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2010年7月 9日 (金)

ポツダムに原爆碑

 ボツダムといえば、日本が敗戦を受け入れた「ボツダム宣言」を思い出す。ドイツの首都ベルリンに隣接し、宮殿など多くの建造物が残る世界遺産に指定された古都で、観光に訪れた人も多いだろう。ここで米・トルーマン、英・チャーチル(途中からアトリーと交代)、ソ・スターリンの各首脳が会談し、日本に無条件降伏案をつきつけたのである。

 ポツダム市は、その中にあるトルーマンが長期滞在した「トルーマン邸」の前に、「トルーマンはここで原爆投下を決断した」という事実のもと、広島・長崎の原爆被爆者追悼碑を建立する計画を立てた。これに対して異議を唱えたのが在住米国人の事業家で、例により「原爆投下は戦争終結に重要な役割を果たした」という意見を強調する。(毎日新聞7/9)

 よその国の市民が考えたことに、米国内で通用する論理で異を唱えるなどどうかと思うが、これを企画したドイツ人は、原爆投下をナチスのアウシュビッツ蛮行と同列に置いて考えており、彼らからすれば、なんらそこに区別する理由はないのである。

 これを読んでおられる皆さんはどうお感じになるだろうか?。塾頭の考えはこれまでも記述したことがあるが、戦争を起こしてしまえば、平時のモラルは一切無視され、民間・軍部の区別なく大量殺戮が行われるおぞましい結果を招いてしまうというものである。これは、国家総力戦として第一次大戦ですでに人類が経験していることである。

 久間元防衛庁長官が「原爆投下はしょうがない」と発言したことについて、彼の真意はわからないがなんとなく共感する部分があった。これまで、日本人がアメリカへの非難や謝罪要求をしてこなかったのは、そういった感覚を抜きにして考えられない。

 いま冷静に考えてみて、東京大空襲などを含め民族大虐殺にも相通ずる脅しであり、現在のアフガン・パキスタンなどの民間人殺戮に至るまで、アメリカには、幾多の国際法を無視してきたことに謝罪や反省があってしかるべきで、アメリカだから許されるという独善は成り立たない。

 ひるがえってドイツのケースであるが、ドイツ人がナチスを生んだ過去の歴史に対して、ドイツ生き残りのため、深刻な反省と徹底的な責任追及がなされていることは知られている。これは、特に旧西ドイツが中心で、東ドイツは、ヒトラーに距離を置いた共産主義者などが東に流れたこともあってそれほど顕著ではない。

 日本では、戦争責任をいう左派でさえ、ドイツのようにナチスを生んだ民族としての歴史、文化にまで踏み込んで再発を根絶させよう深まりは見られない。それどころか、右翼の論客は「日本の大陸侵攻は、それぞれ国際法にのっとり邦人保護のため合法的に出兵したもので、反日分子を制圧したのは正当防衛である」とし、「侵略」とするのは自虐史観で、ナチスのような犯罪行為は日本はしていないという言論がまかり通っている。

 ドイツも、東ドイツを中心に崩壊以前を知らない若い世代の中で、貧富の格差や外国人の流入などから不満を募らせている「ネオ・ナチ」といわれる国粋主義、排外主義者が発生しているが、日本のような懐古趣味や歴史修正主義とはその性格を異にしている。

 日本の右翼のような言い方をすれば、民主的な選挙のもとでヒトラーを選出し、独裁的にはなったものの彼らにしてみれば、自衛のため合法的、組織的にジェノサイドを実行に移したということなる。すなわち、戦争遂行に支障ありと認めれば、どのような殺人もやってのけるこわさがあることを認識していない。

 ポツダム市民が考えるのは反米でも親日でもない。ドイツ国民が経験してきたこと、そしてヨーロッパの中核としてこれからのドイツを考えれば、自然に思いつく必然的・建設的なアイディアなのだ。アメリカ人の反論は視野の狭い技術論であり、とても古都・ボツダムの重みに耐えることはできないだろう。 
 

 

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戦争責任」カテゴリの記事

コメント

核兵器ですが、間違いなしの残虐兵器の筆頭でしょう。
戦争ですが、プロイセンの戦略家の言葉にあるように『政治の延長』なので今でも原爆を政治的な意味で賛成するアメリカ人が大勢生まれる仕組みになっている
ところが幾ら戦争でも、勝ちさえすればルールを無視しても良いとは言えず、『残虐な兵器』の使用に一定の歯止めがあるのです。
禁止されている兵器で有名なのは毒ガスですが、一番最初に禁止された残虐兵器とは種子島に使われていたダムダム弾なのですね。
鋼鉄の皮膜がないままでは撃たれた兵士が運よく生き残っても体の中に鉛の破片が残り平和になって時間が経った後で重金属中毒で死亡する。
それで禁止された。
第一次世界大戦では双方が大量の毒ガス兵器を使用したので戦場での死者も多かったが、帰還兵の中毒者が大量に出て多くの死者が出たのです。
死に方が悲惨であるとか大量に殺したからではなく、戦争を終結して全てを清算した平和時に多くの人が戦争の後遺症で死んだ意味が大きい。
だから毒ガスは禁止された。
その意味でならダムダム弾よりも毒ガスよりも、最も残虐な兵器は核兵器となるでしょう。
日本の民主党政府には、もう少し頑張ってほしいものです。

投稿: 逝きし世の面影 | 2010年7月10日 (土) 10時56分

 私は、クラスター爆弾禁止条約に自衛隊の反対(米軍の意を受けた?)にもかかわらず、賛成の方向付けをした福田元総理を買っています。父親の関係で自民党、それも森派に属したため総理になれた反面ハト派にはなり切れませんでした。

 同じ世襲でも、鳩山前首相より芯が通っていたように思います。惜しむらくは権力に対する執念がなさ過ぎる人でした。

投稿: ましま | 2010年7月10日 (土) 18時11分

日本の場合、ヒトラーがいないのです。
結論から言えば、日本人がドイツ人のように反省する必要はないのです。反省しようにも無理があります。
日本人がしたことは、イギリス人やフランス人やオランダがした植民地支配程度の話であって、政治思想として他民族の「支配」ではなく「絶滅」を企画したナチスドイツとは違いますよね。しかも、イギリス人やフランス人の政府が過去の植民地支配を旧植民地に公式に謝罪したことはありません。旧植民地は自力で独立を達成している以上、旧宗主国が謝罪する必要はないのですよ。

さて、管理人の主張である「日本民族を全否定せよ」という主張ですが、これはかなり無理があります。ドイツ人が徹底しているのは、ヒトラーを民意によって民主的に選んでしまったという事実があるからです。

大日本帝国にはそれがありません。天皇を国民は選べないないし、陸軍や海軍の人事は総理大臣はおろか、天皇すら介入できませんでした。しかし、戦争を引き起こしたのは、超難度の高いペーパーテスト通過者の軍官僚たちで、文民官僚も彼らに進んで協力してます。
この状態で、日本民族や文化、歴史を非難して、日本人全体を対象として反省して責任を取れと言っても言いがかりにすぎないのでは?

さらにダメ押しすれば、昭和帝がナチスドイツのヒトラーの役割を日本で果たしていたといえるでしょうか?それとも東条英機の戦争指導に責任があるのでしょうか?太平洋戦争の開始、つまり真珠湾に攻め込むことが海軍主導で御前閣議で決まったとき、東條は総理大臣になっていないのですよ。それとも、日米戦争に日本を導いた山本五十六に責任があるのでしょうか?わからないですよね。
第二次大戦を引き起こしたのはヒトラーで、ユダヤ人虐殺を命令したのもヒトラーです。責任は明確ですが、日本の場合は、戦争責任は誰に責任があるんでしょうかね。
連合国は、極東裁判で、日本のヒトラーを探しましたが、結局見つからず、検察官のアホさも手伝って、でたらめな裁判となってしまいました。本来、責任の無い者が有罪とされ、責任者が無罪となってしまったというのが真相です。

日本にNSDAPはいないので、あなたの主張には無理があり、左翼および右翼が現在の極東の情勢を正しく理解できないのも極東裁判がでたらめなのが原因でしょう。

投稿: c-ROM | 2010年7月16日 (金) 01時49分

c-ROM さま
コメントありがとうございます。

ふたつだけお答えします。

>「日本民族を全否定せよ」
どこを見て書かれたのか知りませんが、一度もそんなことを言ったことがありません。日本民族・歴史については研究書があり、自信がありますので過去の記事を見てください。たぶん貴方以上の民族主義者でしょう。

ドイツ人はヒトラー個人にかわって謝罪しているわけではありません。戦争の中でおぞましい大量虐殺を起こしたナチスを生んだ土壌を分析し、責任を明らかにし、2度とそのようなことを起こさない、という立場です。当然、2度の大戦で受けたドイツ人の被害もその背景にあります。


投稿: ましま | 2010年7月16日 (金) 09時40分

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