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2010年6月16日 (水)

鳩山変節の裏側

 「最低でも県外」から「辺野古周辺」に大きく舵を切った《鳩山変節》について、小塾は5月8日付エントリー「抑止力を学ぶ」で外務・防衛官僚の工作に目を向けた記事を書いた。また、どこかのコメント欄に「両省の官僚は、楽をしたいのではないか」と書いたような気もする。

 特段の根拠があって言ったわけではない。大いにあり得ると思ったまでだ。それが鳩山辞任後、続々と証言が出てきた。当初は鳩山ブレーンとして動いていた、寺島実郎氏がいう。

 日米双方の外交・防衛の実務官僚は「今までのままがいい」という固定観念と利害の呪縛に埋没し、「北朝鮮や中国の潜在脅威を考えれば、在日米軍の抑止力は重要」という認識から一歩も出ようとしないし、アジア太平洋の政治経済の構造変化を直視することもない。もし「日米で連携して中国の脅威に立ち向かう」と期待するのなら、この一年間の米中戦略軽罪対話の拡充を見るだけで、その認識がいかに空疎かを思い知らされるであろう。(10/6/4毎日)

 さらに、11日には鳩山氏本人が次のように告白した。

 鳩山前首相は11日、BS朝日の番組収録で、(中略)普天間問題では米国や外務、防衛両省が沖縄県名護市辺野古への移設にこだわったと指摘し、「国家戦略局(室)がもっとがっちりしていれば指導力を発揮できたが、そういう状況にできなかった」と自らの力不足を嘆いた。

 当時の菅副総理や小沢民主党幹事長が同問題に関与しなかったことについては、「何度も小沢幹事長に会ったが、『こちらに任せる』という話だった。菅さんはタッチしたかったと思うが、財政を扱うことも非常に大事な時期だから、こちらで引き取った」と語った。(10/6/11読売)

 菅も代表質問の答弁でこれを裏づけるような発言を繰り返している。「こちらで引き取った」というのも、勘ぐれば主導権をうばわれないよう「はずした」というのが正しいのではないか。逆に意のまま動くと楽観していた平野官房長官が逆に落とし穴を掘っていた、という見通しの甘さも禍したが、全責任が鳩山前総理にあることはいうまでもない。

 防衛官僚は、今や装備・訓練・作戦などすべての面でアメリカに取りこまれ、国内の災害派遣以外にアメリカ抜きでは自衛隊の存在価値が疑われるところまできている。辺野古現行案死守は、自衛隊の敷いたレールを取り外されない最低の要件であったのではないか。

 外務官僚も日米安保が安定した時期の経験しかない。そして、外務官僚が出世して最後にたどり着く席が駐米大使だった。防衛省と似たような土壌はあるが、最近省に昇格したばかりの部局とは違って鳩山氏がさじを投げざるを得ないような風圧を感じたはずだ。

 アメリカがそれほど痛切に感じていない「中国・北朝鮮への抑止力」や「核の傘」論を、日本防衛の最重要課題とするようアメリカに働きかけ、防衛省と共闘しそれを実現させることに成功した。普天間国外移転論者(最低でも県外といった前首相も含まれる)に、それに対抗できる論理がなく、支持する勢力もなかった。

 元外務官僚の佐藤優氏は、もっと過激に、これを官僚階級総体の利益を代表して起こした「クーデター」だと観察している。

 普天間問題について、米海兵隊が沖縄県外へ移動しても自衛隊を増強して抑止力を担保することは可能だ。しかし、外務官僚の集合的無意識がその可能性について考えることを抑圧した。外務官僚にとって、普天間問題はシンボルを巡る闘争となった。

 米海兵隊普天間飛行場の移転先を自民党政権時代の辺野古(沖縄県名護市)に戻すことによって「国家の重要事項に関しては政権交替で生まれた首相であっても官僚の決定を覆すことはできない。日本国家を支配するのは官僚である」という現実を突きつけ、官僚の政治に対する優位を目に見える形で示そうとしたのである。
(10/6/16毎日・寄稿)

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