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2009年6月20日 (土)

ヒトラーと優生学

 臓器移植法改正案が18日に衆院本会議で採決された。海賊対処法案や国民年金法改正案もすでに周囲を通過、参院で否決されたものを19日の衆院3分2再可決で法が成立した。いずれの法案もマスコミ報道で「議論が不十分のまま」とか「国民の議論が尽くされていない中で」といった形容詞がつくのがこの頃の常態になっている。

 今回はヒトラーが『わが闘争』の中で人命や遺伝を論じている中から、一部を文末に紹介する。臓器移植法を考える際、かつて議論された優生学的見地や自然淘汰などをどう考えるか、とも関連させながら考えるべきだと思うが、「優生」がヒトラー、さらには人種差別、ジェノサイドと結びつけられ、優生学そのものがすっかり悪者にされて議論から遠ざけられた印象が避けられない。

 優生学とは、人類の遺伝的要素を改善することを目的として悪質な遺伝形質を淘汰し優良なものを保存することを研究する学問で、ヒトラーが生まれる前、1883にイギリスで始まった。日本でも学問として戦後まで続いていたものの、1948年に成立した「優生保護法」が、96年に「母体保護法」と名前そのものをかえてしてしまう。変更の中味自体は妥当性があるが、学問の基本となる自由な発想や、純粋な研究まで封印してしまう傾向があるのはどうかと思う。

 以下、ヒトラーがオーストリアからミュンヘンに移住した1912年以降の自伝の中に書き込んだものである。しかしこの頃はまだ、優生学とユダヤ人の大量虐殺を直接結びつけるような考えが表にでてこない。

 (前略)人間は生殖を制限するが、しかし一度生まれたすべてのものをどんな代価をはらっても維持しようとし、ひきつけんばかりにいっしょうけんめいになる。神の意志を訂正することが、かれには人間的であると同時に賢明であるように思える。

 そうしてもう一度ある点で自然を凌駕し、自然のたらないところを証明したと喜んでいる。もちろん実際には数を制限したが、これに対し個々の価値は低下されたのだということを、神の愛すべき小猿はもちろん好んで見ようともしなければ、聞こうともしないのである。

 というのはひとたび生殖自体が制限され、出生数が減少するやいなや、最も強いものや最も健康なものだけしか生きることを許されない自然的な生存競争の代りに、最も弱いものや、それどころか最も病弱なものも、どんな代価を支払っても「助け」ようとする当然の欲望、また自然と自然の意思を軽侮することが長ければ長いほどますます悲惨なものとならざるをえない子孫のために胚を残しておこうとする当然の欲望が、生ずるのである。

(前回までのヒトラーのシリーズは、カテゴリ「歴史」で見てください)

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歴史」カテゴリの記事

コメント

今回の脳死移植法ですが、欧米では当たり前でグローバルスタンダードと呼ばれているらしいが、新自由主義の『アメリカで行われているので日本でも』というグローバルスタンダードの医療版です。
脳死を人の死とする欧米の生死感は、キリスト教的な肉体は「塵から生まれて塵に帰る」ものにすぎず一段劣り、滅びる肉体ではなく不滅の霊魂(変わらない自我)だけが大事であると考える霊肉二元論的な宗教観が有り、この考えは体と心は一体と考える日本人には馴染まない。
脳死移植がアメリカで年間数千例で日本が二桁に達しない事情は、一神教とは違う日本人の根本的な生死感が有り、法律が成立したからと言って劇的に変化しない。

投稿: 逝きし世の面影 | 2009年6月21日 (日) 12時37分

当時、優生学はドイツ以外の欧米のキリスト教圏で広く流行っていた
アメリカでは『優生学』による強制断種法や有色人種との婚姻を禁止する法令が色々と作られている。

間違った学問(擬似科学)も間違いで、『優生学』は学問的には正しいが、道徳的に間違っていたのです。

投稿: 逝きし世の面影 | 2009年6月21日 (日) 12時50分

逝きし世の面影 さま
博識なコメント、いつもありがとうございます。死生観については、本当にそう思います。「科学」から「宗教観」まで取り込んだ分析、参考になります。
また、それだけに臓器移植など、問題の取り上げ方が難しいのでしょうね。A案、B案、C案などといったクイズの解答選びではすまされないように思います。

投稿: ましま | 2009年6月21日 (日) 13時22分

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受信: 2009年6月21日 (日) 15時24分

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受信: 2009年6月22日 (月) 10時31分

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