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2010年11月 2日 (火)

司馬遼太郎と北方領土

 以下は、1986年(昭和61)に司馬遼太郎が書いた『ロシアについて――北方の原形』の中にある文章である。北方4島が日本固有の領土であることは疑いの余地がなく、江戸期以降の長い日ロ交渉史から見ても、自明のことであるとして、ロシアがこれを占拠し続けていることについて、

 日本政府がこれを非とする――私も非とします――以上、政府はこれについての解釈と要請を何年かに一度、事務レベルでもってソ連の政府機関に通知しつづける――放棄したのではないといということを明らかにしつづける――ことでいいわけで、あくまでも事は外交上の法的課題に属します。これをもって国内世論という炉の中をかきまわす火掻き棒に仕立てる必要はなく、そういうことは、無用のことというより、ひょつとすると有害なことになるかも知れません。

 つづけて、帝政ロシア以来、膨張によりできあがった若い国であって、以来他の隣接国ともかず多くの国境問題を顕在化したり潜在化させたりしてきたという歴史を説明したうえ、

 もし、ソ連が、無償で――無償などありえないことですが――北方四島を日本に返還するようなことがあれば、それとおなじ法解釈のもとで、多くの手持ちの領土を、それはわが国の固有領土だと思っている国々に対しても返還せねばならないというりくつがなりたちます。それが仮に単なるりくつであるにしても、いったんソ連領になった「領土」を、もとの持主に返すようなことをソ連の首脳部がおこなうとすれば、おそらく国内的にかれらはその地位をうしなうことになるでしょう。(下線は傍点部分)

 とし「ともかくも、ソ連の首脳部にとって、返還など、無理難題を越えたほどのことだということを、私どもは成熟した国民として理解しておく必要があります」、としめくくっている。彼をして「媚ロ派」などと言いかねない手合いがありそうだが、「坂の上の雲」などの歴史小説をものするためには、不断の関心と膨大な資料をこなせる能力が必要だし、その意見は重く見なければならない。

 これは、尖閣諸島問題と全く性格を異にした背景があることを理解しなければならない。それと同時に、中ソの間でも一時は戦争さえ視野に入れた国境紛争があったのを、長い交渉の結果、中間線で解決したケースがある。これらを研究し、気長に取り組む覚悟が必要だ。

 そうすると、元島民が生きているうちに故郷を取り戻せなくなるなど、感情を表立てる意見がでてくるが、だからと言って有利にことが運ぶわけでなく、むしろその逆だ。勉強不足で未成熟なマスメディアや売名政治家のあおりを、この際冷静に見極めなくてはならない。

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