 [逝きし世の面影]
新華社電によると、中国の国防科学技術大が開発したスーパーコンピューター「天河1号」が28日、計算速度が中国最速と認定された。 米国のスパコンを抜き世界最速になる。インテルなどの演算処理装置を搭載し、演算速度が毎秒2507兆回に達している。2010年10月29日(金)共同 『中国スパコン世界最速 軍事目的、国際社会に脅威』2010年10月30日(土)産経新聞 中国国営新華社通信は29日までに、中国人民解放軍の管轄下にある国防科学技術大学が開発したスーパーコンピューター「天河1号」の演算速度が、... [続きを読む]

受信: 2010年11月 2日 (火) 09時24分

« 日中、賢いのはどっち | トップページ | 司馬遼太郎と北方領土 »