IEAEと日本
国際原子力機関(IAEA)の次期事務局長に、在ウィーン国際機関日本政府代表部の天野之弥(ゆきや)大使が当選した。「日本は唯一の原子力爆弾による被災国である。よって、非核三原則の貫徹はもとより、原子力発電による事故や廃棄物処理などを考えると、日本は核問題から身をひくべきなのに原子力国際機関のトップに人を送るとはゆゆしい問題……」と考える人はさすがにいないだろう。
しかしそれに心情的には近い人が多いのではないだろうか。たしかに、アメリカの核の傘に関連して、核兵器を積んだ軍艦の日本寄港や海峡の通過などに日米密約があることを政府がいまだに隠していたり、原発立地や廃棄物処理など核についての不安要素が山ほどある。
その主因は、日本人の「核アレギー」に対する当局の「過剰反応」にあると思われる。俗にいうと「反対運動がうるさいので秘密にしておこう」という発想が、双方の不信感をさらに増幅し、ぎくしゃしゃくした関係を生んでしまったということであろう。
その結果、核・ミサイル兵器に対する正しい知識なしに、北朝鮮の脅威だけが先行したり、逆に核の傘を信頼しすぎたりする。また、現存する原発や増加し続けるプルトニウムの合理的処理についての議論や対策が進まず、方向感覚を失ったままだ。実は、これが一番こわいことである。
議論といっても誰にでもできることではない。専門的な知識を持つ科学者の協力がどうしても必要だ。それでなくても技術者不足、理科系教育の不振がいわれているおり、原子力関係に進む人材が払底するとなれば、明らかに国益を損ずることになる。
その意味からも、天野氏がIEAE事務局長として世界で活躍するというのは、最近にない朗報だ。核軍縮も基本線で米・ロ大統領の一致があり、これからの進展が期待される。核拡散防止でもIEAEの存在価値が高まり、脚光を浴びることになるだろう。
当塾は、以前から核に関する(兵器を含む)研究・議論を高めるよう主張していた。それが、たとえ自民党の前・中川外相の意見であろうと、久間元・防衛庁長官の発言であろうとその限りにおいては反対ではなかった。
天野氏の就任で、国際機関への関心が高まり、専門分野を目指す若者の数がふえ、同時に国内での核論議がアレルギーの免疫を得ることになるかも知れない。その結果、日本の軍縮主導や安全なエネルギー確保に議論が向かうという、建設的な効果を生むことができればその意義ははかりしれないものがある。
国際機関に身を置くということは、国家公務員ではなく国際公務員になるということである。世界の信頼を得るためには、特定の国の利益を代表してはならない。政府にしろ国民にしろ、天野氏の足を引っぱるようなことだけは避けなければならないだろう。
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コメント
天野氏はIAEAという国連の機関に対して、忠実にまじめに働くことは間違いないでしょう。それはIAEAが技術格差の解消問題を反映して事務局長選挙が混迷したからです。ですから、天野氏の当面の役割は、技術格差の解消ということになるでしょう。そうなると、各国に原発の建設を促進させるということで、IAEA本来の「核の平和利用」という錦の御旗で、核エネルギーの需要は一気に加速するかも知れません。
これは、環境問題、経済問題を網羅したエネルギー政策としてIAEA加盟国から歓迎されることになるでしょう。核兵器の廃絶が一方で語られ、もう一方で原発が世界中で建設される、結局核の危険性の上に私たちの暮らしが成立している現実は同じであるということです。
日本人は「核アレルギー」でちょうどいいのではないかと思います。
投稿: ていわ | 2009年7月 8日 (水) 22時06分
ていわ さま
こんにちは
コメントありがとうございます。天野さんは詳しく存じ上げているわけではないが、広島の秋葉市長が昵懇で支持されているとか。きっといい仕事をしてくれると期待しています。
アレギーがあればこそ、という面はありますね。その反面、症状が重くて害をもたらすのも困るし、温暖化防止には敏感でも、各種放射能拡散に鈍感なのもこまりものです。
投稿: ましま | 2009年7月 9日 (木) 12時10分