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2009年2月13日 (金)

新・マルサス「人口論」

 「マルサス」、その名を知ったのは、高校生の頃かもっと後だったか忘れた。関連のある著書を読んだ覚えもなく、きっと先生から聞いた話なのだろう。なんとなく、こんなことだ。

 戦時中、特高警察がある大学生の自宅に踏み込んだ。書棚にあったマルサスの『人口論』を見て、マルクスの『資本論』と勘違い、共産党員の証拠物件として得々として押収したという話。もうひとつは、そのマルクスはマルサスが大嫌いで、『人口論』はマルキシズムにより完全に論破されたという話だ。

 あとの話をもうすこしつけ加えよう。マルサスの人口論は、「子孫を多く残したいという人間の欲望から等比級数的に人口が増えて限りがない。これに対して確保しなければならない食糧を生産する土地は有限で、等差級数的にしか増やせない、そこで人類は、奪い合うための戦争や飢餓・暴動が避けられない」というものだ。

 これに対してマルクスは、「革命で労働者・農民・インテリゲンチアが権力を握れば、すべての生産や消費が人民の計画に基ずくものとなり、自然を改造することで人類は発展する」といったかどうかわからないが、19世紀、20世紀中はマルサス理論が立証されるようなこともなく、スッカリすたれたものだと思っていた。

 ところが、ここに不気味な「新・マルサス論」が再び頭をもたげてきた。ポーランド人ジェノサイド学者、グナル・ハインゾーンの『自爆する若者たち』(猪股和夫・訳、新潮選書、2008/12)がそれだ。豊富な国・地域別、年齢別統計と、大小の戦争、虐殺、飢饉、暴動、移住などを結びつけて例示しているのを見てぞーっとしない人はいないだろう。

 ことに、現在進行形のパレスチナ・ユダヤ問題、イラク・アフガン問題などは、オバマ流の「スマート・パワー」的発想に対し、非情なまでに水をかける論調である。マルサスとの最大の違いは、人口増は食糧問題とは関係なく、15歳から29歳までを戦闘能力を有する「軍備人口」としている点だ。

 それを「ユース・バルジ」と命名しており、パキスタン、アフガニスタン、イラク、サウジアラビア、ソマリア、パレスチナなどイスラム圏各国におけるその比率が、これからも世界で最高のレベルを維持すると説いており、「軍備人口」が猛威をふるうとしている。

 ちなみに、同書では、最近5年間の15歳未満の人口が30%を超える国を「ユース・バルジ国」としており、上記イスラム圏各国はすべて40%を超えている。同書の全体を通じた分析やそこから出した結論は、ハード・パワーそのもので、リーズナブルなものとはいえない。やはり「新・マルサス論」をでるものではない、と言っておこう。

 以下、日本と関係しそうな周辺各国の同書による「ユース・バルジ度」を参考までにかかげる。太字はユース・バルジ国、細字は戦闘敗退国あるいは人口失敗国として、ユース・バルジ国の移民や労働力を受け入れるべきい国だとしている。

 また、中国と北朝鮮を日本最大の脅威と見なす諸兄姉にご安心いただけるよう、最後に参考文を引用しておいた。

■インド=33% 中国=24% インドネシア=31%
パキスタン=40% 米国=21% ブラジル=28%
バングラデシュ=34% フィリピン=37%

ヴェトナム=32% ロシア=16% イラン=32%
日本=14.5% 朝鮮(南・北)=22% タイ=24%
ビルマ=29% マレーシア=34% 
カンボジア=41% 台湾=21% モンゴル=32%

(以下引用文)
 中国の2003年の15歳未満の男子は、1億6500万強であるが(女子は1億5000万弱)、そこにはユース・バルジは存在しない。年少人口の総人口に占める割合が24パーセントにすぎず、30パーセントに満たないからだ。
 
 中国における就業者と年金生活者の割合は、1995年の10対1から2050年には3対1に下がるという(WorldBank1997)。そのとき、老齢者の生活を支える年金を稼いでくれる人がどこから現れるのかは、誰も知らない。第一世界以外の15歳未満の男子9億人の中に目下のユース・バルジ事例を探っていくとき、中国はむしろ除外されるのだ。

 そのことは、アメリカの戦略家が中国が敵となるかパートナーとなるかを評価するにあたって、ユース・バルジの破壊力に較べれば、脅威となる懸念は小さいとする見方が支配的であることの根拠となっている。 
 

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コメント

他の哺乳類は食料の増減は個体数の増減に直結していてマルサスの人口論が当てはまる。
しかし『産めよ増やせよ』が国策だった戦前はそれ程産まなかったのに、皮肉な事に日本人が一番子供を産んだのは敗戦直後の一番食料事情が悪かった時。
マルサスの人口論は当たらないが、日本の例や、ボルポトの大虐殺を経験したカンボジアの例を見ると、人間は危険に遭遇して、自分の生命の危機を感じた時に子孫を大勢残すようです。
植物でも同じで、年に一度しか花を咲かさない種類でも水不足で葉っぱを全て落とした後には突然狂い咲きして実をつけ子孫を残そうとする。
生命の摂理ですね。
イスラエルは圧倒的な軍事力でパレスチナ人を情け容赦なく殺害するが、多分その影響で、殺される側のパレスチナ人の女性は6人近い子供を生み、対するユダヤ側はその半分にも満たない。
幾等イスラエルが軍事で頑張っても、このままの状態が続けば今世紀中には人口で完全にパレスチナ側が圧倒するそうです。

投稿: 逝きし世の面影 | 2009年2月13日 (金) 17時43分

マルサスもそうですが、おぞましいのはそれが一面の真理をついているからです。
しかし、計算どおりいかないところが神(信じていない(^-^))の摂理ですかね。

投稿: ましま | 2009年2月13日 (金) 19時56分

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