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2009年11月25日 (水)

高齢化現象・元禄版

 元禄時代というと、忠臣蔵、、将軍綱吉、生類憐れみの例など江戸時代でも比較的なじみのある時代である。「昭和元禄」などといって、高度成長の代名詞のように使われたこともあった。『日本史辞典』(角川書店)を見ると次のように書いてある。

元禄時代 江戸幕府5代将軍徳川綱吉施政下の文治政治と呼ばれている時期。幕藩体制の基礎が固まり、農業生産・商品経済の発展・町人の台頭などで、学問・文化に清新な気風がみなぎった。

 1615年大坂夏の陣が終わって綱吉が将軍になった1680年まで65年、来年は日本の敗戦からちょうど65年目である。平和が続く中「高齢化社会」といわれる時代が到来した。だからといって江戸時代と現代の比較を試みる気はないが、当時としては意外に高齢化社会だったのではないかと思われる。

 まず、公務員(武士)の定年制である。これは一律ではないが中央(幕府)、地方(各藩)ともに原則70歳だったようだ。早期依願退職や天下りはなく、介護が必要になるギリギリまで隠居は許されなかった。吉良上野介が松の廊下で斬りつけられたのが60歳、バリバリの現役である。お役ご免、つまり懲戒解雇さえなければ70歳までやれたはずだ。

 これはあとで述べるとして、老人人口について統計とは言えないが、『鸚鵡籠中記』の中に「南部信濃守領分高年の者の覚え」という記録がある。それによると、領内で100歳以上307人、90歳以上751人で最高齢127歳とある。1970年が全国で310人だったのと比べると、話半分にしても相当ハイレベルの高齢化社会だ。
 
 天野長重という旗本がいた。禄高は3000石を越えていたから直参としてはかなり高い身分である。長重は70歳を前にした元禄2年(1689)、突如将軍綱吉の御座間に召された。「汝日ごろの勤、真実にして裏表なき旨高聞に達す、因って役を移し鑓奉行に補す」という栄誉ある辞令の伝達である。

 御前を退いて、推薦したと見られる老中大久保忠朝に謝辞を述べに行ったところ「戦場に功のあったものはお旗本で貴殿一人になった」と長年の精勤ぶりをほめられた。彼は15、6歳の頃島原の乱に参加したことがある。

 幕府開設以来、戦争らしいのはこれだけで武士本来の活躍の場はなかった。長重にしても、城下にいて敵が投げた石に偶然当たったという程度で、武勲というにはあまりにも「片腹いたし」――気恥ずかしい、という述懐をしている。

 長重は『思忠志集』という膨大な記録を残しているがその多くは子弟に向けた教訓である。特に多いのが健康維持で、武士の心がけの第一が「息災なる様にすべき」と説き、武芸は二の次にしている。そして健康法は食事、睡眠、性生活その他日常のすべてにわたっている。

 老年になってからの健康には、散歩や園芸の効用を説いて「草葉の上、樹木などの類にて色々気を点ずる工夫して、身をつかふべし」とか、「養生に小石をひた物(ひたすら)拾い、こヾみ身をつかふ能(よき)由」といい、とにかく最近の健康ブームが顔負けするほどの内容だ。

 長重には悪いが、「遅れず休まず仕事せず」が出世の要諦であるような感じさえする。事実祖父の時代は200石、その後戦功による加増がないなら着実に終身雇用を全うして役職の階段を着実にのぼって栄誉を受け世襲するしかない。イコール「忠」になるのだろう。

 官僚的処世術は今に始まったことではない。なんと、元禄以来続いた日本的伝統だったのである。長重が老年のため職を辞し、隠居を認められたのが1701年81歳、没年がその4年後85歳の時であった。5男2女に恵まれたが、跡目は孫の長吉が継いでいる。(この記事は氏家幹人『江戸藩邸物語』中公新書を参照にしました)

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