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2009年10月21日 (水)

アフガンの動き、急

 アフガンというよりパキスタンというべきか。とにかく地下でマグマが動き始めているような気がする。その理由を挙げる前に、わかりにくいアフガン・パキスタン問題を整理しておこう。

 ・タリバン 米軍が攻め込む前までアフガン政権を支配していたイスラム至上主義の勢力で、ソ連が侵攻してきた時には、アメリカの援助も得てこれを撃退した。サウジ人であるビンラディンと義勇軍アルカイダも、これに参加した。しかし、9.11テロの首謀者とされるビンラディンをタリバンの宗教指導者・オマルがかくまったことからアメリカとの戦争になった。

 タリバンと称される勢力は、強硬派から穏健派まで極めて多様で、カルザイ大統領は来月大統領選の決戦投票を迎えるが、すでにアフガンで8割近くの地域を支配下に置いているというタリバンとの話し合い路線は動かないだろう。

 ・TTP(パキスタン・タリバン運動) もともとタリバン育ての親は、パキスタンである。ヒンズー教国・インドと境を接するカシミールで厳しく対立する同国にとって、バックを支える強力なイスラム政権が必要だった。

 アフガン内でも過激派タリバンが存在し、依然自爆テロなどによる治安悪化が続いているが、犯行はパキスタン北西部を基地とするTTPとの疑いが持たれている。もちろん、カルザイ政権打倒をめざす他の勢力かも知れないが、ビンラディンとオマルはすでにアフガンから逃れ、パキスタン北西部にいるとされる。

 ・パキスタン北西部 アフガンで最大人口を擁するパシュトン人が多い国境地域であるが、ペシャーワルに州都を置く「北西部辺境州」と、北西部の南端に位置する「連邦直轄部族地域」ワジリスタンに分かれていること知っておくべきだ。そうでないと、新聞を見ていても混乱を起こす。法体系をはじめ、ほとんど国の統治権が及んでいないのが「直轄」と名を付けた後者の方なのだ。

 つまり、「パキスタン北西部の南ワジリスタンにパキスタン軍が猛攻を加え、住民が続々と直轄地域から北西部に避難している」などというと、北と南が混在してわけがわからなくなる。オマルや外国人を含む過激派は、TPPが本拠を置く南ワジリスタンの3千㍍を超える山岳部にいるとされている。

 さて前置きはこれぐらいにしておいて、いま述べたパキスタン軍の猛攻は、17日に開始された。これはパキスタンが01年に米国の「対テロ」同盟国にかじを切って以降、最大の軍事作戦である。同軍部はこれまで同盟関係にあったタリバンと対敵することには至って消極的であった。   

 この裏には、アメリカが共同作戦や核兵器の管理という強硬なムチと、膨大な援助というアメで、パキスタン政府に強圧をかけた結果であろう。作戦には3万人以上の兵士が配置されるというが、冬は雪に閉ざされ短期決戦は無理である。

 続けて奇妙なニュースがある(毎日新聞、10/20)。

 【カブール栗田慎一】パキスタンの有力英字紙「ニューズ」は19日、北西辺境州政府や軍部の情報として、パキスタン軍が反政府武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)との戦闘を続けている部族支配地域のアフガニスタン側国境で、米軍とアフガン軍が設けていた主要な検問所が半数以上も撤去されたと報じた。パキスタンでの共同作戦を求めている米国が、あえてアフガンのタリバン戦闘員の越境を容易にさせたとの見方も出ている。(後略)

 これはどういうことか。アフガンにいるタリバンに「パキスタンの本家が危ない」と思わせて、アフガンから自発的に追い払うためかか、パキスタン軍の猛攻を避けてアフガンへの逃げ道をあらかじめ用意、そこで絡め取ろうという「ねずみ取り作戦」か、どちらも考えられる。

 以前、このブログのどこかに「米軍増派はパキスタン向けか」と書いたような気がするが、もしそうなら、無人機以外にパキスタンに入れない、まさにマンガチックな米軍の高等作戦ということになるだろう。日本外交の対アフガン政策も心して当たっていただきたいものだ。

 

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コメント

アフガンと、パキスタンの動きは完全に連動しています。
アフガン大統領選挙前2万人以上増派したばかりのアフガニスタン駐留米軍のマクリスタ ル司令官が今年の8月に『1年以内に追加増派しなければ、この 8年の戦いが失敗に終わる』とオバマ米大統領(アメリカ)政府 に報告したらしいが、オバマは未だに熟慮中で増派決定は出していない。
これに対して共和党右派からは『優柔不断』と攻撃しているようですが、マクリスタ ル司令官の出したアフガン現地情勢に関する評価報告書の中身は非公開。
米紙ワシントン・ポストが非公開文章をすっぱ抜く訳ですが、これをリークしたのは誰かが興味深い。
ようは8年間戦って『アメリカ軍は負けている』と現地司令官から報告が来た訳です。
今『増派しないと負ける』ことが確実だが、増派しても勝てる見込みはどこにも無い。
遅いか早いかの違いだけで、『米軍撤兵』以外の選択肢はアメリカに残されていないが、オバマにベトナムからの撤兵をしたニクソンの判断が出来るかどうか。?
史上初めての敗戦の責任を取らされて(ウオーターゲートは口実では?)辞任させられたニクソン大統領の前例をどう解釈するかで、オバマの今後が決まると思います。

投稿: 逝きし世の面影 | 2009年10月21日 (水) 17時47分

逝きし世の面影 さま
 記事にみがきをかけていただき、ありがとうございます。

 毎日のガセは、朝日のガセと違っておもしろい。外電はたくさんのガセの中から真相をつくものがありそうで、目が離せません。

一番よくないのがべったりの従軍記者、次が命がけで現場をまわるフリー、首都の支局などにいて各種情報を集めるインテリジェンス記者の順でしょう。

 いい情報を捨てる権限を持つ優秀な?本社デスクも大問題です。出世がかかってますから。

投稿: ましま | 2009年10月21日 (水) 19時21分

ていわです。

 ましまさん、パキスタンのトライバルエリアにいるタリバンは、部族社会に守られているので武力で倒すことはできませんね。

 「トライバルエリア」から「北西部辺境州」というのは、最も危険な治外法権の地域だと言われていますが、タリバンを完全に排除している地域もあります。それは、アメリカにとっては認めたくないシーア派の地区なんです。Kurram(クーラム)という部族地域で、地図ではアフガンに張り出している場所になります。イランの支援があるだろうというのは、うがった見方で、単純に宗派の違いで友好関係が築けないということです。

 今度の南ワジリスタンの掃討作戦も、極めて限定的でメシュド部族の支配地域だけです。ここには、約1万5千のローカルな民兵がいますが、タリバンは他の部族地域に逃げてしまったでしょう。ローカルな民兵はタリバンのリクルート対象ですが、民兵であってタリバンではありません。
 ですから、この地域の部族長と和解しても、タリバンと和解することにはならないということです。
 現実に、和平合意している北ワジリスタンでは、パキスタン軍の駐留基地とタリバンのアジトが隣り合わせになっているようです。ニューヨークタイムズのWeb版にデービットロード記者の手記が掲載されていまして、タリバンから脱出した経路があまりにも短時間だったので、「なるほど」とパキスタンと部族社会とタリバンの関係を再確認しました。

投稿: ていわ | 2009年10月24日 (土) 16時20分

ていわ さま
さすがおくわしいですね。
たしかなことは、タリバンの定義があいまいなこと、アルカイダの実態が不明なこと、死傷者や無人機の爆撃やパキスタン軍との戦闘で死傷者や避難民が発生していることでしょう。

 アメリカはいろんなケーススタディーをして作戦を立てているのでしょうが、前途がサッパリ見えてきません。

 可能性が一番あるのは「ベトナム化」でしょうか。

投稿: ましま | 2009年10月24日 (土) 17時23分

ていわです。

 私もパキスタンの詳しい内容については把握していないのが正直なところです。基本的に外伝を精査しながら再確認をしている程度です。その外伝の一つであるニューヨークタイムズ紙の記者でさえ、タリバンに誘拐されてはじめて認識の甘さを痛感したと述べています。現地の情報が多すぎて麻痺していたのかも知れません。そういう意味では、情報を客観的に把握するのに、最前線といわれる現場に引きずられてはいけないということです。

 ベトナム化を繰り返すのかは、現場の声(軍隊の説明)に傾くのか、あるいは総合戦略で考えるのかということで決まるでしょう。当然、アメリカは文民統制ですから現場の声だけを重視するとは思えません。「サイゴン陥落」の悪夢を繰り返したくない。とは言っても起死回生はあるのか、あるいは再起不能なのか、いずれにしてもアフガニスタンにおける戦略も含めて、見直しには時間が必要となるかも知れません。


「アフガニスタンの農村部に占める人口は約76パーセントで、その多くが自給自足の農民です。政府機関や企業で働く労働者は10パーセントに満たない農業国家です。農村の約81パーセントには電気が通っていません。また辺境の地が多く農村の約41パーセントは幹線道路から6キロ以上離れたところで暮らしています」

 これは国連の持つ2000年のデータです。ところが国連の行った民生支援は、アフガニスタン南部の穀倉地帯に打撃を与えました。麻薬栽培が増加したのは、安く品質の良い外国産の小麦と競争できなかった。ただそれだけです。軌道修正はしていますが、一方で現場のデーターが生かされていない例となります。そして、タリバンは南部の穀倉地帯からアフガニスタン全土に勢力を拡大しました。

 こういう反省を含めて、アメリカをはじめとしたISAFが、次の段階に進むも退くも、各機関との調整や確認作業が必要になるのはいうまでもないでしょう。

 その中で日本は、政治的に日本の得意とした提案が求められています。鳩山外交の基本である「世界の架け橋となる」というのは国際紛争の解決にも当てはまることで、アフガニスタンはその試金石といえるのではないでしょうか。

投稿: ていわ | 2009年10月25日 (日) 11時43分

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