米軍基地と抑止力
政府・与党は昨28日午後、首相官邸で「沖縄基地問題検討委員会」(委員長・平野博文官房長官)の初会合を開いた。2010年5月をめどに普天間基地移転先について結論を得るというが、委員は外務・防衛の副大臣クラスと社民・国民新党の政策担当者クラスとなっている。
鳩山首相は、来年にかけたて最大の重要案件と位置づけているようだが、閣僚の意見はばらばら、首相はその都度いうことが違い、閣内に県外・国外移転を譲らない社民・国民新党首がいる。自民党が13年間かかって決定できなかった問題を、このような委員会でどこまで突きつめられるのか心許ない。
マスコミでは、盛んに「抑止力」に対する議論を表面化するように主張し始めた。鳩山首相が言い始めたことだが、これこそ最高の「国家戦略」にかかわることである。防衛・外務の専門家をバックにした政府側委員と社民・国民新党が議論しても、羅針盤もなく大海に放り出された小舟のようなもので、漂流か沈没かが目に見えている。似かよった過去を振り返ってみよう。
自民を野党に追いやった細川政権は1994年2月、「防衛計画の大綱」を18年ぶりに見直す方針を立て、首相の構想する軍縮を念頭に私的懇談会「防衛問題研究会」を設けた。メンバーは経済界、自衛官を含む元官僚、大学教授など9名という構成である。
これに危機感を抱いた防衛庁は、ただちに現職長官、次官、幕僚長など中枢幹部8名をメンバーとする「防衛の在り方検討会」を設けて対抗した。結局上記「懇談会」はこの「検討会」からデータ・資料などを提供され、自ずからのリードを奪われる。
細川内閣が短命だったこともあり、細川首相の目論見は日を見ることがなかった。その当時の防衛庁や自民党の抑止力論議が15年たった今、全く変化していないことが当時発表された論考でわかる。『軍縮問題資料』(1994/6)に掲載された、元・防衛庁防衛研究所第一研究室長・前田寿夫氏によるもので、以下にその一部を紹介する。
(前略)
一つは、神通力が薄れた「ソ連脅威論」の代わりに、北朝鮮を「新たな脅威」として浮かび上がらせていることです。米国は北朝鮮に対して核兵器開発の疑惑をかけ、それを中止させようと軍事的圧力を強めている。在韓米軍はもとより、在日米軍、第七艦隊を総動員して、いつでも「北」に対して軍事介入できる態勢をととのえている。それに連動しての「北朝鮮脅威論」です。(中略)しかし危険なのは北朝鮮よりも、むしろ日本列島を基地として戦争すれすれの瀬戸際戦略を展開している米軍です。米国は、「第二次朝鮮戦争」が発生した場合、日本の基地から海兵隊、空母機動部隊、戦闘爆撃機などを大挙して朝鮮半島に出撃させる計画です。
そうなれば、日本はいやおうなく戦争に巻き込まれる。もし北朝鮮に攻撃能力があれば、在日米軍基地だけでなく、日本全土が目標にされること請け合いです。米国に追随する日本に対して、「北」は次第に悪感情をつのらせているからです。(中略)
新しい防衛計画を作成する場合、なによりも先ず当局者に銘記してもらわねばならないのは、日本国憲法にうたわれている平和主義、戦争放棄、交戦権否認、戦力不保持などの諸原則は、単なる理想ではなく、日本の現状にマッチした、きわめて現実的な指針であり、選択だということです。(中略)
第二に、日本自体は、周辺諸国との間に、軍事力で争わねばならない問題はなく、また四面を海に囲まれているため、周辺諸国の軍事的影響力は著しく緩和される。そのうえ、日本は東アジア地域の経済で中心的役割を果たしています。
日本が他国の軍事紛争にチョッカイを出さない限り、日本に対して軍事的攻撃が行われる恐れは全くといってよいほどないからです。
これが書かれたのは、アメリカの同時多発テロやイラク戦争よりずっと前だ。民主党クリントン大統領時代ではあるが、オバマ大統領の出現など想像もできなかった。また、アメリカが「北」と対話路線をとろうとしている時、全く発想の転換ができてこなかったことを証明するものだ。
またこの当時、現・小沢一郎民主党幹事長は、与党を取り仕切っていた新進党の代表幹事をつとめ、同時に金丸信自民党副総裁から引き継いだ「日本戦略研究センター」の会長役でもあった。ここには、自衛隊将官OBや防衛官僚OBで兵器・装備関係に縁の深いメンバーや防衛産業幹部が集まっており、防衛政策に影響を持つ利権組織だったと見られる。
したがって小沢氏は防衛問題について決して素人ではない。冒頭に書いた基地などの検討委員会や官邸の意見が暗礁に乗り上げた場合、「国民の意見」の助け船を買って出るかもしれない。それがどんな船か予断を許さないが、鳩山首相の指導力が完全に幻想だったことを証明することにはなるだろう。
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