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2010年5月14日 (金)

続・官僚叩きもいいが

 「官僚叩きもいいが」というシリーズを2月頃4回にわたって書いた(リンクは文末)が、一応終結させたつもりなので今回はタイトルに「続」をつけた。やはりこの問題は根が深く、一政権、一政党でかたをつけられる問題ではない。昨日、国家公務員法改正案が衆議院を通過したのを機に重複をいとわずなおも続けたい。

 中央や一部地方自治体で続いている政治主導を旗印とした「官僚叩き」は、このところどうやら官僚が盛り返してきているように見える。それをつぶさに感ずるものとして、沖縄基地問題で鳩山首相を変節させた防衛・外務官僚の動きがある。

 かりにそうでないにしても、官僚がトップである首相の意を体して、準備を整えたり米側に接触したという形跡は認められず、「抑止力」の解釈で合意があったという証拠もない。それが、故意のサボタージュなのか、あるいは一部ネット上でささやかれている検察の民主党政権の追い落とし同様、その一環なのか。

 そこまで邪推するつもりはないが、結果的にそれと同じ政治現象がまさに現れようとしている。官僚制を不用意にいじることは非常に危険なのである。日本では、天皇の官僚であった時代の形態をそのまま引き継いでおり、それがGHQの占領政策に活用され、日本の政治風土の中で温存された。

 それは、①公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない(憲法第15条2項)。したがって、特定政党の主張に左右されない。②公務員は厳しい採用試験を経て就任、また争議権、政治運動などさまざまな自由を制限される。③それを支えるべく、公務員特有の特権が付与される。というものである。

 国家公務員法の第一条にどう書いてあるか確認しておこう。

第1条 この法律は、国家公務員たる職員について適用すべき各般の根本基準(職員の福祉及び利益を保護するための適切な措置を含む。)を確立し、職員がその職務の遂行に当たり、最大の能率を発揮し得るように、民主的な方法で、選択され、且つ、指導されるべきことを定め、以て国民に対し、公務の民主的且つ能率的な運営を保障することを目的とする。
2 この法律は、もつぱら日本国憲法第73条にいう官吏に関する事務を掌理する基準を定めるものである。
(以下略)

 これでわかるように、国家公務員たる職員について適用すべき各般の根本基準として「職員の福祉及び利益」が例示され、それを以て最大の能率、民主的方法による選択、指導、運営が保証されるよう期待している。この法律は戦後の占領中に定められたもので、当然占領行政を円滑ならしめるGHQの要請に沿ったものだった。

 民主的という言葉が2度も出てくるが、主人公「天皇」のかわりに「民主的」を置いたようなもので、終身身分保障の中で知見と経験を蓄積し、政治家のように選挙を気にすることなくエリートとしてのプライドを維持してきたのだ。

 その間の事情を辻清昭著『新版日本官僚制度の研究』は次のように表現している。(太字:塾頭)

 もちろん、国会や政党も、憲法の条文にしたがって、主観的には官僚機構を支配しているつもりであろう。いや、ここでも、「利用するだけで、支持しない」態度をとっているのかもしれない。けれども神経中枢が四肢を動かすことができても、その逆は成り立たない

 明治以来のわが国統治構造の中枢は、占領政策の唯一の代行機関となることによって補強され、あたかも利用されたかのごとき外観の下に、逆に一切の政治勢力を利用できたのである。戦前と同じく、戦後の国会も政党も、華々しい衣裳は纏っていても、けっきょく精緻な官僚機構の舞台で踊っていたといえるであろう。まことに、わが国の官僚機構は、強靱な粘着力の所有者であった。

 13日に衆議院を通過した国家公務員法改正案は、幹部公務員人事を一元化する「内閣人事局」設置を盛り込む、政治支配強化の案だ。官僚は人事をもって官僚の中枢神経に変調をもたらすようなことがあれば、徹底的に抵抗し、上述のような「強靱な粘着力」を発揮するだろう。

 ヒトラーはこの抵抗を排除するため、政権獲得直後「専門官吏復活法」で人事権を完全掌握し、腐敗を理由に抵抗勢力をすべて解職した。こうして「政体と陸軍に続いて、第三のものとして、旧ドイツ国の比類のない官吏団が同盟に加わった」と、『わが闘争』で豪語せしめた。「旧ドイツ国の官吏団」というのはワイマル共和国憲法下の官僚組織をいう。

 公務員制度改革は必要である。しかし、天下り問題や一部の不正・怠慢などに目をうばわれ、「官僚叩き」の一環として人事権をもぎ取ろうという程度の発想では必ず失敗する。これまで言ってきたように、長い歴史の中で、よくも悪くも息を長らえてきた官僚制を改めるためには、国民の意思を尊重しながら慎重かつ万全の準備が必要なのである。

 党派で官僚叩きを競い合い、強行採決で姑息な法改正をするだけでは、国家百年の計に害があっても利益にはならない。これからも長い国民のチェックが必要である。

関連エントリー
http://hansenjuku.cocolog-nifty.com/blog/2010/02/post-7ec2.html
官僚叩きもいいが①
http://hansenjuku.cocolog-nifty.com/blog/2010/02/post-ee64.html
官僚叩きもいいが②
http://hansenjuku.cocolog-nifty.com/blog/2010/02/post-46fa.html
官僚叩きもいいが③
http://hansenjuku.cocolog-nifty.com/blog/2010/02/post-5ea3.html
官僚叩きもいいが…番外

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コメント

官僚たたきですが、これは『官』に対する『政』の優位の確立(政治主導)が目的の一つであるとメディアでは説明しているのですが、それなら昨今のメディアによる鳩山首相たたきは目にあまる。
鳩山政治を叩いて、今までの自民党の決定を守ろうとしているキャリア官僚を助けているのです。
報道番組で出席者全員が口汚く罵声を浴びせてるのですが、確かに鳩山由紀夫が今までの自民党政治を変えようとして変えられないのは歯がゆくはあるが、小泉のように断固として自分の非を認めなかったよりは100倍は善良でしょう。
マスコミが大宣伝していた、ワシントン・ポストのコラムのloopyの意味は愚かでもクレージーでもなく『現実から奇妙に遊離してしまっている人』の意味で、それなら日本のマスコミの表現である『宇宙人』の英語訳だったらしいですよ。

投稿: 逝きし世の面影 | 2010年5月15日 (土) 16時57分

逝きし世の面影 さま
マスコミ、特に官庁の記者クラブそのものが官僚システムに100年もどっぷりつかった官僚記者を作ってしまったのです。
検察庁のリークをそれと知っていて嬉々として記事にした。クラブを解体しようとした小沢などは、特権を侵そうとしている敵になるのです。
日本に張り巡らされた官僚シンジケートはそんなに簡単にこわれません。彼らは負けたように見せかけ、キッとどこかで息を吹き返します。
完膚無きまで征伐すると独裁になるし、手加減すれば世にはだかる。人事権をいじくるだけでは解決にはなりませんね。

投稿: ましま | 2010年5月15日 (土) 18時26分

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