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2009年7月31日 (金)

アフガン、敵は誰?

 オバマの話し合い和平路線をよそに、アフガンには治安部隊を倍増させる計画がある(文末引用参照)。イギリスも、犠牲者急増と裏腹に増派の方向で、世論はこれに賛成しているという。なぜ、そういうことになるのだろう。

 来月行われる選挙を前に治安回復をはかるというが、それは当面の口実で、選挙後に撤兵ができることを保証していない。というのは、米英にとってまだ「敵」に勝っていないからだ。ブッシュのはじめたイラク戦争で撤兵を決めたのは、アフガンにその分をまわすという前提つきだった。

 そうしないと、「敵」を打ちのめすこともできない「腰抜け」、「卑怯者」ということになるのだ。大統領もそういったアメリカ人の好みに反する行動はとれない。もう一つ、テロ被害者意識と、従軍して戦死した人の遺族、さらには命がけで戦った退役・在郷軍人などの存在だ。

 後半の部分は、米英に限らない。そういった人たちの無念は晴らせない、犬死にだったのかというという声と、「愛国者」とか「売国奴」などという殺し文句が乱れ飛ぶ。しかし相手方にもそれと同じかそれ以上の論理があることを忘れてはならない。

 日本の太平洋戦争開戦直前、アメリカから日本軍の中国撤退を含む条件をハル・ノートで突きつけられ、東条が「日本陸軍全体の士気にかかわる、そのようなことができるか」と一蹴し、開戦を決定的にしてしまったことを思い出せばいい。撤退はそれほど難しいことなのだ。

 さて、それでは誰を敵(相手)にして戦っているのだろう。最初は、9.11やロンドンのテロの首謀者であり資金源であるとされるウサマビンラディンと、彼の元にあるテロリスト養成学校と世界的なテロ組織であるアルカイダだったはずだ。

 タリバン勢力は、それをかくまった当時のアフガン政権だったが、身柄を引き渡せというアメリカの圧力に悩んだ末、宗教指導者オマルの判断で、ムスリムの戒律「客人は優遇する」に従って拒否した。これが自衛権をおかすという理由づけで、アメリカに軍事行使をうながすことになった。

 戦闘は瞬く間に終わり、タリバンのかわりに亡命先からカルザイを帰国させ傀儡政権を作った。米軍と有志国軍がアフガン山岳地帯などしらみつぶしにウサマビンラディンとオマルを探したがでてこなかった。もうアフガン国内にはいないと見るべきだ。

 国境を越えたパキスタン側にいるとされているが、パキスタンはアメリカの同盟国で勝手に軍隊を越境させることができない。そこで無人機などを飛ばして隠れ家らしいところを爆撃しているが、効果がなく、多くの民間人を犠牲にしている。

 いまやパキスタンの反米感情は、アフガン以上になろうとしている。そのアフガンでは、タリバンがじわりと復活し、全国の7割がたを支配しているという。敵対していたカルザイでさえ、彼らと妥協をはかるしか安定は得られないと考えるようになっており、米軍の中にもそれを肯定する意見がある。

 アメリカにとって、「敵をかくまった者は敵」で、タリバンもテロリストも一緒にして区別していないかのようだ。たしかに彼らの中にはテロに走る者もいるだろう。しかし、タリバンの標的は戦争の相手である占領軍とその支援者で、世界や民衆を敵にしているわけではない。 

 米英がいう、治安悪化とはそのことを言うのであって、タリバンが民衆の支持を受けている限り、外国軍隊に対するレジスタンスは尽きそうにない。結局ベトナム化が避けられないということになる。ソ連は、1989年に軍隊を撤退させるまでの10年間で1万5000人の犠牲者をだした。当時の司令官は、「アメリカはこの教訓に学ぶべきだ」といっている(共同通信)。

 イラクでもブッシュは盛んに治安維持を言い続けた。そしてバグダッドなどの治安回復を自らの手柄にした。米国内にはそれでも引き揚げを不安視する向きが多かったが、オバマは公約を実現しようとしている。

 治安維持は、一義的に占領軍がするものでなく当該国にゆだねるべきものだ。異教徒である占領軍では、一時的に押さえつけても根本的解決にはならない。イラクも今後いかなる内紛が起きようと、それは自国の責任で解決すべきで、他国の軍事介入がいかに長期にわたり禍根を残すか、歴史が証明している。

 仮にアフガンで治安が回復したとしても、アメリカは「敵」に勝ったことにならない。するとこんどは、パキスタンを「敵」に軍隊を移動させなくてはならなくなるだろう。戦いの敵を見失った悲劇的運命がそこに待ち構えている。

 わが愛するオバマさん。アフガン増派よりもっと先にやることがあるでしょう。役に立たない日本政府のかわりに当塾から忠言します。

 【ワシントン大治朋子】ホルブルック米特別代表(アフガニスタン・パキスタン担当)は29日に会見し、治安の悪化が目立つアフガニスタン情勢について「アフガン軍や警察の増強が必要だ」と指摘、地元の治安部隊の一層の拡充が不可欠との考えを示した。

 現在、アフガンの治安部隊は国軍8万5000人、警察5万人の計13万5000人態勢。米メディアによると、アフガン駐留米軍のマクリスタル司令官は治安部隊を最終的に27万人に倍増することも検討している。(毎日新聞 2009年7月31日 東京朝刊)

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コメント

東条英機は昭和天皇に開戦の決定を伝える場面で感極まって泣き出したそうです。
真珠湾攻撃をした海軍も勝てる見込みが無いので開戦をしたくなかった。
天皇も勝つ確信が持てなくてしたくなかった。
東条(陸軍)も本心ではアメリカと開戦をしたくなかったが、立場上自分からは『戦争したくない』とは言い出せなかったので、誰もしたくないアメリカとの戦争に日本はやむをえなく巻き込まれてしまったらしい。
ドイツとは大きく違い、誰も確信を持って戦争に突き進んだものは一人もいない信じられない無責任構造。
日本中が何となく(やむをえず)開戦してしまい、
最期は東京大空襲やヒロシマナガサキやソ連軍参戦でやむをえず終戦を迎えている。
日本では誰一人自ら責任を持って開戦した者はいないので、戦争に負けても誰一人責任を取ろうとせず『一億総懺悔』の様に責任を曖昧にする。
作る会などは今でもあの戦争は『やむをえなかった』としているが,『止むを・得ない』とは言いえて妙。

戦争とは、誰かが責任をもって止めないと、みんながやりたくなくても日米開戦の様に意味も無く始まる。
ましてや、始まった戦争を誰かが止めるのはトンデモナく難しい。
今のアフガン戦争を見れば誰にでも判る恐ろしい教訓です。

投稿: 逝きし世の面影 | 2009年7月31日 (金) 17時31分

戦乱に明け暮れしたヨーロッパは第2次大戦後、不完全とはいえ多くの教訓の中から学んでいるように思えます。

 中でも大国より、スイスやベルギーなどのほうが先をいっています。一番遅れているのがアメリカと無責任国日本でしょうね。

 天皇は、開戦を回避するとクーデターが起きたかも知れないというようなことを発言しているようですが、それは皇道派でしょうか統制派でしょうか。とにかく天皇のいうように関東軍で代表される陸軍が諸悪の根元で、それに陸海の確執や右翼がからみ、まともな戦争ができる状態でなかったということでしょう。

投稿: ましま | 2009年7月31日 (金) 20時22分

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