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2009年11月 7日 (土)

米に撤兵の勇気があるか

 アメリカのオバマ大統領は、テキサス州の陸軍基地で起きた銃の乱射事件の追悼式に出席するため、日本訪問を13日に変更したいと日本側に伝えているようだ。米兵の犠牲者が出るたびに大統領が追悼式に出席すると、外遊などしている暇がなくなる。

 しかし今回の事件が、オバマにとってよほど深刻な事態であることを物語っている。アフガンに増派をするのか取りやめるのか、日々伝えられる現地情勢に好転の兆しはなく、このままではベトナム以上の泥沼化が避けられなくなる。

 増派中止、さらに撤兵ということになると国内の右派から猛反発を受け、政権に回復不能の打撃になることもあり得る。また、犯人がイスラム教徒であったことなどを考え合わせ、この際どんな障害があっても犠牲者に最大限の弔意を払うこと以外に彼の選択肢がない。

 この事件はもう一つの大きな問題をアメリカ社会に投げかけている。それは、毎日新聞(11/6)が伝える次のような事実である。

 イラクやアフガンでの戦争では、PTSD(心的外傷後ストレス障害)や、爆弾攻撃により脳細胞が破壊される外傷性脳損傷(TBI)を患う兵士が急増した。オバマ政権は今春、対テロ戦争を「象徴する負傷」と位置づけ、最終的にいずれかを発症する兵士が30万人前後にのぼると推計し、治療体制を拡充すると表明した。

 しかし、現場では、軍での経歴に障害となったり、除隊を迫られることを恐れて、精神的な治療を敬遠するケースが目立つ。米精神医学会が昨春、約350人の帰還兵らを対象に行った調査によると、約半数が不眠やうつ症状を訴えたが、治療を受けた人は約1割だけ。治療を受けなかった人の多くは、目に見えない症状のため治療を求めても適切な診断が得られにくく「(兵士としての)経歴に悪影響を及ぼす恐れがあるから」と答えた。

 こうした状況を受けて、米陸軍副参謀長のピーター・シラリー大将は今月5日、陸軍の年次総会で「従軍を逃げようとする弱い兵士の訴えではない」と指摘。偏見をなくし、迅速な対応をするよう求めた。

 犯人は、同基地の精神科医を務める少佐で、帰還兵患者のカウンセリングなどの任務を持っていた。その彼自身がアフガンなどに配属される予定があったとか露骨な差別発言に悩んでいたとかで、神経症に罹患していた可能性があるという。

 上記のように米軍で治療を受ける患者はわずか1割に過ぎない。他の負傷と違って表に出したくないという心理が働くからだ。日本でもさきの戦争で多くの戦争神経症患者が出たはずだが、「皇軍兵士にはそのような弱兵はない」という建前があったため、重症者は監禁に近い状態で精神病棟に入れられていたようだ。

 戦後60年たって、引取先のない「戦傷病者特別援護法」等による入院精神障害者は全国で84人(平均年齢80代半ば)も残っている。つまり、負傷といっても癒えることのない悲惨な状況におかれる患者が、今後アメリカで激増する可能性を否定できない。

 太平洋戦争、朝鮮戦争、ベトナム戦争をそれぞれ比較すると、米軍の死者は劇的に減っている。しかし、死者と傷者の割合では傷者が増え続け、発見の遅れている潜在患者まで入れると、最近の状況はまさに破滅的といってもいいのではないか。(以上については、下記の関連記事を参照して下さい)

 アメリカは「テロとの戦い」を大転換するべき時期にさしかかっている。オバマは果たしてその勇気ある決断をする勇気(同時にアメリカ人の勇気でもある)があるのか。鳩山首相は、近く会う大統領に「同盟国としてアメリカの方針を支持します」とオウム返しでいうだけでは、せっかくの政権交代の意味がなくなる。

 首相はオウムではなくハトである。「米軍撤退のために必要な協力は惜しみません、そのためにはかけはしにもなりましょう」と増派撤回を進言することだ。それが真の同盟国への友愛精神だと思うのだが……。オバマも鳩山も正念場である。

参考エントリー
http://hansenjuku.cocolog-nifty.com/blog/2008/01/post_eda8.html
帰還兵の殺人
http://hansenjuku.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/post-190f.html
アメリカの兵士3
http://hansenjuku.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/post-a4fb.html
アメリカの兵士2
http://hansenjuku.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/post-0bd4.html
アメリカの兵士1

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コメント

世界で『二つの戦争』を同時に行えるだけの軍事力を維持し続ける事がラムズフェルド国防長官の造ったアメリカの軍事戦略の骨子ですが、ブッシュ政権は実際にアフガニスタンの戦争とイラクの戦争を同時に行い、短期的には大勝利することに成功している。
ただし、いかに世界一の軍事力経済力のアメリカでも短期は良くても『永久に戦い続ける』のは無理で、今日のように『勝てない』ことが明らかになった時点では撤兵しか選択肢は残されていない。
ところが前ブッシュ政権もオバマ政権も反対に兵力を増やして今では7万人に増強している。
オバマが2万1千人増派したら現地のマクリスタ司令官は更なる4万人の早急な増強を要求しているが『負けるな』『勝て』と上司(最高司令官の大統領)から命令されれば現場では『増派』以外には無い。
官僚組織である軍は、自分では『間違いだったので止める』といえないので、アメリカでは政治家であるオバマにしか戦争は止めれない。
ところがこれ(敗戦を認めること)が一番難しい。
今度の日米会談で民主党新政権の鳩山首相がオバマの戦争中止(軍備縮小)を何とかサポート出来れば、近頃下がり気味で芳しくない日本国の値打ちにとって、短期的には色々あるかも知れないが長期的戦略的に判断してこれ以上にアメリカに喜ばれる事はないでしょう。

投稿: 逝きし世の面影 | 2009年11月 8日 (日) 17時25分

アメリカという国はとてつもないお人好しなんですね。タリバンやフセインは、難しいお国柄なのになんとか治安を維持して、すくなくとも国民国家としての当事者能力があった。

それを強引に破壊し、アメリカ式の民主主義選挙でお節介を焼いて、金はねだるは統治能力は疑問だらけ、おまけに言うことを聞かない始末に負えない政権にかかえてしまった。

石油の利権?、世界の警察官?、ビンラビンの首?得たものはなにもない。招いたのは100年来の不景気と兵士の疲労だけ。日米のご両人たち、後楽園で始球式など恥さらしでしたね。

投稿: ましま | 2009年11月 8日 (日) 18時39分

早い話、バラク・F・オバマにはあっても、米軍には勇気など無いと思います。

投稿: IB | 2009年11月 8日 (日) 19時04分

IBさま はじめまして。
問題はそれなんですよ。
軍人は上官の命令に絶対服従。アメリカの最高司令官はオバマ。つまり文民統制ですね。
この点、国の方針に従わない空幕長とかイラクの隊長が存在した自衛隊よりはましだと思うんですが、どうでしょう?。

投稿: ましま | 2009年11月 8日 (日) 19時59分

問題点はもっと根深い。日本軍はシナ事変においても、今の米軍より平和的でした。それに日本の自衛隊員は、政府に異議申し立てはしてもクーデターなど全く考えていないでしょう。
米軍は、上官の命令に絶対服従という「建前」で動いています。ベトナム戦争時の大統領暗殺のように、必要とあらば上官さえ捨て駒にする「何でもありの国」

投稿: IB | 2009年11月10日 (火) 17時11分

>日本軍はシナ事変においても平和的 ??

515,226事件、永田軍務局長暗殺……

>ベトナム戦争時の大統領暗殺 ??

ケネディのこと?時期があいません。

話もあいません。

投稿: ましま | 2009年11月10日 (火) 21時28分

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