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2009年7月 2日 (木)

ヒトラーの宣伝と戦争

 戦争はなぜ起こるのだろう、日本が戦争にまき込まれることはあるのか、それを防ぐにはどうしたらいいか。当塾のかかえる究極の課題である。かつて、マルクス主義の国は戦争を起こさないという信仰があった。しかしそれは、革命の輸出のような形でいとも簡単に破られた。

 また、民主主義が完全に行われれば戦争が消滅するようなことも言われた。冷戦が終結し、自由・民主主義の守護神を自認するアメリカの支配が続いた中で、根拠薄弱なイラク戦争が引き起こされ、アフガン・パキスタンでの戦闘はまだ続いている。

 残念ながら民主主義で戦争をふせぐことはできない。それを端的に示してくれたのがヒトラーである。彼はワイマール憲法のもと、ナチス党国会議員の大量当選を果たし、国民投票で「総統」に独占的権限を与えることに成功したのだ。

 その手法は、彼の戦争観、宣伝術として『わが闘争』第6章戦時宣伝に彼独特の露骨さをもって示されている。このシリーズは遂に8編まで続けてしまったが、これらを取り上げたのは、小泉・安倍首相の時代に特に顕著になったわが国の右傾化が、意識はされていないもののナチス・ドイツ時代に一脈共通する点があることである。これを以て本シリーズの結論としたい。

 ヒトラーと「B層」で取り上げたことと重複するが、宣伝についてこのように述べている。

 宣伝はすべて大衆的であるべきであり、その知的水準は、宣伝が目ざすべきものの中で最低級のものがわかる程度に調整すべきである。それゆえ獲得すべき大衆の人数が多くなればなるほど、純粋な知的高度はますます低くしなければならない。

(中略)宣伝の学術的な余計なものが少なければ少ないほど、そしてそれがもっぱら大衆の感情をいっそう考慮すればするほど、効果はますます的確になる。しかしこれが、宣伝の正しいか誤りであるかの最良の証左であり、若干の学者や美学青年を満足させたどうかではない。

 宣伝の技術はまさしく、それが大衆の感情的観念界をつかんで、心理的に正しい形式で大衆の注意をひき、さらにその心の中に入り込むことにある。これを、われわれの知ったかぶりが理解できないというのは、ただかれらの愚鈍さとうぬぼれの証拠である。

 日本の戦時宣伝では、表層的に日中戦争では、「膺懲」など中国人を蔑視するような言葉が使われたが太平洋戦争では「鬼畜米英」となる。ヒトラーは、ドイツやオーストリアで行われた相手を嘲笑するようなマンガ宣伝を排し、後者を支持する。

 イギリス人やアメリカ人の戦時宣伝は心理的に正しかった。かれらは自国の民族にドイツ人を野蛮人、匈奴だと思わせることによって、個々の兵士に前もって宣伝が、恐怖に対する準備をし、幻滅を起こさせないように努力していた。

 このことは、国家的に行われなくても、人殺しの恐怖心をなくし、相手の命をを虫けらのように扱う訓練が、今でも新兵教育として経常的におこなわれているという。

 さらに第一次大戦の戦争責任についてこうのべる。これは田母神論文など日本の歴史修正主義と全く軌を一にする。ヒトラーは意識しながらの主張だが、日本には無知のまま押し出そうとする指導者がいることである。

 宣伝は、それが相手に好都合であるかぎり、大衆に理論的正しさを教えるために、真理を客観的に探求すべきではなく、絶えず自己に役立つものでなければならない。

 戦争の責任について、ただドイツだけがこの破局に責任があるのではない、と論ずることは、この観点からすれば根本的に誤りであった。かえって実際には、ほんとうの経過はそうでなかったにしても、事実そうであったように、この責任をすべて敵に負わすことが正しかったであろう。

このシリーズのバックナンバーはカテゴリ「歴史」をさかのぼってごらんください。09年6月15日「ヒトラーと歴史教育」が第1回です。

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