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2010年7月 4日 (日)

バル菅政治家脱却を

 バルカン政治家とは、東欧バルカン半島の政治家が小国同士のせめぎ合いの中から、現実重視の妥協を重ねる政治家の姿を言ったものだ。日本では、かつて三木武夫首相や竹村正義さきがけ代表を指して言われた事があった。リアリストといわれる菅首相に、早くもそのようなレッテル貼りを用意している向きがある。

 鳩山前首相を発足当時、過大な期待をしすぎてほぞを噛む結果になってしまったので、首相の品定めはしたくないのだが、菅氏は、前内閣の副総理として普天間問題で日米合意を認め、前財務相の懸案だった消費税問題を前面に押し出してきた。当面は前内閣承継の色合いを残すにしても、最終的な落としどころをどのあたりに求めようしているのか、さっぱり見えてこない。

 一方、これまでの彼の政治家としての軌跡から、市民運動を起点として社会市民連合から政界に進出、社民連に参加して欧州型社会民主主義を標榜する中道左派(石原慎太郎知事のいうような極左呼ばわりは無教養で見当違い)に位置づけられたとする意見も多い。

 もし彼が、9月の民主党代表選挙を乗り越え、なにがしかの内閣改造をしてより菅色の強い長期政権を担うとすればどのような方向を目指すのであろうか。参院選も終わらないうちに、まだ早いと言われればその通りだが、現状では彼の持ち味に程遠く“バル菅”と呼ばれても仕方のないような振る舞い方が多い。

 それでも民意はまだ菅民主党を見限ってはいない。国民が臨むのは、目先の打算から右顧左眄する腰の据わらない「菅」ではなく、安定感のある強力い本来の姿の「菅」である。彼は「国民が『よし!、それでやれ』と言えば全力をつくして……」などとも言っていた。

 方向付けを民意に押しつけているようで、無責任のようにも見えるが、力の源泉を市民の始発的意志に求めるという発想は、市民運動の原点でであり、首相就任時の思いつき発言ではないだろう。ただ、菅路線の展望が見えないことは、今後長期政権を託すという方向になかなか行きづらいのではないか。

 彼が政界を志した頃に出版された岩波文庫、松下圭一著『市民自治の憲法理論』が手元にある。当時、市民運動にタッチしたことのある人にとってはバイブル的存在で、彼もすくなからぬ薫陶を受けていた筈である。同書が冒頭に掲げるのは、現行憲法について「その理論構成の実態に於いては、官僚国粋派と対決したとはいえ、現在もなお、美濃部達吉に代表される戦前の官僚リベラル派が構成した官治的性格をもったドグマの『クモの巣』である、といって過言ではない」という、官僚支配の実態である。

 当塾もかつて「官僚叩きいいが」というシリーズ記事の中で、独法の影響を受けて成立した「天皇の官僚」以来、占領下でさえ崩壊することなく脈々と受け継がれてきた伝統的統治システムのことを言った。その「クモの巣城」は、同書刊行から35年がたち、昨年の政権交替を経てもなお落城の気配はない。クモの巣に絡め取られたのは、自らも告白しているように、普天間県外移設を撤回せざるを得なくなった前鳩山首相である。また、菅首相が消費税推進積極派になったのは、財務相官僚の差し金だという人もいる。

 前掲書は、憲法が主権在民をうたいあげているのに、地方自治法など行政法は、国民を公が支配する私人に転化してしまっており、主客逆転してしまっていることをいう。つまり、本来は民から発して議会、国が動かなければならないのに、「お達し」という形で、官から民を束縛する、昔からの上意下達が何の疑いもなくまかり通っていることである。

 これを、市民参加による地方自治から、ベクトルを上に向けることにより、憲法の国民主権を活性化させることができるとし、それが本来の姿であるべきだと主張する。菅首相は、辺野古周辺への普天間移設を8月末に工法を決定し、そのまま、特措法まで作って地元の同意のないまま着工するというようなことはしないと言った。

 当然であろう。中央で決めたことを、「お達し」ひとつで地方自治の精神を覆すわけにはいかない。また地方の望まないことに「ご理解をいたたく」という性格のものでもない。また同書では、憲法9条など「平和主義」も、「個人自由」を自衛する個人自治権がその原点にある限り、例外にはなり得ないとしている。

 そんな古いことはどうでもいい、という感じもあるであろう。しかし、これも菅議員の原点であることに違いはない。どうか、足が地につかない「宇宙人」の二の舞だけは、避けていただきたい。

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菅直人総理は、これまでのリベラルなイメージとは裏腹に、総理の座につくと直ぐに、『日米同盟の進化』を宣言、鳩山前総理が総理の座から降りる直接原因となった「普天間基地の辺野古への移設」の閣議決定を継承することを明言した。 それに先立つ民主党代表選の際に、彼は自らの外交政策について、永井陽之助氏の著書『平和の代償』(中央公論編)がいう「現実主義」に、その原点があると語っていた。ということで、菅氏の「現実主義」の意味するところを知りたいと『平和の代償』を探したが絶版のため、その後継本ともいえる『現代と戦略... [続きを読む]

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