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2009年11月 5日 (木)

書評『ヨーロッパ統合』

 国会論戦が続いているが、防衛・安保、天下り人事、政治資金などに焦点がしぼられ、鳩山外交の目玉であった東アジア共同体についての議論はあまり聞かれない。その理由として、①鳩山首相から「友愛」という理念のほかは、その中味や展望について具体的に語られていない、②ASEANにおける中国との主導権争いのようなことなら、自公政権の時代から唱えられていた事柄で争点にならない、③「共同体」の定義がされておらず、モデルとされるEUについての知識が不十分、といったことが考えられる。

 ①については、当ブログでもEUの前身を創設する頃にあった「あらかじめ最終的な姿を想定して議論すべきでない」というタブーを紹介したことがある。また、激しい外交交渉を経ながら前進させるというテクニックが必要なので、交渉に不利をもたらすような手の内をさらすべきではない、ということもある。

 しかし②と③は、その本質を探る上でどうしても語ってもらわなければならない部分なのにそれが明らかにされていない。もっとも、今国会は仮免運転中のような所があるのでこれからの能動的な活躍に期待するとして、今回はEU発展の過程をカラフルな画像を駆使してまとめた好著を紹介したい。

ヨーロッパ統合――歴史的大実験の展望
バンジャマン・アンジェル/ジャック・ラフィト著
田中俊郎監修/遠藤ゆかり訳/創元社発行/¥1575

 私がこれまで見た類書は、学術研究書であったり、専門的立場から観察した解説書などで、たびたび告白するように、極めて難解・複雑そして問題が多岐にわたるためつかみきれない、というのが正直なところである。

 本書は、142頁にすぎないが、頁の少なくとも1/3以上をカラー写真・図版等に充てており、見出しと視覚だけでも役に立とうという編集方針であるように見受けられる。だから読みやすいか、というとそうはいかない。やはり、その歴史、組織、仕組みなどは複雑多岐で容易に理解するというわけにはいかない。

 ただ、同組織にたずさわってきた欧州人が書いているだけに、遠くヨーロッパの語源から書き起こし、長い抗争の歴史、戦争回避・平和希求に多くの頁を費やしていることと、組織発足からこれまでを発展の歴史というより、合意破綻、離脱、意見不一致、失敗など苦難の歴史という印象が強い。

 しかし、変化の要点は注釈などをふくめ網羅されているので最初の入門書としてはいいのではないかと思う。EUがECC(欧州経済共同体)からの発展であることはいうまでもないが、日米同盟がある日本としては、アメリカが加わるNATOとの関連が気になるところである。

 本書ではこのあたりも要領よく記述されている。その中で印象深かったのは、当初、ヨーロッパに恒久的な平和をもたらすにはどうすればよいかという課題に、どう答えたかについてである。その最初の答えとして取り上げられたのは、軍事同盟という「かなり古典的」な方法だったという。

 当時は第2次大戦の余燼もさめやらぬ時期で、チェコなど共産主義革命のクーデターなどもあり、不可侵条約、共同防衛条約などだけで防ぎきれないという不安があったようだ。そういった新たな冷戦の脅威からNATOが誕生した。同書は次のようにいう。

 軍事同盟とは、永続性のある平和を実現するための必要条件ではあるが、十分条件ではない。2度の世界大戦は、たとえ同盟を結んでいたとしても、各国が真の意味で融和してなければ、結局は紛争を広げてしまうことを証明した。そのため、より独創的な方法が求められたのである。

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